『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第17話

「……緑谷出久。何か言いたいことはあるか?」

 

「……申し訳、ありませんでした……」

 

「……爆豪勝己。何か言い残したことはあるか?」

 

「……悪かっ……って待てや!

 なんで俺だけ遺言なんだ!?」

 

それは当然だろうと、ヒノカミは断じる。

彼女は緑谷が個性を手に入れたばかりで、まだ扱いなれていないことを知っている。

だから加減を間違えたとしても、仕方がないことだろうと受け入れることができる。

しかし爆豪は違う。使い慣れた個性を暴発させるはずもなく、言い訳を許さない。

 

「えーと、みんな大丈夫?怪我はないよね?」

 

「ゲホ……はい、無事です」

 

「我々も問題ありません。

 ですが、僕を庇って麗日くんが……」

 

「大丈夫、です。

 少し休んだら、元に戻るので……ウェェ……」

 

ことは訓練開始前まで遡る。

爆豪は、自分の個性では爆発物の近くで戦うのは危険だと、飯田に防衛を任せて奇襲を行った。

緑谷もそれを予測しており、爆豪の相手を受け持つ間に核を探してほしいと麗日を送り出した。

ここまでは良い。

 

しかし二人の戦いは急激にエスカレートし、攻撃もその分激しくなっていった。

そして麗日が5階で飯田と核を見つけ対峙した頃。

1階の二人が放つ強力な一撃がぶつかり合い、ビルが吹っ飛んだ。

地下にいた教師と生徒たちは生き埋めになり、足場が崩れた飯田は落下する寸前、麗日によって浮かされたことで助かった。

しかし麗日は自分自身を浮かせると消耗が激しいため、許容限界を超えダウン。

地下の面々は、出入り口をふさいでいた瓦礫をオールマイトが破壊して脱出。

そして現在に至る。

 

「貴様ら、授業終わるまで空気椅子な。

 当然、個性は使うなよ。

 倒れたら腕立て、腕の力が尽きたら腹筋、その後空気椅子に戻るの無限ループじゃ。

 そして授業後も居残りとする」

 

「はい……」

「ウス……」

 

生徒たちも不満はあるだろうが、授業中なのでこれで勘弁してもらおう。

だが、二人のあまりの実力に尻込みしたというのも確かだ。

入試2トップの実力は伊達ではないのだと痛感した。

その後、ビルを移して訓練再開。

各々趣向を凝らして全力で訓練に臨んでいたが、それを見つめるヒノカミは最後まで何も言わなかった。

 

全員の訓練終了後、演習場の入り口に戻って総評に入る。

尚、緑谷と爆豪の二人は隅で物言わぬ屍と化していた。

 

「さて、今回の訓練じゃが……気づいたのは轟だけのようじゃな」

 

「……は?なんのことっスか?」

 

ヒノカミの発言の意図が分からず、名指しされた轟以外が疑問の声を上げる。

 

「……ヒノカミはイタズラや引っ掛けが得意なんだ。

 絶対に何か仕掛けてくると思ってた。

 だから気づけたってだけだ」

 

「どういうことですの?轟さん」

 

「では轟、答え合わせと行こうか?」

 

「……ヒノカミは最初に勝利条件は挙げたけど、敗北条件は言わなかった。

 緑谷たちみたいに試合をめちゃくちゃにするんじゃなきゃ、何したってよかったんだ」

 

「何したってって……具体的に何をだよ?」

 

「『核を確保したらヒーローの勝ち』。

 『核を守り抜いたらヴィランの勝ち』。

 じゃあ途中で核が壊されたらどうなる?」

 

「……まさか!?」

 

「そうだ。核を壊しても負けじゃねぇし、両方の勝利条件が満たせなくなる。

 つまりこの試合、引き分けが用意されてたんだよ。

 だからたとえヒーローがヴィランを追い詰めたとしても、

 ヴィランが核を破壊できるような状況だったら引き分けに持ち込まれちまうんだ」

 

「「「……はぁ!?」」」

 

轟が障子と組んでヒーローチームになった際、彼は侵入する前に障子に敵の配置の確認を頼んだ。

相手の尾白と葉隠がどこにいるかを突き止め、すぐに突入できる位置に待機してもらい、それから自身の個性でビルを凍結させ、速やかにヴィランを確保させた。

動けなくするだけなら一瞬で終わるのに、あえて時間をかけてまで一瞬の解決にこだわっていた。

 

「待ってください!核を破壊する?

 爆発すれば、ヴィランも無事では済みません!!」

 

「……制限時間って、なんの時間だと思う?

 この状況設定で、時間が来た途端にヒーローが負けになるようなものって何がある?」

 

「え……?それって……!」

 

「……核が、起爆するまでの時間……!?」

 

「この設定のヴィランは自爆テロ犯だ。

 起爆までの時間があるのはおそらく、他の仲間のヴィランが退避するまでの猶予。

 命を捨てた狂人なら、追い詰められたら死なば諸共と馬鹿な行為に走る可能性は十分にありえる」

 

静まり返ってしまった場に、ヒノカミの拍手が響く。

 

「いやぁ見事。満点じゃよ轟。

 出来の良い生徒を持って儂は幸せじゃあ」

 

「相変わらずえげつねぇよ、舞姉」

 

「私も、いきなりぶっこむようなレベルの罠じゃないとは思ったんだけどねぇ」

 

敢えて黙っていたオールマイトもヒノカミを責める。

この条件、気づいてしまえばヴィランの敗北はまずありえない。

何しろ訓練開始直後にヴィランが核を攻撃しても引き分けなのだ。

生徒たちはヒーローが不利と考えていたが、彼らの想定以上に絶望的な状況だったのである。

 

「しかしこのくらいの不利はヒーローの日常茶飯事じゃよ。

 主らはそれを覆す力を手に入れなければならぬ。

 実戦ならば一度の失敗は死を意味するがこれは訓練。

 大いに失敗し、経験を積んでほしい。以上じゃ」

 

「「「……ありがとうございました!!」」」

 

生徒たちは一斉に頭を下げた。

衝撃的な経験は頭に残る。今回の訓練を糧として邁進してくれることだろう。

生徒たちは今回の訓練について議論しながら教室へと戻っていく。

動く気力もない二人の弟子と、最後においしいところを持っていかれていじけるオールマイトを除いて。




緑谷と爆豪の戦い、まさかの全カット。
この世界の轟の優秀さを示すための犠牲となりました。
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