『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第24話 A組の三バカ

「そんじゃクラウドォ!さっさと送っちまいなぁ!」

 

「おうよぉ!!」

 

白雲朧。

元雄英2年A組のヒーロー候補生。

ヒーロー名『ラウドクラウド』。

個性『雲』。

実体を持つ白い雲を生み出して操る個性……だったはず。

実際に先ほど着地の瞬間にそれらしきものを作り出していた。

だが今彼が操っているのはどう見ても敵連合の黒霧の個性『ワープゲート』。

黒い靄が意識を失った解放戦線の敵を次々と飲み込み、どこかへと送り飛ばしていく。

 

「貴様、させるかぁ!!」

 

しかし敵も無抵抗ではない。

マイクの精神攻撃に耐えた強敵が3人へと襲い掛かった。

迎え撃つためにイレイザーヘッドが一歩前に出る。

 

「寝てろっ!!」

 

「がっ……」

 

そしてイレイザーが睨みつけたかと思うとそのヴィランは意識を失い崩れ落ちる。

彼もまた目が覚めない内に、他のヴィランと同様にワープゲートに呑まれて消えた。

 

「白雲くん!」

 

3人の周囲にはもう敵の姿はない。

ミッドナイトはここが戦場であることも忘れて彼らに駆け寄る。

 

「……先輩」

 

「……あぁ……!」

 

振り向いた姿は記憶の中に残る彼のままだった。

幻でないのか確かめたくて、思わず抱きしめようとさらに近づく。

 

 

 

 

「老けました?」

 

「あ”ぁ”ん!?」

 

そして泣き顔が般若に変わった。

 

「馬鹿野郎!何言ってんだ白雲!」

 

「ミッナイ先輩は最近その手の話題にデリケートなんだぞ!?

 だって今年でもう31だもの!」

 

「31ぃ!?って俺らの一つ上なんだからそりゃそうか!

 けどそのトシでこのカッコは流石にキツくね!?」

 

「「オブラートに包め!たとえ事実だとしても!!」」

 

「あ”ぁ”ぁ”んっ!!?」

 

「「「しまったつい本音が!」」」

 

『女王様』を超え『女帝』となったミッドナイトが愛用の鞭『アイノムチ』を鳴らしながら、怯える3人へと一歩ずつ迫る。

 

「逃げるぞお前ら!!」

 

「逃げるってイレイザー!」

 

「そっちぁ敵だらけだぞ!?」

 

「先輩相手にするよりマシだろーが!!」

 

「「違いねぇ!!」」

 

二人の大人と一人の青年が肩を並べて走り去っていく。

まるで子供のような、無邪気な笑みを浮かべながら。

 

「……まったく……」

 

聞きたいことは山ほどある。

言いたいことも山ほどある。

だがまず言わなければならないことがある。

 

「……おかえり、3バカ」

 

呟いたミッドナイトの声は、彼らに届く前に風でかき消された。

 

 

――――……

 

 

 

「ぐぅっ……ここは……?」

 

ラウドクラウドに『ワープゲート』でどこかに転送された解放戦線のヴィランたちは、暗闇の中で目が覚める。

音や気配から周辺に同胞が大勢いることに気付いた。

 

「おい、誰か明かりを出せる奴はいないか?」

 

「わかった、俺が……」

 

個性で周囲を照らそうとした者がいたが、その前に空中に巨大なスクリーンが浮かび上がる。

そこに映し出されていたのは。

 

『HAHAHAHA!やぁやぁ超常解放戦線の諸君。

 ネズミなのか犬なのか熊なのか、果たしてその正体は雄英高校校長なのさ!』

 

「根津……!」

 

仇敵の出現にヴィランたちの殺意が高まる。

しかし彼はこちらの怒号に構わず話の続きを始めた。

どうやらこの映像は録画されたものらしい。

 

『気付いているとは思うけど、ここは僕が用意した牢屋の中なのさ!

 だが10万人もいると一人一人枷をつけるのは手間だったからね!

 人数ごとに分けてそのまま押し込めることにしたのさ!』

 

根津の言う通り、拘束されている者は誰もいない。

つまり個性も使い放題。

これだけの頭数がいればどんな牢獄だろうと破壊し外に出ることができるだろう。

 

『……なーんて考えているだろうから教えてあげよう!

