『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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この話を投稿する直前に、第0話を追加しました。
補足のようなものなので、無視してくださっても結構。


第5話

箱庭病院跡地に突入した5人は、まず鶴喰や贄波と同じく黒神家分家である寿常套からスタイルの洗礼を受けた。

彼女を撃破した直後に現れた同じく分家でありスタイル使いの杠かけがえ。

めだかが彼女の相手を受け持つ間に残る4人は先へと進む。

 

そして彼らを迎え撃ったのは不知火半袖。

彼女はこれ以上めだかたちを傷付けたくないと、彼らを諦めさせるために球磨川に交渉を持ちかけた。

しかし悪辣さで彼に敵うはずもなく、徹底的な敗北を思い知らされた上に必死に隠していた自分の本心すら暴かれてしまった。

 

球磨川と善吉が不知火と向かい合っている間に、鶴喰と贄波は鶴喰博士の元へと辿り着く。

生き別れ死に別れた親子の対面。

しかし鶴喰梟という男は、どうしようもないクズだった。

 

「気をつけろよ我が息子。

 お前の命は鴻毛より軽いが俺の命は地球より重いんだぞ?」

 

挑んできた息子をズタボロにした上で、彼はこう言い放った。

 

彼は姉を、鶴喰鳩を心から尊敬し愛していた。

しかしあまりに苛烈な姉を見てこうも思った。

『もう少し鳩姉が優しくって、愛に満ちた性格だったら良かったのに』。

だから彼は彼の知る限り最も愛に満ちた男である黒神舵樹と姉を結婚させ、理想的な女性を作ろうとした。

それが黒神めだかだ。

しかしめだかは姉以上に苛烈で、義兄以上に愛に満ちていた。

博士は父親のようにめだかを愛したが、性善説を押し付ける彼女に付き合いきれず押しつぶされてしまった。

そうこうするうちに、肝心の姉は過労で亡くなった。

 

だから彼は、さっさと諦めて代替品を求めた。

遺伝子的に姉に近い自分の子なら育て方次第ではと考えたが、生まれたのは娘ではなく息子だったのですぐに育児と計画を放棄した。

そして次の代替品が、箱庭学園にて黒神めだかの影武者を務めた不知火半袖だった。

スタイルは、彼女を手に入れるにあたり邪魔になる言彦を排除するために生み出されたのだ。

 

彼は常に妥協し、代理品で自己満足を得てきた。

その結果傷つく周囲の者たちのことなど考えもせずに。

 

「今の世の中『それっぽいもの』ばかりじゃあないか。

 『すごいこと』より『すごい空気』が幅を利かせ、

 『楽しい』より『楽しそう』がぶいぶい言わせる。

 天才よりも天才のフリがうまい奴が評価される世の中だ。

 時代が求めているんだよ。合成着色料を」

 

彼の言葉は、この場に来たばかりの善吉、球磨川、不知火にも聞こえていた。

 

「いいじゃないか、俺は好きだぜ。

 安物偽物粗悪品。

 気軽に扱えるし壊れても惜しくないし無くしても平気だし。

 何より、飽きたら捨てられるところがイカしてるぜ」

 

それは人が人に下していい評価ではない。

まさしく彼もまた『人でなし』だった。

 

「がっ!?」

 

だから彼女の逆鱗に触れた。

 

「なっ!?アンタは……ヒノカミ!?」

 

鶴喰博士の背後に現れたヒノカミが、彼の首を掴んで持ち上げていた。

 

「な、なんでアンタがここに!?

 もうどっか行っちまったんじゃなかったのか!?」

 

「折角治したお主らが早々にまた壊されては寝覚めが悪いからの。

 すまぬが尾行させてもらっていた。

 事が終わるまで手は出さぬつもりじゃったが……子供が助けを求めたのじゃ。

 これを見過ごせば、儂は儂を許せぬよ」

 

彼女は不知火の叫びを聞いていた。

『学園に戻りたい、言彦なんか継ぎたくない、博士と結婚なんてしたくない、助けて』と。

それは善吉への言葉だった。ヒノカミには関係ない。

だが『泣いて助けを求める子供がいる』。それだけで彼女は命を懸けることができる。

だからこそ彼女は英雄であり、仮にとは言え『ヒーロー』だったのだから。

 

