『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第35話 救うための『OFA』

時は遡り、超常解放戦線との決戦のおよそ2カ月前。

チーム『ワン・モア・タイム』が結成され、メンバーたちが修行に明け暮れていた頃。

島の研究所に与えられた自室にて眠っていた緑谷は、文字通り『夢の中』にいた。

 

「よく来てくれたね、緑谷くん」

 

黒い嵐が吹き荒れるような空間に浮かんだ壁や天井の崩れたボロボロの小部屋。

そこに8つの椅子があり、7人の男女と一人の靄のような人物が座っていた。

 

「アナタ方は……まさか……!」

 

「あぁ……僕たちが歴代の『ワン・フォー・オール』継承者だ」

 

線の細い青年。彼が初代OFAでありAFOの弟『死柄木与一』。

5代目の万縄とは以前に会ったことがあり、7代目の志村菜奈も見たことがある。

靄のような人物はどうやらオールマイトの残像のようなものらしい。

他の人物は知らないので紹介してもらった。

2代目、3代目、4代目……。

 

「そしてアナタが、『僕たちの世界の』6代目……」

 

「……」

 

赤い服で口元まで覆っている黒髪の青年『(エン)』。

彼は一言も発することなく、沈痛な面持ちで顔を伏せている。

 

「あの……どうされましたか?」

 

「そっとしといてやってくれや。

 いつもはもっと陽気な奴なんだが……あっちの嬢ちゃんとの差を見せられちゃあ、落ち込むのも仕方ねぇさ」

 

「……自分が情けねぇよ。

 アイツが俺の知ってる『六道リンネ』とは別人だってのはわかってる。

 だが『あの時生き残ったのが俺でなければ』と……思わずにはいられねぇ」

 

「あまり自分を責めないでくれ、煙。

 それを言い出したら、結局兄さんを倒せなかった僕らだって同罪だ。

 ……おっとごめんよ緑谷くん、置いてけぼりにしてしまったね。

 君をここに呼んだのは、君と話をしたかったからなんだ」

 

与一は語り出す。

緑谷が霊力修行を始め、急速にOFAと適合し始めたことでOFAの成長もさらに加速した。

結果OFAの中にあった歴代継承者の意識もより強くなり、こうしてOFAの中でコミュニケーションすら取れるようになった。

 

オールマイトと緑谷が見聞きしたことは全て彼らにも伝わっている。

ヒノカミの正体と、彼女の故郷。

OFAが無個性の人間にしか使いこなせないと確証を得ていること。

死柄木弔は7代目である志村菜奈の孫であることも。

しかしAFOが死柄木弔を育てている理由はわかっていないようなので、継承者たちはそれを緑谷に伝えねばならないと考えた。

 

「個性には意識が宿る。今の僕たちがその証拠だ。

 兄さんは『オール・フォー・ワン』の個性を死柄木弔に移植することで、彼の肉体と精神を乗っ取ろうと画策している。

 『ワン・フォー・オール』を手に入れるためにね」

 

「『ワン・フォー・オール』の原点は『オール・フォー・ワン』に屈しないという強い意志。

 それを捻じ伏せるには『ワン・フォー・オール』を上回る強い感情が必要さ。

 そのために奴は死柄木弔の持つ強い憎しみを利用しようとしているのさ」

 

「兄さんに『ワン・フォー・オール』を奪われれば本当にすべてが終わりだ……と思っていたんだけどね」

 

その心配はもはや杞憂だ。

異界のOFAが紡ぎ生み出した最強の英雄がこの世界に訪れた以上、AFOの野望が叶うことは決してない。

今の彼女は自身の信念に従いサポートに徹しているが、この世界の者たちで解決できねば自分が動くと公言している。

たとえAFOがOFAを手に入れたとしても彼女に敵うはずはない。

AFOが秩序を破壊し世界を支配したとしても、彼女は世界そのものを破壊することすら可能なのだ。

 

「今の君たちの成長を思えば十分に勝ち目があるし、万が一君たちが負けたとしても彼女が動いた瞬間に全てが終わる。

 勝っても負けても兄さんは終わりだ……死柄木弔もね」

 

「でもそれを、君は望まないんだろう?」

 

そこで割り込んできたのは『この世界』では唯一の女性継承者である7代目の志村菜奈だった。

彼女は椅子から立ち上がり、緑谷の前にまで歩み寄ってくる。

 

「『ワン・フォー・オール』は……私たちは君の気持ちに呼応する。

 だから君が強く思ったこと……君が『死柄木弔を助けたい』と思っていること、わかっちゃうんだよ」

 

「……」

 

緑谷が最初にそう考えたのは、死柄木弔が7代目の孫だと知らされてからだった。

オールマイトの恩師の血縁を、戦えなくなった彼の代わりに救い出したいと願った。

そして今、死柄木弔がAFOに利用されていると知りその気持ちはさらに強くなった。

 

