『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第26話

「おおぉ、ぐおおぉぉっ!ぐぉああああああっ!!」

 

殴る。殴る。殴る。

リ・デストロは何度も何度も己の剛腕を振るうが、それを受けている銀色のコートを身に着けたベストジーニストは吹き飛ぶどころか一歩、また一歩と歩み寄ってくる。

 

「……なぁらば!!」

 

リ・デストロは掌を広げ、巨大な両手でベストジーニストを握りつぶそうとする。

これほどの力を受ければ鋼鉄でできたシェルターですら拉げた鉄くずに変わるだろう。

 

「……なぁぜだぁあああああ!!?」

 

だが、つぶれない。

まさに万力のごとき力を込めているのに、彼は僅かにも凹まない。

 

「無駄だ……我が霊力と個性の全てを込めて編み上げたこのスーツ!

 その程度の力ではアイロンがけにすらならん!!」

 

そしてベストジーニストは自分自身の身体能力に個性で操るコートの力を加え、自分を両脇から押さえつけるリ・デストロの掌を少しずつ押し広げていく。

 

「がぁぁぁあああああ……!!」

 

「……ハァッ!!」

 

気合と共に拘束を解いたベストジーニストはリ・デストロの顔面に迫る。

 

「ブラァ!!」

 

「ぶるぁっ!?」

 

強固な装甲を纏った拳がリ・デストロの頬に突き刺さるが、ベストジーニストはさらに拳を振り抜き続ける。

 

「ブラブラブラブラブラブラァ!

 …………ブラァボォーーーー!!!!」

 

「がっ、ご、ごぉ、ごはぁぁぁぁぁああ!!」

 

超速のラッシュがリ・デストロの顔面を歪め、吹き飛ばして壁に叩きつけ、とどめの一撃が生み出した衝撃が彼の体を通じて背後の壁を粉砕した。

 

「……お……ご……ぁぁあああ……!

 解……放……解放、をぉ……ooooOOOOH!」

 

「哀れな……まだ妄執に憑りつかれているのか……」

 

リ・デストロは深刻なダメージと過剰すぎるストレスで我を忘れている。

白目を剥いて息を荒げ、やたらめったらに拳を振り回し周囲を破壊し続ける。

ベストジーニストはそれを一歩引いた場所から見つめ、聞こえないとわかっていても問いかける。

 

「異能解放……誰もが自由に力を使える社会……。

 それがどのような世界なのか、貴様たちは本当に理解しているのか!?」

 

「GAAAaaaaaaaa!!」

 

ヒーローは個性の使用を許されている。

だがヒーローだからといって個性を自由に使っていいわけではない。

『犯罪に使ってはならない』。

『災害やヴィランから人々を守らねばならない』。

『相手がヴィランであっても過剰に攻撃したり、殺害してはならない』。

他にも数多くの規則があり、それを守るからこそ個性の使用を許され、人々から隣人として受け入れられている。

そして規則を破ればヒーローであってもヴィラン同様に罰を受ける。

 

「規則とは、社会を守るためだけにあるのではない!

 転じて自分たち自身を守ることにも繋がっているのだ!

 貴様らヴィランの憎む規則が、貴様らヴィランの身を守っていることを何故理解しない!」

 

思い浮かぶのは敬愛する我らがチームの総大将。

たった一人で社会どころか、世界そのものを破壊しうる圧倒的な力を持ちながら、信念により自らを律する偉大な英雄。

想像してみるがいい。

彼女が自らの枷を解き放ち、欲望のままに力を振るう姿を。

 

「その時に……死ぬのは貴様らだぞ!」

 

規則が無くなるということは自分たちだけでなく、敵対する相手も規則に縛られなくなるということ。

異能解放を掲げる連中は『自分たちが強者であり支配者である』という前提でしか考えていない。

 

ヒノカミは『この世界のことはこの世界の者が解決した方がいい』という考えで自制しているだけだ。

仮にこの戦いでヒーローが敗れたならば彼女は重い腰を上げるだろう。

その時にこの世界が超常解放戦線の望む『強者が自由に力を振りかざすことを許された社会』になっていたとすれば。

……彼女を縛る誓約は全て取り払われる。

彼女は元々、超常黎明期の混沌とした時代に生きた『ヴィジランテ』。

規則が無いならためらう理由がない。

『捕らえる』ことなく全てのヴィランを『殺し尽くす』だろう。

 

ヒノカミ以外にも、公安の手先として後ろ暗い仕事を続けてきたホークスや常に命がけで戦ってきたミルコなどは『ヴィランの殺害』が許可され必要と判断すればためらわない。

他にも平和を守る意志を持ちながらも行動が過激なヒーローはいくらでもいる。

バクゴー……ダイナマイトなどその最たる例だ。

彼らの望む社会とは、ヒーローからヴィランへの過剰攻撃も許される社会でもあるのだ。

この日本ですら、超常黎明期ではそうだったのだから。

 

「お前たちは『個性を自由に使いたい』のではない!

 『自分たちだけが一方的に個性を自由に使いたい』のだろう!?

 そんな幻想があるものか!

 無秩序に力を振るえば、貴様らは更に強大な力に蹂躙されることになるのだ!」

 

「GuuuuuoOOOOH!!」

 

しかしベストジーニストの言葉はリ・デストロには届かない。

たとえ意識を失っていなかったとしても、耳を傾けることはなかっただろう。

 

「聞く耳持たぬか……『力こそが全て』というなら、私に倒されることすらも貴様らの望みの結果だ!

 痛みと共に……敗北を受け入れるがいい!!」

 

ベストジーニストは駆け出し、リ・デストロの振るう腕がぶつかることも無視して一直線に彼の懐に入る。

 

 

 

「……昇天!『ブラボーアッパー』!!」

 

「GYAAAAAAAAAaaaa……!!」

 

体格差のため下から上に放つ形となった全身全霊の一撃。

それはリ・デストロが暴れたことで脆くなっていた地下の天井を突き破り、彼を地上へと送り飛ばした。

 

「「「うわぁぁぁああ!!」」」

 

「なっ、なんだぁ!?」

 

「まさか……リ・デストロぉっ!?」

 

「奴が幹部か!ではあのコートの男はヒーローなのか!?」

 

リ・デストロを追って穴から飛び出してきたベストジーニスト。

そこは山荘から少し離れた場所で、多くのヒーローとヴィランたちが戦っていた。

ジーニストは地面に墜落し萎んだリ・デストロの隣に着地し叫ぶ。

 

「こちらベストジーニスト!!

 敵幹部の一人、リ・デストロは撃破した!」

 

「「「……うぉおおおおおおおおっ!!!」」」

 

ヴィランは悲鳴を、ヒーローは歓声を上げ、周囲一帯に大音量が響き渡る。

 

「……来たか!?」

 

しかし間もなく山荘の方から爆発音が生じた。

 

「私は仲間の支援に向かう!コイツの護送は任せた!!」

 

「「「はい!!」」」

 

通信で状況を把握していたベストジーニストは、ヒーローたちの声援を受けながら次の戦場へと向かう。




解放戦線「人は抑圧から解放され自由に力を行使するべき!」
ヒノカミ「では儂が力でお主ら皆殺しにしても文句ないな?」
解放戦線「えっ」

ラッシュの掛け声は武装錬金原作のボツ案を採用。
勿論、ベストジーニスト本人は大真面目です。
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