「すまなかった……お前がこんなになるまで、待っていてくれたというのに」
「げっげっげ……儂もだ。
ずっと同じ土地にいながら、ついぞお前の存在に気付けなかったのだから」
言彦はヒノカミにもたれかかるように抱き着いている。
そしてヒノカミもまた、彼の背に腕を回し抱きしめる。
「最初は……もう一度会いたかっただけだったのだ」
「……あぁ」
「だが今度こそお前を守れるようにと続けてきた修練が……いつしかただ力を振るうだけになってしまった。
挙句お前に敗北した記憶と混ざり合い、戦う相手を間違える始末だ。
儂はなんと情けなく、古臭い男よ」
「……そんなことはない」
「不知火の者たちの同意があったとは言え、他人の人生を奪う方法をお前が認めるはずもないともわかっていた。
それでもお前に会いたかった。
お前を待っている者がいるのだと教えてやりたかった。
……お前に『おかえり』を言ってやりたかった」
「っ!ああ!
『ただいま』……『ただいま』……!」
鬼の目にも涙。
だが彼らは鬼と呼ばれ続けてきたが、人間だ。
弱くて情けなくて、一人では生きられない、どこにでもいる人間だ。
「ひゅ~ひゅ~!お熱いねお二人さん!
ささ、ここは遠慮なく『ぶちゅ』っと一発……ぶべらっ!」
「いい加減になさいな贄波!!」
「流石にアンタ空気ってもんを読みなさいよ!!」
『適当に生きているだけの奴』を自認する贄波は、速攻で杠と寿に鎮圧され地面と濃厚なキスをする羽目になった。
同じ黒神分家であるが、コレと同じに扱われては彼女らもたまったものではないだろう。
「……かかか。
生憎儂らはジジイとババアでな。
そういうのは貴様ら若人でやってくれ」
「げげげ。
女子高生は色恋沙汰に目がないとは聞いていたがこれほどとは。
あまりの目新しさに儂の目も思わず飛び出すところであったわ」
「「「「コイツは例外です。一緒にしないでください」」」」
戦いの終わりを見届けたところで、白蛇がめだかたちを乗せたまま言彦たちのところに戻ってきていた。
そうして3体の霊獣はヒノカミの中へと還り、ようやく彼女はすべての力を抜く。
「……やはり駄目か。
すまない、私の力不足だ」
めだかがスキルで満身創痍の二人を治療しようとしたが、できなかった。
言彦の破壊を受けたヒノカミの傷も、言彦の身体そのものにも、スキルが効かない。
「謝るな黒神めだか。謝るべき誤りは儂にある。
そして感謝している。
お前が半袖を取り戻そうと不知火の里を尋ねなければ、儂とこ奴が出会うことはなかったかもしれぬ」
「いや、我々も安心院さんの意志を継ぐ者として謝罪する。
あなた方を引き裂き、平穏を奪ったことを」
「そ、それだったらアタシら不知火だって!
ヒノカミを封印して、知らなかったとはいえ言彦に知らせずにいたんだから!
その……ごめんなさい!!」
「……げっげっげ。
安心院なじみ当人でもなく、当時の不知火でもない者にまで当たるような真似はせぬ。
だがお前たちの謝罪は受け取った。もう背負うな」
そういって下げられていた不知火の頭を優しく撫でる言彦の姿は、まさしく高潔な武人のようだった。
これが五千年という時で変質する前の、安心院なじみが『完全なる人間』というイメージを抱いた、『獅子目言彦』という人間の本来の姿なのだろう。
「で、結局もう不知火の身体を奪うつもりはないってことでいいんだよな?」
「無論だ。もはや生にしがみつく理由もない。
後はこの体に残る寿命を全うするのみよ」
「『そっかー。よかったー。
だって実情はともかく『大人の男が未成年の女の子の身体を狙う』って字面にしたら最悪だし』」
「テメェも贄波と大差ねぇぞ球磨川!」
「がーんっ!なんて酷いこと言うんだ人吉!
贄波さんは深く傷ついたよ!?慰謝料を請求する!!」
「『……すごいや。
自分より下だと思う相手から下だと思われてるって、こんなにキツイことだったんだね』」
するとそこで球磨川の携帯の音が鳴る。
「『おっとごめんね。もしもし?
……うん、わかったよ武器子さん。
めだかちゃんに変わればいいんだね?』」
「球磨川お前月氷会ともアドレス交換してんの!?」
月氷会とは『月下氷人』会の略称、つまり『仲人』の会。
黒神家の跡取りは代々7つの分家全てを婚約者とするしきたりがあり、その中で誰が正式な婚約相手となるかを決めるための争いが『漆黒宴』。
月氷会とはその宴を取り仕切る組織である。そして兎洞武器子は月氷会の組織の一員だ。
三年前に行われた第一回漆黒宴にて鶴喰博士が勝利したことで彼は婚約者兼義理の父として黒神めだかと関わった。
そして先日行われた第二回漆黒宴にて、めだかたちは鶴喰を除いた他の婚約者、スタイル使いたちと面識を持った。
「ご無沙汰だな、武器子さん。
……ん?なんだか通話が遠いな?
どこからかけておるのだ?海外か?」
『ご名答、海外です。
正確には赤道直下黒幕島……黒神宇宙開発センターですよ』
そこは第二回漆黒宴にて決勝の舞台となり、寿と杠、そしてこの場にいない桃園とめだかの4人が競い合った場所だ。
もっとも本来の舞台は宇宙開発センターではなく、そこから向かう予定の『月』だったという話だが。
『で……なんと言いますか。そのお月様なのですが……』
そこで武器子が一旦言い淀む。
スピーカーモードにしてはいないが、彼らの会話はここにいる全員が聞き取ることができていた。
『現在地球を目掛けて、超高速で落下中です』