「しかしそれ以上に許せんのはこのゲスよ。

 まさかなじみの他にもこんな奴がおったとはな……!」

 

「……!……!?」

 

細腕からは想像もつかない力で首を絞めつけられている博士は、声を出すこともできない。

声を出せなければ言葉は出せない。つまりスタイルは使えない……わけではない。

スタイルの本質は振動。共鳴・共振・共感作用によるものだ。

もっとも扱いやすいのが言葉であるというだけで、声を封じられていても使える。

だから彼はスタイルでヒノカミに抵抗しようとした。

そしてスタイルがヒノカミに通じないことに困惑していた。

 

「本気で怒っている人間には通じないんだよ。言葉(スタイル)は」

 

「……!?」

 

その答えを明かしたのは、独力でスタイル使いとなった鶴喰鴎だった。

コミュニケーションの技術だからこその弱点。

相手に話を聞く気が無ければ『話にならない』。

 

思い通りにならないことに向き合わず、すぐに代わりの何かを求め、『それっぽいもの』で妥協し続けてきた博士は、今まで『一度も怒ったことがなかった』。

だから自分でスタイルを開発しておきながら、そんな単純で致命的な弱点すらも理解していなかったのだ。

 

スタイルは確かにスキルに匹敵する強力な力だが、ヒノカミとはあまりにも相性が悪かった。

何故なら彼女は怒りっぽくて、頑固で、自分勝手で……『人の話を聞かない』。

『スキル』なら言彦は倒せないが、ヒノカミは倒せる。

だが『スタイル』では言彦は倒せても、ヒノカミは倒せない。

 

「……なるほど。貴様の身体、そういうカラクリか」

 

「……!!」

 

彼が困惑している間に、ヒノカミは博士の身体の構造を把握し終えた。

彼は3年前に心臓を貫かれ死んでいる。

それでも彼がまだこうして生きているのは『スタイル』の力。

振動により全身の筋肉を収縮させ、心臓の代わりに血液を循環させていたのだ。

そして今、スタイルを無効化するヒノカミに掴まれていることで彼の全身の振動が見る見る弱まっていく。

このままでは1分持たず死亡する。

しかしここで彼を開放するなど論外。

 

「いや……貴様には死すら生温い」

 

彼女は自身の持ち霊『スピリット・オブ・ファイア』を具現化した。

念入りに巫力を込め強固に実体化されたそれは、霊感のない善吉たちでも目視することができた。

 

「なんだ、化け物!?……デケェ!?」

 

廃病院の天井と壁を壊して覗き込むその姿は、まさに山のような大きさだった。

 

成長停止のスキルを植え付けられ、拘束され封じ込められていたヒノカミだが、彼女は来る日のために爪を研ぎ続けていた。

彼女が封印されていたのは光も音もない闇の世界。

それは奇しくも、シャーマンの世界における麻倉家の修行場『ヨミの穴』と酷似していた。

『死の疑似体験による巫力の増大』。

『絶飲絶食』がある限り巫力が尽きることはない。

なので増大した巫力を自身と持ち霊の霊力強化につぎ込み続けることができる。

それを彼女は四千年行ってきた。

彼女に預けられた『ベビー・オブ・ファイア』はもはやオリジナルを超えた、究極の炎の精霊とも言える姿にまで進化している。

 

「炎の大精霊。

 霊を喰らい、その身を更に燃やし続ける炎の化身。

 わかるか?……こ奴は『灼熱地獄』そのものよ」

 

「!?」

 

ヒノカミが腕を持ち上げる。

博士が必死に抵抗するがヒノカミはびくともしない。

やがて彼の目の前には、大口を開けたスピリット・オブ・ファイアの顔があった。

 

「喰っていいぞ」

 

「――!!」

 

『……』

 

スピリット・オブ・ファイアはヒノカミの腕ごと噛みつき飲み込んだ。

無くなった二の腕から先を、彼女はすぐに自分の術で再生した。

 

「地獄の業火で焼かれ続けるがいい……燃え尽きるまでな」




『不老所得』は『成長停止』のスキルですが、詳細設定がないのをいいことに対象は肉体だけとしています。
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