『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第10話

「げっげっげ……こうして間近に迫ると、月とはなんと偉大なものよ。

 人がここまで飛び立てるようになったというのだから、現代の科学とやらも侮りがたいではないか」

 

「かっかっか。儂は月に来るのは二度目じゃな。

 無論、こことは別の世界であるが……」

 

八咫烏は大気圏を超え、落下する月の手前まで来ていた。

二人の視界一杯に月の大地が広がる。

間もなく月の全体像すら見えなくなるほど接近するだろう。

 

ヒノカミはすでに武装錬金を発動させている。

シルバースキンほどではないが、これにも宇宙服としての効果がある。

言彦の身体にはあらかじめ酸素を媒介としたオーバーソウルを纏わせている。

これで彼が宇宙線や酸欠で死ぬことはない。

 

「さて、どう破壊してくれようか。

 げっげっげ……破壊手段で悩むとは我ながら新しい」

 

「ひたすらに攻撃して吹っ飛ばすしかあるまい……が、どちらかと言えば問題は二次災害じゃ。

 まだ距離があるとはいえただこれを破壊するだけでは、その破片が引力で地球に引かれ、地上へと落下し大災害を引き起こしかねん」

 

ただ破壊するだけなら簡単だ。巨大化した卍解を振り回して滅多切りにすればよい。

だがそれでは多くの破片が残ってしまう。

 

「むぅ……それはいかんな。新しくない。

 お前は一人でどうするつもりだったのだ?

 参考として聞きたい」

 

「うむ、まずは……オーバーソウル!

 『スピリット・オブ・ファイア』・イン・『鬼相纏鎧』!

 甲縛式オーバーソウル『輪廻天照』!」

 

両肩に巨大な一対の副腕を持つ鎧をまとった炎の巨人が、八咫烏から熱を吸い取って実体化しその背に座す。

 

「げっげっげ……相変わらず何度見ても神々しく新しい姿よ」

 

『知っておろうが、この姿の儂は更なる剛力を誇る。

 そして儂の領域の大きさは発動時に込めた力に比例する。

 この巨大な腕を使えば月を覆い尽くす大きさの領域を展開できよう』

 

しかし領域の維持に力を割いてしまうので、他の力を使う余力が大きく減る。

エネルギーが無限であっても、一度に振るうことができる力には上限があるのだ。

 

『後はこの身の熱全てを開放し自爆、跡形もなく蒸発させるつもりであったが……』

 

「……」

 

『わかっておるさ……『白鎖彗星』!』

 

『ジシャァァァアアアア!!』

 

巨大な白蛇が巨人の身体全体に巻き付いた。

 

『最後まで足掻く。

 不足する破壊力をお主に補ってもらう。

 お主は月に降り立ち、ただただ殴れ。

 儂は残る力を全て注ぎ月に砲撃を加え続ける。

 お主に構わず、加減せず、粉々になるまですべてを破壊し尽くす。

 ……覚悟は良いか?』

 

「……げっげっげっげ!!」

 

ヒノカミの攻撃は減衰されるとはいえ、言彦に通る。

月を破壊するほどの砲撃を受け続けるとなれば……彼に命はない。

 

「あぁ構うな!

 お前に気遣われたとあっては我が一生の恥よ!

 この偉大なる月……まさに『獅子目言彦』の最期の敵に相応しい!!」

 

そしてもう彼らの眼の前にまで月が迫ってきていた。

もはや問答する時間もない。

 

『……行くぞ!!』

「おうよ!!」

 

衝突する直前で言彦は月に飛び移り、八咫烏は進路を変え月を躱した。

 

『……『刻思夢想』!!』

 

両肩の巨大な副腕が掌を叩きつけた。

以前は自分を中心にしてしか発動できなかったが、今では自分が内側にさえいれば起点をずらして球状の領域を展開することができる。

そして月全体を領域の内側に収めた。

月が領域にぶつかり、地球への接近が阻まれると同時に接触面にひびが入る。

 

「げげげげげげ!!」

 

言彦はそのひび割れに飛び込み、ひたすらに大地を砕き掘り進み続けた。

そして巨人を乗せた八咫烏は月の反対側に移動する。

 

『ジィィシャァァァアアアア!!』

 

掌を合わせたままの巨人に巻き付く大蛇がその身をうねらせ、全身の突起を前方の月へと向けた。

更に巨人の頭上に伸ばした口が開き、すべての砲口に霊力を集中させる。

大蛇の頭に浮かぶ円環が光り輝き、高速で回転し始めた。

 

『……一斉掃射ァ!!』

 

『シャァァァァアアアアアア!!!!』

 

巨人の全身から放たれた無数の光線と巨大な砲弾が、ひたすらに月へと降り注ぐ。

破壊の雨は目の前の全てが塵となるまで止むことはない。

そこにいる、たった一人の人間諸共。

 

 

 

――――……

 

 

 

『……げっげっげっげ!

