「皆様……誠に……申し訳ありませんでした!!」
深々と頭を下げたエンデヴァーを、カメラのフラッシュがストロボのように照らし続ける。
十数秒後顔を上げるが、まだシャッター音は鳴り響いていた。
「質問よろしいでしょうか!」
記者たちが我先にと手を挙げるが、エンデヴァーは無言で彼らに向け掌を広げて見せる。
それが静止を意味するジェスチャーだと気付いてもなお、場が鎮まるまで暫くの時間がかかった。
「……まだ話さねばならないことが残っています。
ここからは私個人からではなく、ヒーローとして伝えねばならないことです。
……これがエンデヴァーの最期の仕事です」
するとエンデヴァーの背後に巨大なモニターが出現する。
「現在、私の会見に合わせて国内ほぼ全てのヒーローを動員しての一大作戦が行われています。
『異能解放軍』という単語に聞き覚えはないでしょうか?」
視聴している国民には知らない者も多いだろうが、会見に参加するような記者ならば当然知っている。
遥か昔に起きた『異能解放』を掲げた集団によるクーデター……その首謀者が獄中で書いた本があるのだが、最近になって妙に売れ行きが伸び話題になっている。
「遥か昔に壊滅したはずの彼らは陰に潜んで爪を研ぎ続けていたことが発覚しました。
その構成員の数は……10万人以上」
「「「!?」」」
「こちらが、その証拠映像となります」
エンデヴァーの背後のモニターに表示されたのは、3カ月ほど前に起きた『敵連合』と『異能解放軍』の戦いの様子。
ヒノカミの記憶映像を取り込んだものだ。
個性と暴力を振るうサポートアイテム会社の社長、IT企業取締役、国会議員である政党党首、他にも多くの著名人。
そして彼らの指揮の下で『敵連合』へと戦いを挑む、狂気じみた形相の民衆たち。
公的には『20名ほどのヴィランチームの襲撃』とされていたはずの事件。
「これが隠蔽されていた、泥花市で起きた騒動の真実です。
この戦いの果てに『敵連合』は『異能解放軍』を屈服させ取り込み、『超常解放戦線』へと姿を変え、ヒーロー社会の転覆を目論み準備を進めていました。
よって彼らが決起する前に、我らヒーローは敵拠点へと襲撃をかけています」
続いて映像が切り替わり、日本地図が表示された。
泥花市、郡訝市、……蛇腔市。
至る所に赤い光が重なっている。
「これら超常解放戦線の拠点では、現在大規模な戦闘が行われています!
周辺住民の方々は、ヒーローの指示に従って速やかに避難してください!
これはただのヴィラン事件ではありません!
神野市の戦いの比ですらありません!
誇張無く、国家存亡の危機だとご理解ください!!」
現実だと理解してもらうために、ドローンで上空から撮影している現地の戦闘の様子を敢えて映し出す。
そこでようやく記者たちも実感し息を呑んだ。
この放送を見ていた市民にも、事態の深刻さは伝わったことだろう。
「繰り返します!
この地図に表示された地点にて、現在『超常解放戦線』との大規模な戦闘が行われています!
周辺住民の方々は、ヒーローの指示に従って速やかに避難してください!
……各放送局の方は、この放送を利用して引き続き情報の周知に努めてください」
そう言ってエンデヴァーが壇上を降りて扉に向かって歩き出した。
「!?エンデヴァーさん、どちらへ!?」
「……仲間たちが命を懸けて戦っています。
私もヒーローとして……いえ」
ドアノブに手をかけたところで、エンデヴァーが振り向いた。
記者たちはその表情を見て言葉を失う。
「……家出息子を、迎えに行ってきます」
エンデヴァーが今までに見たこともない表情を浮かべていたから。
彼の穏やかな笑みが、あまりにも優しく力強かったから。
「……あっ!待ってください!!」
一瞬呆けている間にエンデヴァーは扉を開け、部屋の外へと出てしまった。
記者数名が慌てて後を追いかけ扉を開ける。
「……いない!?」
扉の向こうは長い廊下があるだけで、人影一つ見当たらなかった。
――――……
「あぁぁぁぁあああっ!!」
エンデヴァーの引退宣言を聞いた途端に荼毘は錯乱し、モニターを燃やし周囲に炎をまき散らし始めた。
居合わせた者たちは彼を必死になだめたり、他の幹部を呼びに行こうとしたがそこでヒーロー襲撃の連絡が届く。
彼らは暴れまわる荼毘の説得を諦め、迎撃に向かった。
「ふざけんな!ふざけんな!!
ふざけんなぁぁぁああ!!!」
一人取り残された荼毘は目につくすべてを燃やし尽くし、それでも止まらない。
壁や床にまで引火し、部屋中が炎で包まれていた。
「ぐぁっ!?」
そして外典が巨大な氷塊を作り出した衝撃が山荘全体を揺らし、体勢を崩した荼毘は床に打ち付けられる。
(……熱い)
氷は山荘を揺らしたが、荼毘のいた場所にまでは届かなかった。
炎はさらに燃え広がり、部屋の温度が際限なく上昇していく。
耐火性に優れているはずの服にまで炎が引火していた。
(また……燃えちゃうのかな、オレ)
思い出していたのは、彼がまだ轟燈矢だった頃。
山中の訓練場で父を待ち続け、しかし彼は現れず、暴走した自分の個性が全てを焼き尽くした。
(あー……。でもなんか、もうどーでもいいや)
父の栄光を奪い、希望を踏みにじるつもりだった。
しかし彼はその前に全て自分で捨ててしまった。
彼を殺しても、最高傑作の弟を殺しても、罪のない人間を殺し続けても。
あの男はもう自分の望む表情をしてくれないだろう。
元々山火事から救出された時点で余命いくばくもないと宣告されていたのだ。
そんな状態の彼をここまで生かし続けてきたのは、燃え滾る復讐心。
その熱が弱まりつつある今、彼の命の炎も少しずつ小さくなっていく。
「……くひゃひゃ。一足先に地獄で待ってるぜ、お父さん」
「待たせはしない」
突如部屋に現れた男が剛腕を振るうと、その衝撃で部屋の一画が炎と共に吹き飛んだ。
「あぁ……?」
先ほどまで、都心のビルで記者会見を開いていたではないか。
こんなところにいるはずがない。
ヘリどころかジェット機を使っても、こんな短時間でこの山荘まで辿り着けるはずがない。
「あれから十年……随分待たせた。
これ以上お前を待たせはしない」
「……嘘だ」
「迎えに来たぞ、燈矢」