炎の矢が離れた場所のヴィランへと突き刺さる。
「ぎゃあああ!」
炎の蛇がヴィランの体に巻き付き焦がす。
「くそっ!離れろ!……消えねぇっ!熱い!!」
ヒノカミが収縮した炎を具足で踏みつけると爆発し、反動を利用して飛ぶ。
「なんだ!?速ぇ!」
そして手にした黒い刀で、次々とヴィランを切り裂いていく。
「ぐあぁあぁ!腕が、俺の腕がぁぁっ!」
「チィ!ヒノカミ……まさかまだ現役だったとは!」
黒い靄の男が追加で次々とヴィランを呼び寄せるが、悉く切り伏せられていく。
ヒノカミは自分の弟子と、敵と見なした相手に容赦がない。
苛烈さでは兄であるエンデヴァー以上だ。
過剰にヴィランを傷つけるのはヒーローとして褒められた行為ではなく、現役時代もやりすぎではないかとマスコミに追及されることも多かった。
しかしヒノカミは得意の口車で煙に巻き、時に揚げ足を取り、粘着質な相手ならば脅迫染みた行為すら辞さず、自分のやり方を徹底的に貫いた。
それは今でも変わらない。
一人一人攻撃するよりも、敵に恐怖を蔓延させた方が手っ取り早く鎮圧できると判断し動いていた。
「なんだこのババア!ホントにヒーローか!?」
「人斬りに躊躇いがねぇ!
マジで俺らを殺す気じゃねぇよな!?」
「オイ!切り札ってのはどうしたんだよ!
……まだオールマイトを殺せてねぇじゃねぇか!」
「駄目だ、俺らが先にやられちまう!
やってられっか!」
最初の一人が背を向け逃げ出した途端、包囲網は瓦解し我先にと逃走していく。
追いかける必要はない。USJ付近には巡回のヒーローを特に多めに配置していた。
通信が途絶した時点で動き出し、すでにこの施設を包囲しているはず。
ヒノカミが注意を払うべきは目の前にいる転移を使える黒い靄の男だけだ。
「かかか、友達は選んだ方が良いぞ?
お主も逃げたいか?……それは許さんがな」
「何!?ぐっ……!」
黒い靄の男は個性を使おうとしたようだが、できなかった。
いつの間にか近くに来ていたイレイザーヘッドが個性を消しながら捕縛布を操り彼の体、靄の内側にあるわずかな実体の部分を捕らえ、隣に立つ13号がいつでもブラックホールで飲み込めるよう指を突き付けている。
二人のヒーローは生徒たちの護衛を務めていたはずと彼らがいた高台を見上げると、生徒たちの付近にはすでに別のヒーローが何人もいて、逃げ出したヴィランの捕縛と生徒たちの避難誘導を行っていた。
「増援……!?バカな!
通信は完全に封じていたはず!」
「逆じゃ阿呆め。
通信が途切れた時点で異常事態と見なしたのよ。
厳戒態勢の雄英を舐めすぎじゃろ」
集まったメンツは、巡回のヒーローほぼ全員。
どうやら他の場所への襲撃はなかったらしい。
もはや打つ手をなくした黒い靄の男をイレイザーヘッドたちに託し、ヒノカミは手だらけヴィランへと向き直る。
「黒霧ぃ!テメェ何捕まってんだ!殺すぞ!」
「申し訳ありません……死柄木弔……!」
転移個性持ちの、この黒霧という男がいなければUSJから脱出することはできない。
オールマイトは脳無が封じているが、脳無が封じられているとも言える。
もはや軍勢はおらず残るは手だらけヴィラン、死柄木弔本人だけ。
黒霧を奪還するため掌を構え、ヒノカミたちへと迫る。
「っぐぁぁあ!!」
「おっとそこまで。
お前さん、厄介な個性持ちらしいからな。
接近戦なんてさせねぇぜ」
増援のヒーローの一人、スナイプが遠方から弔の手足を打ち抜く。
弔は足をもつれさせ、走る勢いのままヒノカミの目の前へと倒れこんだ。
「くそ!くそ、くそぉ!!」
「はい、お疲れ」
立ち上がることもできずに転がる弔に歩み寄り、ヒノカミは容赦なく、彼の掌を踏みつけた。
「があぁぁぁああああっ!!!」
記録映像から彼は指で触れた物体を粉々にする個性持ちだと判明している。
解析の結果、発動条件はおそらく5本の指がすべて対象に触れること。
だから何本か指をへし折っておけばもはや個性は使えない。
すでに完全に無力化されたと言えるが、ヒノカミはどこまでも容赦がない。
「念のため、その両腕斬り落としておこうかの」
「ひっ!」
ヒノカミは多めに食材を買い込んでおく主婦のような気軽さで、刀を振りかざした。
ようやく追い詰められている状況を理解し、弔は恥も外聞もなく叫んだ。
「脳無!脳無っ!
殺せ!こいつを殺せぇっ!!!」
反応した脳無がヒノカミの方へと向き、オールマイトの妨害を無視して突撃してくる。
恐ろしい速さ。弔に止めを刺すのは無理だと諦めその場を離れる。
「は、ははは!そうだ脳無!皆殺しだ!
ヒーローどもを一人残らず皆殺しにしろぉ!」
「……!!!」
もはやこの状況で敵連合が勝利するには、いや弔が生き延びるにはそれしかなかった。
追加でやって来た援軍、セメントスとエクトプラズムがそれぞれの個性を使って脳無を抑え込もうとする。
「……むぅ、これは……」
「ナントイウパワーダ……!」
全身を覆うセメントも、飛びかかる分身体も、脳無はすべて力づくで破壊する。
しかしおかげでオールマイトにわずかに自由ができた。彼が大声で叫ぶ。
「この脳無という怪人、身体能力だけなら私に匹敵する!
そして個性、衝撃を吸収するらしく打撃が効かない!
また手足をもがれても再生する!」
「なるほど、徹底的に貴様の対策を取っていたということか。
あの自信も納得じゃの」
オールマイトの隣に移動していたヒノカミ。
彼女も息を吸い込み続けて叫ぶ。
「全員下がれ!
この怪人、儂とオールマイトの二人で相手をする!」
「ヒノカミ!?」
「貴様相手に特化しているならば、貴様以外が前に出ればよい。
しかしこの場であれの正面に立てるヒーローは、儂しかおるまい?」
「……聞いての通りだ!
エクトプラズムは主犯の死柄木弔を連行!
セメントスは檻を作って私たちと脳無を囲んでくれ!」
エクトプラズムは分身体を囮にして、本体が動けない弔を掴んで離脱。
セメントスが半球状のセメントの檻を作って脱出を妨げる。
動き出そうとした脳無を阻むように、ヒノカミとオールマイトが立ちはだかった。
手すきになった他のヒーローたちは万が一に備えて檻の周辺に待機し、二人の戦いを見守る。
「連携して戦うのはいつぶりかな……頼むぜ、相棒」
「こちとらブランクで鈍った身じゃが……何とかするかぁ」
主人公、容赦ないです。
書いてたら当初の予定よりもっと容赦なくなりました。