 あぁ満足だ!ついに儂は、月をも破壊した男となった!

 こういう時は、こう言うのが新しいらしいぞ?

 『我が生涯に一片の悔い無し』!!』

 

「……なぁんで霊子のない世界で霊体維持しとるんじゃ貴様は……」

 

『カァー』『シャー』『……』

 

月は跡形もなく破壊された。

言彦の残骸も見当たらないほどに。

ヒノカミが消沈と共に武装錬金とテリトリーを解除したところで、ふらりと現れた言彦の霊体が満面の笑みでこのようにのたまうものだから、その規格外っぷりに彼女も彼女の持ち霊たちも呆れ果てていた。

 

「……なぁ、言彦。

 それだけはっきり霊体があるのなら……蘇生できるかもしれんぞ?」

 

かつてはある程度は遺体が残っていなければ無理だったが、膨大な霊力を持つ今なら魂さえ無事なら情報を読み取って一から肉体を再構成できる。

言彦には蘇生術の効きも悪いだろうが、全力で取り組めばおそらくなんとかなる。

 

『……不要だ。儂はもう十分以上に生き過ぎた。

 これ以上生き恥を晒しても、これ以上の死に場所には出会えまい!げげげげ!』

 

「……そうか」

 

落胆はない。

ヒノカミの知るかつての言彦ならば、そう言うのではないかと思っていた。

 

『では地球の連中に我らの活躍を伝えてやるとしよう!

 さすれば英雄『獅子目言彦』の名は語り継がれて生き続ける。

 それで十分だ。げげげ』

 

「それはお主に任せるわい。儂はこのまま行く。

 万が一にも不知火の連中がまた儂を保管しようなぞ企ておったらたまらんからな。

 それに……アイツにはもう会いたくない」

 

『……あぁ』

 

言彦が死んだことで『不可逆の破壊』も『可逆』となったようだ。

言彦との喧嘩で受けた傷の治りが早くなったことで確信した。

いずれ安心院なじみも勝手に蘇るだろう。

いくらかまともになったようだが、もう一度アイツと顔を合わせれば自分を抑えられる自信がない。

だから彼女が復活を果たす前に、彼女が追ってこれない平行世界へと旅立つことにした。

 

「……言彦。手を出せ」

 

『ぬ?こうか?』

 

ヒノカミが差し出した掌の上には、言彦が送った水晶の首飾りが置かれていた。

言彦はその上に右手を重ねる。

すると言彦は自分の魂の一部がその水晶の中に取り込まれていったような感覚を覚えた。

 

『これは……』

 

「この世界の人間であるお主を異界へ連れていくことは、おそらくできぬ。

 じゃが霊体の欠片くらいならなんとかなるじゃろう。

 お主の魂は、儂が一緒に連れていく。

 お主の心は、これからも儂と共に在る」

 

『……げっげっげっげ!!

 あぁそうとも!儂の心はお前に預ける!

 そして我らの旅は、これからも新しく続いていくのだ!!』

 

「……くくく」

 

『げ~っげっげっげっげっげ!!!!』

「か~っかっかっかっかっか!!!!」

 

ひとしきり笑い合ったあと、ヒノカミは目尻に溜まった涙を拭う。

 

「では、行く。

 この世界に戻ることはおそらくあるまい」

 

『あぁ。儂もこの状態を永遠に維持できるわけではないだろう。

 仮にお前が戻ったとしても会えるとも限らぬ。

 息災でな、ヒノカミ』

 

「……名前を」

 

『ぬ?』

 

「名前を、呼んではくれないか?」

 

『……』

 

 

『さらばだ六道リンネ。儂が生涯愛した女よ』

「さらばだ獅子目言彦。儂が唯一愛した男よ」

 

 

ふわりと少し距離を取り、リンネはスキルの発動を宣言した。

 

 

「……『書国漫遊(ジャンプワールド)』」




第六章『安心院なじみの世界』編。これにて完結です。
最終章を前に、設定をまとめます。
設定紹介を2回挟んでから次の話を投稿します。
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