『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第16話 六道リンネ:オリジン

「……やはり、駄目かぁ」

 

たとえ同じ顔、同じ声、同じ姿だとしても彼らは別人だ。

それはわかっている。

わかっている、つもりだったのだ。

 

「あ……え……?」

 

「すまんな。こうならぬよう控えていたのじゃが……」

 

困惑する夏雄を向いて、ヒノカミは困ったように苦笑する。

しかし彼女の目からは変わらず涙が流れ続けていた。

 

「『逃げるな』などと言っておいて悪いが、儂は暫く席を外そう。

 ごちそうさま、冬美殿」

 

「あっ、待って!」

 

皆に背を向けたヒノカミは、緑谷から見ても普段と変わらぬ足取りで部屋を立ち去っていく。

 

「オレ……言い過ぎちまったのかな……?」

 

「お前は悪くない!」

 

炎司が立ち上がると同時に叫び、夏雄の前に立ちその両肩を掴む。

 

「お前は悪くない……悪いのは、全て俺だ……!」

 

そして炎司もまた泣きそうな顔で、ヒノカミを追いかけ部屋を出ていく。

 

「……緑谷、あの人は一体どうしたんだ?」

 

「あ、えっと……」

 

焦凍だけでなく、冬美と夏雄も緑谷に視線を向けている。

『自分の関係者』という扱いになっているため知らぬ存ぜぬは通用しないだろう。

しかし彼女の事情を全て正直に明かすわけにもいかない。

 

「……ヒノカミさんにも大切な家族がいたんだって。

 ずっと昔に、会えなくなっちゃったらしいんだけど……」

 

「それって……」

 

冬美たちは先ほどの発言から、彼女は家族と死に別れたのだと想像した。

間違ってはいないが死んだのは家族ではなく彼女の方。

彼女の家族は生きており、元の世界に戻ることができればもう一度会うことはできる。

だが意図していなかったとは言え都合よく解釈してくれたので、緑谷は敢えて誤解は解かずに続けた。

 

「その人たちが轟くんやご家族の方たちと、すごく似てるんだって。

 ……思わず、重ねちゃうくらいに」

 

「……親父はこの事を?」

 

「うん……すごく仲のいい家族だったらしいから、自分のせいで嫌なものを見せてすまないって、ずっと謝ってた」

 

「そっ、か……」

 

夏雄は罪悪感に押しつぶされそうになっていた。

父親が悪い、父親が憎いという気持ちに変わりはない。

だが自分の意地が他の誰かを巻き込み、不快にさせ傷付けた。

 

「……緑谷くんも悪かったな。後であの人にもちゃんと謝るよ」

 

「大丈夫だと思います。……強い人ですから」

 

そう、彼女は強い。強すぎるくらいに。

 

 

 

部屋を離れたヒノカミは、轟家に隣接している道場の真ん中で胡坐をかいて座っていた。

 

「……ここは変わらんな」

 

「……」

 

彼女は入り口に立つ炎司に背を向けたまま呟く。

 

「すまん。俺たちの世界に来たばかりに……俺が不甲斐ないばかりに、お前には辛い思いばかりをさせている」

 

「かか、気にするな。

 儂はこの世界に来られて、良かったと思っておる」

 

「……気遣わなくていい」

 

「嘘ではないさ。

 儂は冗談も誤魔化しも言うが、下らん嘘はつかん。

 だってそうじゃろ……この世界に『轟舞火』はいなかった」

 

この世界に来てすぐに調べた。

『六道リンネ』はいた。『大貝令』も痕跡を見つけた。

だが『轟舞火』だけが居なかった。

他にも気になることを片っ端から調べて、確信した。

この世界と故郷の世界は『六道リンネがワン・フォー・オール継承者となった』辺りで分岐したのだ。

 

似て非なる平行世界に辿り着いたことで、ヒノカミは己の個性の正体を知った。

六道リンネの個性は『一度きりの転生』だった。

だが『ワン・フォー・オール』を受け継いだことで、そのオリジンである『個性を与える』個性と混ざり合った。

結果『個性を引き継ぎ転生する』個性である『ワン・モア・タイム』が誕生し、『転生する個性』すら引き継ぎ生まれ変わり続けた。

そして『ワン・モア・タイム』が存在したことで生まれた人間が『轟舞火』だというのなら。

 

「『ワン・モア・タイム』は、本来生きるべき誰かの生を奪うものではなかった」

 

『轟舞火』だけではない。

『黒崎隣互』も、『鬼束マトイ』も、『麻倉紅葉』も。

 

「儂は、誰も犠牲にしていなかった」

 

それはヒノカミ……六道リンネが心の内に抱え続けていた罪悪感。

だがこの世界に来て彼女はようやく知ることができた。罪などなかったということを。

 

「……だからこれはそう、嬉し涙かもしれんぞ?

 お主はもう気にするな、どうせすぐ止まる」

 

「止めるな!!」

 

炎司はずんずんと突き進み、ヒノカミ正面に回り込む。

彼女の目からは変わらず涙があふれ続けていた。

 

「涙は、止めるものではない!

 止めようとしても溢れてくるものだ!

 耐えきれなくなった心の悲鳴だ!」

 

彼はそれを身を持って痛感した。

彼女が見せてくれた、彼女の故郷の自分たちを目にして。

 

「泣くんだ……泣かねばならんのだ!立ち上がるために!

 何を恥じることがある……人は誰もが産声を上げて生まれてくるのだぞ!」

 

炎司は呆けたままのヒノカミの頭を、強引に胸に抱き寄せる。

彼女の顔が見えないように、少しでも声が漏れないように。

 

「……っぐ」

 

炎司は腕に込める力を強めた。

 

 

 

「ぐぅぅぅぅううう……うああああぁぁぁ……あぁぁぁぁ~~っ!!!」

 

 

 

 




ヒノカミは『転生オリ主』ですが『現地主人公』です。
なので彼女は『原作』を知らず、本来そこに誰がいて、誰がいないのかを知りません。
自己犠牲の精神が強かったり、家族や親族に対して過保護なのは、『自分が乗っ取ってしまった当人の代わりに皆を守らねば』という『強迫観念』です。
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