『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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ヒーローの世界:オリジン
第1話 望郷


「……なぁ、あの人今突然現れなかったか?」

 

「は?じゃあ個性の不正使用か?

 ……ってあのカッコもしかしてヒーロー?」

 

「あーそうかも。見ない顔だけど新人かなんかかな?

 若いしちっさいし」

 

彼女の優れた聴覚は道行く人々の声を拾っていたが、彼女の頭の中にまでは届いていなかった。

迂闊な行為だとは理解していた。

周囲に人の目があるとわかっている状況で世界移動を行うなんて。

しかし世界移動の瞬間に脳裏に一瞬映る光景を見て、気づけば彼女はその世界に移動を終えていた。

 

建ち並ぶ高層ビル。

やかましい雑踏。

そして『個性』豊かな人々。

 

「……あぁ……!」

 

彼女は周囲をキョロキョロと見まわし、書店を見かけて駆け込む。

雑誌の表紙には、先日発表された『ヒーロービルボードチャート』において正式に『ナンバーワンヒーロー』となった『エンデヴァーの特集』の文字。

壁際に張られているポスターには、『オールマイト』の姿。

 

「帰って、きた……!」

 

何千年も前の記憶を必死に呼び起こす。

轟舞火として神野市の戦いで散ってから、おそらく数カ月程度しか経過していない。

たしか当初は、『生まれ変わる』のが今くらいの時期だと予想していたのだった。

……随分と遠い日の記憶だ。

だが彼女は赤子としてではなく、大人の姿で戻ってきてしまった。

 

「さて、どう説明したものかな……」

 

グラントリノを説得する際には『転生』を証明するだけでも大変だった。

言葉を尽くして信じてもらえたが、非常識な個性だとからかわれたものだ。

しかし今回はそれをも上回る『平行世界』。

 

「……説得が大変そうじゃの~」

 

『カァ~』『シャ~』『……~』

 

言葉と裏腹に緩む彼女の頬。

そして同じようにゆらゆら揺れる、この世界の人には見えない3体の霊。

右肩に3本足の烏、左腕に巻き付く白い大蛇、背後に山より大きな炎の巨人。

特に最後のは誰かに見えていたら大騒ぎになりかねない。

『霊が見える』個性持ちがいてもおかしくはないのだから。

だがそれ以上に、ずっと一緒に旅をしてきた仲間たちに自分の故郷を見てほしかった。

 

かつての家族や戦友たちに会いたかった。

弟子たちにも再会を約束していた。

だが今はもう少しだけ混沌としたこの世界を見ていたくて、お上りさんのように目を輝かせながらフラフラと歩き、そろそろ動こうか考え始めたところで。

 

「……なぁ~、そんなに後悔するんやったら握手してもらっとったらよかったやん」

 

「言うたやろ……あんなん違うって」

 

「へぇへぇ。『エンデヴァーは媚びん姿勢がカッコよかと』ね」

 

「そこの少年諸君!」

 

「「「どわぁっ!?」」」

 

途中すれ違った少年たちの会話が耳に入り、一瞬で彼らの前に移動し行く手を阻む。

 

「びっ……くりしたぁ。なんね、ねぇちゃん」

 

「すまんすまん。気になる会話が聞こえたのでな。

 もしやここにエンデヴァーが来ておるのか?」

 

周囲の光景や地名から、ここが福岡であることは把握している。

エンデヴァーの活動地域からは遠く離れているはず。

この短期間で活動地域を変えたとも思えない。

 

「お、おぉ。

 さっきおうたんやけど、なんやねぇちゃんもエンデヴァーのファンか?」

 

「かっかっか、そうさな、筋金入りの大ファンじゃ。

 是非ともお会いしたいのじゃが、どこで見かけたか教えてはくれぬか?」

 

「都心部をホークスと一緒に歩いとったよ。

 今もおるかはわからんけど、あっちの方……」

 

少年がそう言って指さした方角を見ると、そこには周囲でも一際巨大なビルが建っており。

 

「……ってなんじゃあっ!?」

 

そのビルの上層が、音を立てて崩れ落ちようとしていた。

 

「ヴィランか!?」

 

「……あれ?さっきのねぇちゃんは!?」

 

ヒノカミは気配を消し、周囲の人間に見つからないよう現地へと跳ぶ。

無数の熱線が、崩れ落ちたビルの上層を細切れに焼き切っていた。

 

「兄上……!」

 

間違いない。あれはエンデヴァーの赫灼熱拳『ヘルスパイダー』だ。

到着後も隠れたまま状況を確認する。

 

「……っ!」

 

脚部から炎を出して宙に浮かび、拳を構えるエンデヴァーの背中が見えた。

友軍は少年たちの話にも出てきたホークスと、居合わせたらしい二人のヒーロー。

そして敵は。

 

「脳無か!」

 

全身真っ黒、肩がジェットになっており空を飛んでいる。

腕が伸縮しパワーもスピードもエンデヴァーより上、再生機能持ち、しかもどうやら言語を発しているらしい。

……まともな会話にはなっていないが。

さらに加えて。

 

「別の脳無を吐き出した!?

 複製?増殖?……いや格納か!?」

 

明らかに高性能タイプ。雄英を襲撃した時の奴より更に性能が上がっている。

しかも今回は学校の施設ではなく多くの民衆がいる市街地。

すでに眼下ではパニックが発生し、民衆を抑えるためにヒーローの戦力が割かれている始末。

状況が悪い。悪すぎる。

 

「……」

 

あの程度の敵と数、彼女が戦えば1秒足らずで全滅させられる。

だがここに至ってもヒノカミはまだ姿を隠していた。

彼女は『ヒノカミ』を名乗ってはいるが『轟舞火』ではない。

ヒーローの経験はあってもヒーローの資格はもうないのだ。

まして自分は既に故人。

仮にこの場に姿を現しその正体を知られれば、確実に世界全体を揺るがす大事件となる。

死者の復活。

街一つ破壊される以上の混乱が社会にもたらされるだろう。

ヒノカミの復活は、彼女の事情を知る者以外に明かすわけにはいかないのだ。

だから彼女は祈り続けるしかない。

力無き民衆たちと同じように、偉大なるヒーローの勝利を。だが。

 

「……残ネン」

 

エンデヴァーの放つプロミネンスバーンに呑まれる瞬間、自分の首を千切って投げていた脳無はその首から肉体を再構成し、隙だらけのエンデヴァーへとその腕を伸ばした。

 

「天網恢々!!」

 

そしてその腕がエンデヴァーに届く瞬間、彼の前に張り巡らされたあまりにも目の細かい熱線の網に阻まれ、そこに突っ込んだ腕はところてんのように細かく裂け、炭化して崩れ落ちた。

 

「なナ、なンだァ?」

 

「この……炎は……!?」

 

「……やってしもうた……相変わらず儂は堪え性がないのぅ」

 

民衆が、報道のヘリが、エンデヴァーが、宙に立つ和装姿の女性の姿を捉える。

 

「……やってしもうたもんは仕方ないの!

 言い訳は後で考える!今は久方の……ヴィラン退治じゃ!!」




最終章、開始します。
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