「始まったよ」
「お母さん、大丈夫?」
「大丈夫……私も、ちゃんと向き合いたいから」
とある病院の一室。
入院中の轟冷の傍に夏雄と冬美が付き添い、エンデヴァーの会見が始まるのを待っていた。
現在国内すべてのチャンネルで彼の姿が映し出されている。
彼らは、彼が何を話すつもりかをすでに聞いている。
今から轟家の未来が決まる。
本当に、本当の家族になれるのか。
――――……
「私は……欲深い男でした。
事件解決数史上最多、ビルボードチャートナンバー2という称号を得てもなお、それに満足することができませんでした。
私はどんなことをしてでも、トップの座に立ちたかった」
今でこそナンバー1ヒーローだが、それはオールマイトが引退し繰り上がっただけのこと。
彼が『万年ナンバー2』と呼ばれていたことは疑いようのない事実だ。
「しかし私は自分の限界が見えてしまった。
どう足掻いてもオールマイトには勝てないのだと理解してしまった。
ですがそれでも諦めきれなかった私は、次の世代に託すことにしたのです。
……いわゆる『個性婚』染みた行為を行い、妻との間に子を設けました。
自分の子にオールマイトを超えてもらおうと考えたのです」
『個性婚』とはより強い個性を持つ子を生み出す目的で婚姻を結ぶという、過去に行われていた忌まわしき風習。
明確に犯罪とは定義されていないが、ヒーローとして正しい行いとは言えない。
ナンバーワンヒーローの罪の告白に記者たちの間にどよめきが広まる。
「そして生まれた息子は、私を遥かに超える炎の個性を持っていました。
私が強制するまでもなく『ヒーローになりたい』と言ってくれました。
図々しい話ですが、当時の私はもうオールマイトを超えるためだということも忘れかけていました。
この子が立派なヒーローになってくれるなら、それでいいとさえ思っていました。
……しかし私以上の炎の個性を持つ息子は、熱に弱い妻の体質を受け継いでいたのです」
氷の個性を持つ轟冷、旧姓『氷叢冷』はその個性に相応しく、寒さに強く熱さに弱い。
その体質を受け継いだ子供がエンデヴァー以上の火力を放てばどうなるかは、素人でも容易に想像できる。
「個性を使う程に息子は傷ついていく。
私から受け継いだ炎が息子を焼いていると思うと、耐えられませんでした。
そして私は彼から夢を取り上げました。
散々ヒーローになれと言っておきながら、手の平を返したのです。
ですがその子は諦めてくれませんでした。
……諦めの悪さは私譲りだったのでしょう。何度言っても火傷を作ってくる。
だから私は彼に夢を諦めさせるために、更に罪を重ねたのです」
――――……
『『彼より遥かに優秀な子が生まれれば、諦めざるを得ないはず』。
そして末の子が生まれました。
これでようやく、また彼と親子に戻れると思いました。
しかし歪みはもう取り返しのつかないほど大きくなっていました。
彼は、幼い末弟に炎を向けたのです』
「「「!?」」」
遥か後方の避難誘導班に割り当てられたA組生徒たちは、一人離れて中継を無言で見つめ続ける轟に視線を向ける。
「轟くん……本当なのか!?」
「飯田ちゃん!」
「っ!すまない!」
「いい……全部、本当だしな」
生返事を返しながらも、彼は画面から目を離さない。
『私は末の子を隔離することを選びました。
兄弟たちと関わらせないために、虐待同然の厳しい訓練を施し続けました。
家族の歪みを妻と子どもたちに押し付け、ヒーローという仕事に逃げました。
向き合わなかったから、気づきもしなかったのです。
息子が、影でまだ訓練を続けていたことに』
「……見てるぞ、親父」
――――……
『息子は自らの炎が引き起こした山火事に呑まれました。
妻は心を病み、私は彼女を病院に押し込めました。
……この期に及んでも私はまだ家族から目を背け続けたのです』
超常解放戦線の拠点の山荘の中でも、構成員たちや幹部たちまでもがエンデヴァーの会見に釘付けになっていた。
『そして私が犯してきた罪の数々が、ついに私自身に降りかかりました。
……焼死したと思われていた息子が生きていました。
敵連合の『荼毘』となって』
「「「!!!!」」」
一室にいた構成員たちの視線が一斉に同じ部屋にいた荼毘へと向くが、彼は全身を震わせながら血走った目で画面越しにエンデヴァーを睨みつけている。
『私は自分の子供に自分を投影し、間接的にオールマイトを超えさせ自己満足を得ようなどと企てた愚か者です。
ならば自分の子供が犯した罪もまた、私が背負うべきです。
すべては私の自業自得。
報いを受ける時が来た。それだけです』
「……オイ……やめろ、言うな!!」
『私、フレイムヒーロー『エンデヴァー』は……』
「やめろぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!!!!」
『……本日をもって、ヒーローを引退することを宣言いたします』
そして彼は姿勢を正し、カメラに向かって深々と『頭を下げた』。
『皆様……誠に……申し訳ありませんでした!!』
――――……
『……作戦、開始してください!』