『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第2話

(……とは言ったものの)

 

ここでヒノカミが暴れて一瞬で敵を全滅させてしまうのは、正直憚られる。

ヒーロービルボードチャートが発表されたのは先日らしい。

つまりおそらく今日が、新たなナンバーワンヒーロー『エンデヴァー』の門出。

彼が苦戦した相手を自分が瞬殺しては、彼のこれからの活躍に大きく影を落とすことになるだろう。

あと単純に、自分が目立ちすぎるとマスコミの追及が躱しづらい。

 

複数の個性を持っていると知られるわけにはいかないから、すでに使ってしまった炎舞『劫火絢爛』だけで戦うしかない。

領域も、具現化も、再生も、肉体強化も使えない。

いっそ別の能力か、武装錬金でも使っていれば別人として誤魔化しやすかったかもしれないが。

 

「……これで行くか」

 

ヒノカミはこちらを凝視するエンデヴァーに手をかざし、彼の内側に溜まっていた熱を開放する。

放出された熱は二つの炎の塊となり、彼の周囲をくるくると回り続けている。

 

「これは……!?」

 

「話は後じゃ。支援する。

 存分に暴れられよ。頼むぞ、ナンバーワンヒーロー」

 

「……フンッ!!」

 

エンデヴァーが脚から炎を吹かせて再度脳無へと迫る。

そして彼が拳から放った熱線に合わせて、二つの炎の塊からも同時に熱線が放たれた。

 

(なんだ、これは!?)

 

エンデヴァーの攻撃への自動追従機能。

接近する物体に対し阻むように移動する自動防御機能。

そしてエンデヴァーの体内の熱を吸収して彼の体温を一定に保つ自動調整機能。

即興で組んだので持続時間も短く性能も今一つだが、これならエンデヴァーがアレに負けることはないだろう。

 

「さてと」

 

次に彼女は視線を眼下の街に向ける。

 

(1,2,……9か)

 

そして彼女は9本の炎の矢を自分の周囲に出現させ、黒い脳無が解放した白い脳無を打ち抜く。

脳無は3m近い大きさの巨大な矢で脳天から地面に突き刺され、炎上し灰となって消え去った。

 

(ま、こんくらいなら問題にならんじゃろ)

 

バッチリ目立っていた。

今の彼女にとっては『足元に転がって来た他人の鉛筆を拾ってあげる』くらいのちょっとした親切だったが。

どれだけ記憶力が良かろうとも、数千年も経っていれば感性にズレが生じるのは無理もないことだろう。

 

「えぇと……お嬢さんは何者サンで?」

 

白脳無がいなくなったことで手が空いたホークスがヒノカミに近付き問いかけた。

 

「む?……あぁそうか」

 

彼とは面識があったはずだがと考えたところで、わからぬのも当然かと思い至った。

轟舞火の年齢は40近かった。

年の割に見た目が若いとは言われていたが、それでも今の20歳前後の体とはまるで違う。

あの頃は剣道着ベースのコスチュームだったが、今は死覇装ベースの黒い和装。

各部装甲も部分発動した武装錬金のものだ。

似てはいるが、同一人物だとは思うまい。

娘か親戚と誤解される可能性はありそうだが。

 

「……エンデヴァーのサポートは儂が務める。

 お主は市民の救出と他のヒーローたちの指揮に専念してくれ」

 

どう考えても説明が面倒になりそうなので、ヒノカミは状況を言い訳にしてその場から逃げた。

 

「速……!?」

 

瞬時にエンデヴァーの後方へと移動したヒノカミは、彼に追従しながら周囲の熱の操作を始めた。

具体的にはエンデヴァーが放つ技の余波と、引火し発生した街の火事の回収。

回収した炎を流用し二人の戦いで生じる建物の瓦礫などの落下物の処理。

ついでに黒脳無が伸ばした腕が周囲の建物に届きそうになったときに寸前で熱線で切断。

そしてエンデヴァーは自分を守る炎の塊のお陰で自分に籠る熱という最大の弱点を気にせず戦うことができている。

 

「『プロミネンスバーン』!!」

 

追撃の火力も申し分ない。完璧なサポートだった。

正直に言えば、これだけ手厚い看護があればエンデヴァーでなくとも黒脳無を倒せただろう。

エンデヴァーの全身から放たれた炎を浴び、黒脳無は炭化して墜落した。

 

「……」

 

遠くから歓声が聞こえる。

どうやら報道ヘリがエンデヴァーの勝利を伝えたのだろう。

しかし当の本人はいつもの仏頂面をさらに濃くして、どこか不満げだ。

 

「……で、誰だ貴様は!」

 

彼は背後に降り立ったヒノカミに問いかける。

エンデヴァーを間に挟むようにホークスも着地してきた。

 

「あ、あー……」

 

面影はあるが明らかに年齢が、外見が違う。

自分が生まれ変わることは知っていても、まさかこんなに早く、成長した姿で戻ってくるとは思わないはずだ。

ただそれでも……もはや血縁はなくとも兄と慕った相手から他人の態度を取られるのは、正直堪えた。

 

「その……信じられんとは思うが。

 ……儂が、『ヒノカミ』じゃ。

 色々あって、帰ってきた。

 本当に、色々あって……」

 

言葉が上手くまとまらない。

視線が定まらず、相手の目を直視できない。

事情を知らないホークスのいる場所で言うべきでもなかったかもしれない。

それでも何とか言葉を絞り出して伝える。

 

「だから、その……ただいま!」

 

「……『ヒノカミ』……」

 

 

 

 

「誰だそれは」

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