『代われ。
聞いた通りだ黒神。そちらの状況はおよそ読めておる。
鶴喰博士が死んだのであろう?
『これはそれゆえの出来事だ』と言えば、汝にはこちらの状況がおよそ読めるであろうな』
「桃園喪々……!」
武器子と共にいた、分家の桃園が彼女の電話を奪い、明かす。
これこそが鶴喰梟、スタイルの開発者である彼の真のスタイル。
己の死後に発動する末期の
『遺言使い』。
彼は再び目的を果たせず死ぬようなことがあるなら、地球全てと心中する腹積もりだった。
思い通りにならないことと向き合わない彼は、思い通りにならない世界はいらないと、ついに世界すら見限り切り捨てる。
桃園たち黒神分家の者たちは、事実上地球全てを人質に取っていた彼にやむなく従っていたのだ。
『聞けば汝は黒神家の家長を継いだそうだの。
ならば吾輩が今なぜこんな話をしておるかもわかるであろうな……』
「わかっておる。黒神家の家長は……死ぬのも大切な仕事のうちだ」
安心院なじみがいなくなった今、今の世に月をどうにかできるとしたら黒神めだかしかいない。
彼女はまだ未成年、本来はそのようなことに命を懸ける義務などないが、彼女は博士の所在を知るために父に反逆し、黒神家の家長の座を奪い取った。
よって彼女には家長としての義務が存在する。
「私の現在地は箱庭病院跡だ。今すぐ迎えを寄越してくれ。
それから一人乗りのロケットの準備だ。
できるだけ早くできるだけ軽くだ……当然帰りの燃料は積まなくてよい」
彼女は黒神家の家長として、鶴喰梟の義娘として、すべての責を負って死ぬつもりだった。
しかし彼女が通話を切る直前に横から伸びてきた腕が電話を奪う。
「その必要はない。鶴喰梟を殺したのは儂じゃ。
あの月は儂が破壊する。
貴様らは指をくわえて見ているがいい」
「ヒノカミ!?」
そしてかけなおすこともできぬよう電話を握り潰す。
「ほざくなよ小娘。
世界の命運を背負うには、貴様はまだ若すぎる。
命を散らすのもな。これは大人の仕事じゃ」
「だが月だぞ!?いくらアナタでも……ましてその体では!」
本来不可逆の破壊である言彦の攻撃を受け、ボロボロにされているのだ。
スキルによりエネルギー切れがない彼女だが、どれほど力を注いで治癒能力を使っても完治するまでに時間がかかる。
万全の状態に戻すなら、確かに1日は安静にしておきたいところだ。
「なぁに、こんな状態での戦など、儂は幾度となく超えてきた。
最悪この身の内なる炎を全て解き放てば全て消し飛ばせる。
そして儂はまた、巡るだけじゃ」
「げっげっげ、そうはさせぬがな」
決死の覚悟を決めたヒノカミの肩を抑え、もう一人の英雄が力強く立ち上がる。
彼もまた疲弊しているが、少なくとも外見上の傷は全て消え去っている。
「次こそお前を守ると誓った。
儂がおる限り、死ねるとは思わぬことだ。
それに儂は『破壊者』だぞ?
お前一人に儂以上にでかいものを『破壊』されては沽券にかかわるのでな」
「……貴様が死ぬぞ?」
「げっげっげ!元より死んだ身である!!
何より……英雄の最期としてはこの上ない舞台ではないか!!」
愛する者との再会を果たすことができた。
思いを伝えることができた。
そして愛する者と世界を守って散れるというなら、まさに男の本懐である。
……体を奪ってきた不知火の者たちに報いるためにも。
彼らの命が無駄ではなかったのだと証明するためにも。
「儂の五千年は、今日という日のためにあったのだ……死ぬにはいい日だ」
「……わかった、行こう」
そうしてヒノカミは赫烏封月を具現化させる。
ただの鳥なら空気がない宇宙まで羽ばたけるはずなどないが、これは疑似オーバーソウルとも呼べる具象体。
この巨大な怪鳥は内なる炎を推進力として、宇宙の果てまででも飛んでいける。
「ま、待って!言彦!!」
「半袖。お前はもう自由だ。
何ものにも縛られず心のままに生きよ。
不知火の者たちに伝えてくれ。『今までありがとう』とな。
……そして少年、名をなんと言う?」
「オレか!?
……善吉。オレは箱庭学園生徒会長、人吉善吉だ!」
「……人吉善吉。お前は手放すな。
愛する女を掴んで、決して手放すな」
「っ……カッ!言われるまでもねぇぜ!英雄サンよ!!」
そして言彦もヒノカミに続き、八咫烏の背に飛び乗る。
「げっげっげ……現代っ子諸君!世話になった!」
「我ら老兵は今度こそ去ろう。これからは主ら若者が、この世界の明日を切り開いて行け!」
「「「はい!!」」」
二人の古き英雄が旅立っていく。
若者たちがこれから歩む、新しい世界を守るために。
次回、第六章完結です。