『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第28話 スピナー

「……しっかし、マ~ジでビクともしねぇな……」

 

もはや地下議事堂に残る敵はほとんどいない。

イレイザーたち3バカトリオに意識を奪われ次々と監獄へ直送されている。

なのでミルコは隅でうずくまったままのギガントマキアを眺める余裕があった。

 

AFOが死柄木弔に残した最大戦力。歩く災害。

ヒノカミが観測していた数カ月前の弔との戦いで、その戦闘能力と複数の個性が判明している。

非常に頑丈で、とんでもないパワーを持つ。

全長25メートルほどにまで巨大化する。

嗅覚が優れている。

食事や休息をほとんど取らず長時間活動できる。

土の鎧を纏い、地中を自由に移動する。

基本的には主からの命令がないと動かないらしいが、他にも条件があるかもしれない。

なので手を出すのは他の幹部たちを倒してメンバーが揃ってからだと厳命されている。

 

「やっぱ今のうちにシバキ倒した方がいいんじゃねーのか?

 ……ん?」

 

「……うぉぉぉおおおお!!」

 

考えにふけっていたミルコに、マキアの影に隠れていた一人のヴィランが襲い掛かる。

ミルコは向けられたナイフを足で弾きそのまま当人も蹴り飛ばそうとしたところで、相手が誰かに気付いて動きを止める。

 

「……あ~、お前敵連合の『スピナー』だろ!?

 ワリィワリィ、デカイ気配感じなかったからお前も上にいんのかと思ってたわ!」

 

「くっ……おのれぇ、ヒーローの偽物が!」

 

悪態をつくがここから彼に出来ることはない。

戦闘力の差は歴然。仲間はほとんど気絶させられ捕らえられた。

一か八か奇襲に賭けたが結果は失敗。

 

「……だがたとえ敵わずとも一矢報いて見せる!!

 オレも敵連合の!超常解放戦線の一員だ!!」

 

彼の個性は『ヤモリ』。

ただ壁に張り付くことができる程度の能力でしかない。

ステインに触発され敵連合に参加する前は、異形系だからと迫害されていた一般人の引きこもり。

体を鍛えていたわけでもない。戦闘技術も拙い。

強力な個性を持つ仲間たちの中で、彼だけがあまりに弱い。

解放戦線にて行動隊長という地位にいるのも敵連合への参加が早かったというだけ。

それを自覚してもなお、彼は仲間のために強大なヒーローへと挑む覚悟を示した。

 

「ほ~ぉ、伊達に幹部名乗ってねぇな。

 やっぱ頭一つ抜けてやがるぜ」

 

だからトップヒーローであるミルコからの評価を聞き間違いかと思った。

 

「……何を、言っている。嫌味のつもりか!?

 オレが弱いなんてことくらい、オレが一番わかっている!!」

 

「テメーこそ何言ってんだ?

 気絶しなかったってことはマイクの攻撃耐えたんだろ?

 ありゃ並みのヒーローでもバタバタ倒れる威力だ。

 実際他のヴィランは全滅してんだから、テメーの方が強ぇーじゃねぇか。

 あのスケプなんたら見たかよ、泡吹いてたぜ?

 幹部ってんならテメーくらいの気概を見せてほしいもんだ」

 

確かに実力は足りていないかもしれない。だが彼の心は揺るがなかった。

弱者をふるいにかけるマイクの洗礼を受けても、動揺するだけで意識を失わなかった。

彼は既に地位にふさわしい結果を示していた。

 

「だからこそ手は抜かねぇ。

 かかってこいよ、スピナー」

 

「……くは、はははは……」

 

凶暴な笑みを浮かべた女傑が放つ、霊圧すら込められた威圧。

スピナーは力なく笑うがそれは委縮し敗北を悟ったからではない。

同じく弱い動物を模した個性を持ちながら、圧倒的実力と功績を示したトップヒーローに、自分は敵として認められたのだ。

ちっぽけだが確かな充足感が彼を満たしていた。

 

「……開闢行動支援連隊『BROWN』行動隊長、スピナー!」

 

「お、名乗り合いか?いいねぇ。

 チーム『ワン・モア・タイム』ナンバー4、ミルコだ!!」

 

「行くぞミルコ!!」

 

「おう!」

 

両手にサバイバルナイフを持ったスピナーが、ミルコに斬りかかる。

 

「オラァ!!」

 

「ガハッ!!」

 

そしてミルコは彼を容赦なく蹴り飛ばした。

どれだけ覚悟があったとしても戦闘力の差はやはり覆せなかった。

しかし彼の行動は、一つの結果を残した。

 

 

 

「……おぉぉ……」

 

 

 

「お?」

 

仲間がどれだけ倒れても反応を示さなかったギガントマキアが、声を上げた。

気付いたミルコがそちらを向くと、たった今蹴り飛ばしたスピナーが持っていたナイフの一つが、マキアが大切に持っていたラジオに突き刺さっていた。

 

 

 

「……ぉぁぁぁぁぁああああああるじぃぃいいいいいいい!!!!」

 

 

 

「……やっべ」

 

マキアの絶叫はマイクの声をかき消し、地下全体に響き渡った。

振り向いた3バカトリオの前で、マキアは滂沱の涙を流しミルコを睨みつけながら巨大化していく。

 

「おいミルコ!手ぇ出すのは後だったはずだろ!?」

 

「しゃーねーだろ!不可抗力だ!

 それより撤収!コイツ相手に地下は不味いんだろ!?

 もう他に気配はねぇ!そこのスピナーで最後だ!

 テメーらはソイツ連れて先に脱出しろ!

 アタシはコイツを引きつけつつ地上に出る!」

 

「「「了解!!!」」」

 

「お前らも聞いたな!?手ぇ空いた奴はこっちに来い!

 それまではアタシがコイツを抑える!!」

 

イレイザーたちがワープゲートで脱出したことを確認し、チーム専用の通信機に一方的に宣言した後、ミルコは地上に繋がるルートの一つを駆け上がる。

一人二人しか通れないような狭いルートだ。

暴走したマキアは『土竜』の個性で壁を泳ぐように破壊しながらミルコを追いかける。

そしてミルコが打ち出されるかのように空に飛び出した直後、爆発音と共に地上にマキアの巨体が現れた。

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