 キミたちがいるのは……ここさ!!』

 

そして施設内が電灯で照らされ、壁面の分厚いガラスから外の景色が見えた。

 

「……海の……中……!?」

 

『これぞキミたちのために用意した海底牢獄『アトランティス』さ!!』

 

ガラスの向こうは薄暗い深海の世界。

海面の方を見上げるが光は届いていない。

水深は数百メートルどころかキロメートル単位の可能性もある。

施設の外に出れば水圧で押しつぶされるだろう。

そして地上に繋がるトンネルは……存在しない。

『長距離転移個性』持ちでもない限り出入りは不可能だ。

一介の戦闘員がそんな強個性を持っているはずがない。

 

情報収集も、戦力の育成も、ほぼ全てヒノカミが担当してくれた。

だから強大な権力と財力を持つ根津が、なんとフリーだった。

そして黒霧の個性を持ったまま蘇生された白雲の参入により根津は自分がやるべきことを見つけた。

ヒノカミにも多少助力してもらい、この数カ月で大量のヴィランを長期間閉じ込められる脱出不可能な牢獄を作り上げたのだ。

 

『キミたちの沙汰が決まるまでは好きに過ごしてくれて構わないよ!

 空調設備も浄水設備も完備している!

 大部屋と寝具もあるし、食料だって日持ちするおいしい非常食をたくさん置いてあるのさ!

 何しろ市民のための避難シェルターを改造して作ったものだからね!

 ……ただ一つだけ問題があってね。

 これほどの施設を維持するには電力が足りないのさ!そこで……』

 

壁の一部が開き、せり出してきたものがライトアップされる。

それはいくつもの人間サイズの……『回し車』だった。

 

『不足分は自家発電でお願いするのさ!

 電力不足に陥るとあらゆる設備が停止するから、力を合わせて頑張ってね!』

 

「ふざけるなぁ!!!」

 

誰かの叫びをきっかけに、次々と怒号が飛び交う。

だが録画でしかない根津は何の反応も示さない。

 

『寂しくないようにどんどんお友達を連れて来てあげるからね!

 それではみんな、素敵な牢獄ライフを!』

 

そして映像が途切れた。

ヴィランたちの叫び声も虚しく響くだけで、段々と声が小さくなっていく。

 

「……おい、どうする?」

 

「ハッタリに決まっている!ヤツの言う通りになどなってたまるか!」

 

ヴィランたちは仲間たちが救出に来るのを静かに待つことにしたが……。

 

『電力ガ不足シテキマシタ。

 節電ノタメ、照明ヲ落トシマス』

 

「「「!?」」」

 

機械音声が響くと同時に、施設内の光が一つ、また一つと消えていく。

それでも回し車を照らす光は残っており……耐え切れなくなった誰かが駆け出した。

 

「あ、オイ!?」

 

「……ホントだったらどうするんだよ!?」

 

戦って散る覚悟はできていたが、海の底で窒息死などご免だ。

やがて恐怖が伝染し、一人、また一人と回し車に飛び込み必死に走り始める。

そしてしばらく後に施設の中にまた光が灯った。

 

 

 

 

「HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!!!!」

 

次々と牢獄に放り込まれ、必死に回し車の中で走り続ける人間たちをモニターで観察していた根津は、実にいい顔で嗤っていた。

電力不足など嘘だ。照明は落としても、生命維持に必要な設備が止まることはない。

気付いている者もいるだろうがそれを確かめる方法はない。

だから彼らは万が一の可能性に怯え、恐怖に駆り立てられネズミのように走り続けるしかないのだ。

だがネズミの回し車とは違い、彼らの行いは決して無駄にはならない。

彼らが必死に作り出した電力は社会に無償で供給される仕組みになっているのだから。

自分たちがヒーロー社会を支える歯車になっていたと知らされた時、彼らはどんな表情を見せてくれるだろうか?

 

「HAHAHAHAHA!!!

 HI~~~~~HAHAHA!!

 HAHAHAHAHAHAHA!!!!」

 

人間に虐げられてきた動物が狂気の声を上げ続ける。

まるで悪魔のような、邪気に満ちた笑みを浮かべながら。

 

「……まったく……」

 

ヴィランはまだ山ほどいる。

やるべきことも山ほどある。

だからまず言わなければならないことがある。

 

「……かえっておいで、根津」

 

呟いたリカバリーガールの声は、彼に届く前に奇声でかき消された。




・眼魔

イレイザーヘッドが開発した新必殺技。
視線を合わせた相手の目に霊力を送りつけ、意識を奪い昏倒させる。
プレゼント・マイクの技よりも霊力の密度が高いためよほど精神力か霊的防御力が高くなければ無効化できない。
彼の愛用のゴーグルにはヒノカミの手により霊力を増幅するレンズが組み込まれている。


・海底牢獄『アトランティス』

根津が市民を避難させるためのシェルターを改造して作り出した海底牢獄。
転移能力を持ち、水圧にも負けず、スキルにより呼吸も不要なヒノカミが根津の要請を受けて設置した。
一つの施設に数百人を収容可能で、日本全国数百か所の海底に沈めてある。
電力は海底ケーブルを通じて不足なく供給されているが自家発電も可能。
根津は供給する分の電力を自腹で支払ってまで、自家発電された電力を社会に無償提供する仕組みを整えた。
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