完結まではなんとか毎日投稿できるよう頑張りますので、引き続きお付き合いください。
「緑谷」
「あ、エンデヴァーさん」
夕食の片づけが終わった頃に、炎司が戻って来た。
「親父、あの人は?」
「……そのことだが、緑谷。
お前はヒノカミと共に先に学校に戻ってくれ。
焦凍は後から俺が送る」
「……なんでだ?」
「大切な話がある。俺たち家族の、大事な話だ。
夏雄と冬美も呼んでくれ。
……ヒノカミとは、また改めて機会を用意する」
「……わかった」
声を荒げているわけでも、怒りの表情で威圧しているわけでもない。
だが父親から感じる『凄み』のようなものに気圧され、焦凍は頷く。
緑谷はヒノカミと一緒に学校の寮に公共交通機関で戻る……と見せかけて、ヒノカミの転移で移動した。
少しでも島の研究所で時間を使いたいからと彼が申し出たからだ。
夕食を片付けた後の和室で、炎司、焦凍、冬美、夏雄が向かい合う。
「……なんだよ、話って」
先ほどの失敗もあって、夏雄も敵意こそ隠せずにいたが目を背けて立ち去ることはしなかった。
「できるなら母さんにも知ってほしいことだが……精神的負担は大きい。
伝えるかどうかは、お前たちの判断に任せる」
彼女を精神病院に入院させるまで追い詰めたのは炎司だ。
その彼が直接彼女に会うことはできない。医者もいい顔をしないだろう。
「心して聞いてほしい。
これから話すことは、全て真実だ」
静かだが力が籠った炎司の声に、3人は無言で息を呑む。
「燈矢が生きていた」
彼らが父の言葉の意味を理解するのに、数秒の時間を要した。
「……え……燈矢兄が……?」
「生きて……嘘でしょ!?」
「事実だ」
かつて炎司が追い詰め、何年も前に山火事で死んでしまったと思われていた轟家の長兄。
エンデヴァー自身も必死に捜索したが焼け跡から唯一見つかったのは彼の顎の骨だけ。
よって焼死と判断されていたはずだ。
「無事なんだな!?ホントに生きてるんだな!?」
「どこ!?ねぇどこにいるの!?」
夏雄と冬美が顔に喜色を浮かべながらも、鬼気迫る様相で父親へと詰め寄る。
「……敵連合だ」
「「え……?」」
そして二人は、炎司に掴みかかったまま硬直した。
「……おい……親父!まさか!?」
「あぁ……『荼毘』は『燈矢』だ」
ここでようやく、焦凍の頭の中ですべてがつながった。
爛れた皮膚をツギハギにした炎の使い手。
以前合宿で襲撃してきた際に、自分に対して向けてきた強い敵愾心。
おそらく福岡での脳無襲撃事件の後でホークスと共にエンデヴァーは荼毘と対峙し、荼毘が燈矢だと気付いたのだろう。
それが炎司の家族に対する態度が豹変した理由と考えれば納得がいった。
「アイツは俺を恨んでいる。
俺を憎み、俺を苦しめるためだけにヴィランとして活動している。
……俺から受け継いだ炎で、多くの人を殺し続けているんだ」
「……嘘でしょ?嘘って言ってよ!ねぇ!?」
「……事実だ」
冬美はその場に力無く崩れ、夏雄は震える腕でなおも父親の胸倉を掴み続けている。
「なんだよ、それ。
そんなんだったら……そんなんだったら、いっそ!!」
「夏雄!!」
目の前で炎司に叫ばれ、夏雄は泣きそうな表情で言葉を詰まらせる。
「その続きは言わないでくれ……。
どんな形でも、アイツが生きていたんだ。
頼む……お前たちだけは、アイツの存在を否定しないでやってくれ……!」
「……!」
ようやく夏雄も、炎司から腕を離した。
隣で泣き崩れる姉を抱き寄せ、冬美もまた弟を抱きしめた。
「……親父は、どうするつもりなんだ?」
「無論、アイツを捕まえる。
事情を知っている一部のヒーローたちと共に、極秘で準備を進めているところだ。
オールマイトやホークス、ヒノカミも協力してくれている」
「……親父があの人とよく一緒にいたのはそういうことか」
福岡での事件以降、ヒノカミがエンデヴァーと行動している姿は度々目撃されていた。
ごくまれにだが雄英にも現れ、オールマイトらと密会していることもある。
焦凍は元プロヒーローであり比較的自由に行動できるヒノカミが中継役を務めているのだろうと推測した。
「だけどさ……捕まえてそれで解決ってわけじゃねぇだろ?」
息子がヴィランだなんて知られたら、確実にナンバーワンヒーローの座に傷がつく。
やがて轟家の過去も明らかにされるだろう。
権力を使っての隠蔽もできるとは思えない。
どれだけ実力があったとしても、もはや『エンデヴァー』がヒーローとして再び社会に受け入れられる可能性は、限りなくゼロに近い。
「考えてる事がある。
……いや、ずっと考えてはいたんだ。
ようやくその覚悟ができたところだ」
激情家と知られるエンデヴァーとは思えぬ、静かで穏やかな表情だった。
彼が子供たちに初めて見せる、『父親らしい』表情だった。
「俺は……」
エンデヴァーの決心の内容については暫く先となります。