『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第3話

「え……」

 

ヒノカミの全身が凍り付いた。

 

「誰……え……?

 ……あ、あぁ!あの時好き勝手したことを怒っておるのか?

 ありゃすまんかったとは思うが意趣返しにしたって悪質過ぎるぞ!」

 

「だから、知らんと言っている!

 ホークス、お前は?」

 

「いえ、オレも初めて聞く名前ですね。

 ここしばらくのヒーローは新人含めて全員記憶していますが……」

 

『そんなヒーローはいない』。

ヒノカミは二人のヒーローから存在を全否定された。

 

「そ……んな……」

 

何故自分のことを覚えていない?

何故自分のことを信じてもらえない?

何故荒々しくも優しかったエンデヴァーが。

 

そんな『冷たい』眼で自分を見ている?

 

「……何故じゃ……兄上……」

 

エンデヴァーは、それが自分を指していることすら気付かなかった。

先ほどまでのふてぶてしさから一転、迷子になった子供のように放心して佇む女性に、彼らもまた困惑していた。

 

「……ホークス、そいつを見ておけ。

 俺は回収班が来るまで脳無を見張っておく」

 

「あ、はい」

 

エンデヴァーがヒノカミから目を背けるように脳無の傍へと戻ろうとする。

 

「ちょーっと待ってくれよ。色々想定外なんだが」

 

「!!」

 

「貴様は!?」

 

既に市民は避難し、他のヒーローも脳無をエンデヴァーたち3人に任せて避難誘導に当たっていた。

そこに現れた乱入者は彼らを覆うかのように、蒼い炎の壁を生み出した。

 

「敵連合……荼毘!!」

 

黒髪、爛れた肌とツギハギ痕の青年、敵連合の一人である炎使いの荼毘。

 

「オレはソイツ(脳無)を取りに来ただけだ。

 ……つっても、対して役目も果たせなかったみてぇだがな。

 エンデヴァーが相手とは言え手も足も出ずにやられるようじゃ、わざわざ回収する必要もなかったか?」

 

荼毘の火力は脅威だ。

雄英合宿襲撃事件にて猛威を振るったという記録もある。

周辺の避難は済んでいるはずだが、この男が炎をまき散らせば避難区域の外にまで及ぶ可能性がある。

彼を食い止めるためにとエンデヴァーとホークスが身構えた。

 

「あのスナッチを殺害したそうだな……貴様はここで捕らえるぞ、荼毘!!」

 

ヒーローにとってもこれはチャンスだ。

厄介な敵連合の一人が、単独で自分たちの前に姿を現したのだから。

周辺への被害が及ぶ前に、速やかに目の前の敵を倒す。

そのつもりでエンデヴァーは駆け出そうとした。

 

 

 

「……『燈矢』?」

 

そして後ろにいた女性の、その呟きを聞いた瞬間に動きが止まった。

 

「……何?」

 

「……おいおい姉ちゃん。

 どこのどいつか知らねーけど、人の名前を間違えるなんて酷ぇじゃねぇか。

 つーか誰だそりゃ?」

 

「ふざけるな!儂が見間違えるものか!貴様は……!」

 

 

 

「貴様は、『轟 燈矢』であろうが!!!」

 

 

 

その場にいた誰もが言葉を失った。

荼毘の放った蒼い炎が燃える音だけが、異様に響いて聞こえた。

 

「……くひゃっ」

 

 

「くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!

 ひゃ~っはっはっはっはっはァ!!

 ははは!げはハハハハハハは!!!」

 

荼毘が腹を抱えて、壊れたように笑い出す。

いや、彼はとっくの昔に壊れていた。

 

「ひっでぇなぁ!!

 どこの誰だか知らねぇが、折角のサプライズ予定が台無しじゃねぇか!!

 ……ま、その間抜けヅラを早めに間近で見れただけでも良しとするかぁ」

 

「……燈矢……なのか……!?」

 

それはもう10年以上前に死んだはずのエンデヴァー……轟炎司の息子。

 

「……まぁだ気付かねぇのか。

 やっぱお父さんは、オレの事見てくれてなかったんだな」

 

「……!」

 

自分以上の炎の個性を持っていた。

ヒーローになりたいと言ってくれた。

真のナンバーワンヒーローになるという自分の夢を託せる存在だと思っていた。

……しかし彼の体質が個性と合っていなかった。

自分の炎で自分の体すら焼いてしまうのだと知った。

だから彼から夢を取り上げた。

何度言っても聞かないからと、妻に押し付け目を背けた。

ついぞ向き合わないまま、彼は自らが起こした山火事で命を失った。

……そのはずだったのだ。

 

「ハハ、はぁっはははハハハ!

 イイ!イイねぇそのツラぁ!!

 やべぇ、我慢できねぇ!!

 もうここで終わらせちまおうかなぁ!?」

 

ガタガタと震える顔面蒼白のエンデヴァーに、掌から炎を噴き出した燈矢が迫る。

その直前、炎の壁を越えてきた新たな乱入者が燈矢目掛けて蹴りかかって来た。

 

「ニュースみて跳んできたぜ!面白れぇことになってんな!!」

 

ラビットヒーロー『ミルコ』。

ヒーロービルボードチャートナンバー5、蹴り技を得意とする武闘派の女傑ヒーロー。

 

「ってオイオイ!?なんだエンデヴァー!その腑抜けたツラは!?」

 

「ちぇっ、いいとこだったのに。

 ……今日は帰る。でも今度はもっと素敵な悪夢を用意してくるよ!!

 お父さんがもう二度とオレから、目が離せなくなるように!!」

 

「っ!待て!待ってくれ燈矢!!」

 

息子の手を掴もうと飛び出したエンデヴァーの目の前で、燈矢は黒い泥に飲み込まれ消えていった。

 

「燈、矢……」

 

エンデヴァーは膝から崩れ落ちた。

報道ヘリに中継されていることも忘れて、いや、覚えていても隠しきれないほどの絶望が彼に襲い掛かっていた。

 

「……なんだ?この空気」

 

「えぇと……『ヒノカミ』さんだっけ?

 悪いけど、話聞かせてもらってもいいかな?」

 

「……無論じゃ。すべて話そう。

 そして儂にも聞かせてくれ」

 

ヒノカミは理解した。ここは故郷の世界ではない。

 

「『儂が生まれなかった』、この世界のことを」

 

ここも、平行世界だ。




改めて……『ヒーローの世界:オリジン』、開始します。
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