「君の気持ちは嬉しい。

 だけどあの子はオール・フォー・ワンに、強い憎しみを宿すように育てられた。

 赦すことも、わかりあう事も叶わない。

 ……救いようの無い人間は、いるんだよ」

 

緑谷の目の前にまで来た志村は、彼の両肩を掴み迫る。

 

「これだけの騒動を起こしたんだ。

 今の時代の法に照らし合わせても死刑は免れない。

 それでも君は、あの子を助けたいって言うのかい?」

 

緑谷は一度俯くが、やがて拳を握り顔を上げる。

 

「……確かに『ワン・フォー・オール』は、『オール・フォー・ワン』を『討つための力』なのかもしれません。

 でも僕が憧れたオールマイトの力は……『救うための力』だったんです」

 

「「「……」」」

 

「彼を生きたまま捕まえても結局死ぬことになるのかもしれない。

 勝っても負けても同じことなのかもしれない。

 僕はまだ子供で、僕の肩には世界の命運なんてかかっていない……だからこそ」

 

歴代継承者全員が睨みつける中で、緑谷は胸を張って宣言した。

 

 

 

「『子供らしく』ワガママを言います!

 僕は、誰かを助けられる人間になりたい!」

 

 

 

「……ック」

 

 

 

「「「くっはっはっはっはっは!!」」」

 

初代、4代目、5代目が笑い出し、2代目と3代目はため息をつく。

6代目は天を仰ぎ、7代目は目を丸くしていた。

 

「フフッ、そうか。

 『討つための力』が『救うための力』にか」

 

「俺たちはオール・フォー・ワンを討つためにと、幾つもの命を踏み台にしてきた」

 

「君は、そんな俺たちの力で誰かを救うと言うんだな」

 

「ならば子供の歩みを支えるのが、我ら大人の役目だろう」

 

「おい煙!後輩にここまで言わせたんだ!

 お前もいい加減にシャキっとしろぃ!」

 

「痛っつ!……わかりましたよ、先輩。

 落ち込むのは……全部終わってからですよね」

 

「……ありがとう、出久くん」

 

『……』

 

 

そして目が覚めた。

その日は島にメンバー全員が泊まっていたため、彼らを集めて夢の中の出来事を全て話した。

オールマイトもOFAを通じて夢を見ていたらしく、緑谷が過去の継承者と対面し会話したことは事実として受け止められた。

 

「……頭イカレてんぞテメェ」

 

「今回ばかりは儂も勝己に同意じゃの。

 同情の余地があるとはいえ、死柄木弔を救うじゃと……?」

 

本来ヒーローとはヴィランを殺さず捕らえねばならない。

しかしAFOはヴィランどころか『人間扱い』すらできない。

存在そのものが害悪であり、オールマイトもヒノカミも奴の殺害を選択した。

個性『AFO』を受け継ぐことになる死柄木弔も同様。

それがこのチーム内での共通認識だったはずだ。

 

たしかに死柄木弔をヴィランになるように育てたのはAFOだ。

そういう意味では彼も確かにAFOの被害者と言えなくはない。

だが今は彼が彼自身の意志で考え行動している。救いなぞ求めてはいない。

そして殺すよりも生かして捕らえる方がどれだけ難しいかは、学生とは言えいくつもの戦場を経験してきた緑谷も理解しているはずだ。

しかし周囲の反対を聞いても緑谷は決意に満ちた表情を変えない。

 

「……あーもう、苦労したいなら勝手にせい」

 

「オイ!」

 

「嫌がる子供に『人殺しをしろ』とは言えまい。

 ……じゃから勝己、最悪の場合はお主が始末をつけぃ」

 

「!?」

 

「それは、デクと組ませるのはバクゴーに決めたということか?」

 

「これからの伸び次第ではあるがな。

 じゃがこ奴ならば迷わぬ。

 ……自分たちの命が危ない、戦い方を気にして勝てる相手ではないと判断したならためらうな。

 死柄木弔を『ぶっ殺せ』……できるな?『バクゴー』」

 

「……ハッ、上等ォ!

 だが一個だけ訂正しろや。

 オレはもう『バクゴー』じゃねぇ……決めてた名前があるんだ。

 オレのヒーロー名は……!」

 

 

 

「『大・爆・殺・神ダイナマイト』だぁ!!」

 

 

 

「「「「却下」」」」

 

「んでだクソがぁ!!」

 

「だってよぉ、ダサすぎんだろ」

 

「小学生か君は」

 

「そういえばあっちの勝己にも言ったな。『『殺』は入れるな』と。

 んで『ダイナマイト』に決まったんじゃが」

 

「じゃあそっちで申請しておくのさ!」

 

「クソがぁぁぁぁああああ!!!」

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