「……エンデヴァー」
「その名で呼ばれるのも、今日が最後だ。
尤も……すでにヒーローとして死んだも同然だがな」
床に倒れていた燈矢は飛び起きて、突然この場に現れた炎司から距離を取りつつ身構える。
しかし炎司は穏やかな笑みを浮かべたまま、自然体で燈矢をじっと見つめていた。
「テメェなんでここにいる!
……さてはあの会見映像はフェイクか!?
神野ン時みたいにこの襲撃を気取られないよう嘘の動画でも流したんだろ!?
なぁ、そうだよなぁ!?」
「いや、引退会見を終えてすぐに跳んで来た。
フレイムヒーロー『エンデヴァー』は今日限りで引退だ。
……何もかも無くしてしまったよ」
嘘であってくれと願うような燈矢の叫びに、炎司は静かに答えた。
燈矢の顔が更に歪む。
対して炎司は少しだけ顔を上に向けて目を閉じ、過去に思いを馳せた。
「だが不思議と後悔はない。
アレほど固執していたと言うのにな。
……俺はナンバーワンになりたかった。
そのために全てを、家族を、お前を犠牲にした」
「っ……あぁそうだ!テメェはオレを!オレたちを捨てた!
何もかも捨ててまでようやく手に入れたナンバーワンの座を!
なんで今になって自分から捨てやがった!?」
「だからこそだ。
捨てたものともう一度向き合うためには、その代わりに手に入れた物を捨てなければと思った。
……俺はゼロか百かしか選べない極端な男のようだ。
ホークス達からも、『不器用すぎる』と散々揶揄われた」
「向き合うだぁ……?
今更父親ヅラするつもりかよ!?」
「あぁ。下手くそで悪いが、続けていこうと思っている。
子を産めば親になるのではない。
親らしいことをしなければ親にはなれないと、ようやくわかったからな」
ゆっくりと一歩踏み出した炎司に対し、燈矢は腕から蒼い炎を吐き出しながら一歩後退った。
「……見事な炎だ。
師も無く独学でよくここまで……。
あぁ、お前はきっと凄いヒーローに成れただろう。
俺なんぞよりよっぽど凄いヒーローに……」
「っ!?何を今更ぁ!!」
燈矢は怒りに任せて蒼い炎を炎司に向けて放つ。
しかし彼は一歩も動く様子はなく、しかし寸前で腕を胸の前に構え、炎が届く瞬間に水平に振るって薙ぎ払った。
「うぉぁっ!?」
炎を振り払うだけでなく、振り抜いた剛腕が風を生み出し燈矢を更に退かせた。
思えば先ほど部屋の炎を吹き飛ばしたパンチもまるでオールマイトのようなパワーだった。
彼の個性は『ヘルフレイム』。炎を生み出す個性。
増強系の個性も無しにこんな真似はできないはずだ。
「何だ、そのパワーは!?」
「言っただろう?俺はお前たち家族と向き合うために全てを捨てたと。
恥もプライドも捨てた。
邪道だろうとなんだろうと、なりふり構わん」
「ハッ!悪魔に魂でも売ったってかぁ!?」
「……くっくっく、悪魔か。
そんな可愛らしいものではなかったがな。アレは」
(……誰だ、コレは……!?)
燈矢は動揺を隠せなかった。
目の前で笑うコレは自分の知っているエンデヴァーではない。
全く同じ姿形をした別の何かだ。
燈矢の表情に明らかな恐怖が浮かぶ。
いっそ逃げ出したいのに、じっとこちらを見つめてくる瞳から眼を逸らせない。
「さぁ来い燈矢、お前の全てをぶつけてみろ。
……俺も全力で応えよう!」
炎司が何かを握りしめた右腕を前へと突き出す。
それは六角形の小さなプレート。
『核鉄』と呼ばれる異世界の兵器。
「武装錬金!!」
炎司の叫びと共に核鉄が展開し、彼の体を包み込んでいく。
ヒノカミは『武装錬金』の劣化模造品の製造に成功している。
しかし『核鉄』は模造品どころか、テリトリーですら作り出すことができない。
個人の闘志に合わせて生み出された兵器を解析し模倣することはできても、個人の闘志に合わせて変形する兵器など、彼女の知恵と知識があっても全く理解が及ばないからだ。
よって炎司が持っているのは本当の意味での核鉄ではない。
核鉄の形態に変形する機構まで再現した簡易武装錬金だ。
他の武装錬金よりも特に念入りに研究していたヘルメスドライブでさえこの機能は再現できていない。
だがヘルメスドライブ以上に解析と模倣が進んでいる武装錬金が、一つだけ存在する。
「何だよ……なんだよそれはぁ!?」
やがて姿を現した炎司は、全身が赤と青の金属の鎧に包まれていた。
額から金色の角が生え、背中から炎を噴き出している。
それはまさしく『鬼人』だった。
「『ナンバーワンヒーロー』のエンデヴァーはもういない。
『チーム『ワン・モア・タイム』ナンバー1』のエンデヴァーとして、俺は最期の戦いに臨む。
燈矢……俺はもう、お前たちから目を逸らさない!!」
・簡易武装錬金『
ヒノカミの武装錬金の模造品。
周辺の熱を吸収して出力に変換する。
開発者本人の武装錬金であるため理解が深く、オリジナルと遜色ない再現度を誇る。
しかし彼女の武装錬金は『炎を操る個性』との併用が前提だったため、他の人間には扱えなかった。
ヒノカミと遺伝子的に近い個性を持ったエンデヴァーだけが起動に成功。
本人の意向により、頭部の仮面は目と口元が露出している。
轟舞火と轟炎司は兄妹であり、同じ起源の炎の個性を持っています。
あらゆる平行世界において、エンデヴァーは最もヒノカミに近い炎を持っています。