「もどかしいですね……」
「だな」
ギガントマキアと戦っているミルコを少し離れた場所から見守りつつ、ホークスとベストジーニストは呟く。
AFOが死柄木弔に残した最強の化け物を相手にした戦いは、彼らの当初の予想と異なり劣勢とは程遠い。
それどころか完全に圧倒していると言っていい。誰も傷一つ負っていないのだから。
25メートルという巨体。その大きさに見合ったパワー。
並みのヒーローでは相手にならないが、生憎とこの場にいるのはオールマイトを超える力を手に入れたトップヒーロー3名。
ホークスはどんな攻撃でも見てから避けられたし、ベストジーニストは高い防御力で防ぎきった。
ミルコに至っては彼らの眼の前でマキアと力比べを楽しんでいる始末だ。
彼らは彼らが思っていた以上に強くなりすぎてしまっていた。
しかし戦いは未だ終わる気配が見えない。
「まさか加減の仕方に手間取るなんて思いもしませんでしたよ」
「不殺の誓いがここまで立ちはだかるとは……」
問題はギガントマキアがとんでもなくタフで、痛みを感じていないこと。
どれだけ怪我を負わせても自分の身を顧みず立ち上がり襲いかかってくる。
文字通り死ぬまで暴れまわるだろうという予感があった。
ホークスの羽根では斬りつけても浅い。貫通攻撃は殺傷力が高すぎる。
ベストジーニストが霊力を込めた糸はマキアですら千切れないが、細すぎてワイヤーカッターのようになってしまう。
手足を切断されることも構わず動きかねない。失血死一直線だ。
よってマキアの意識が向いていることもあって、打撃主体のミルコに任せ二人は戦場から距離を取った。
彼女がミスをする可能性に備えて警戒しているものの、今のところ実質見てるだけ。
ミルコ本人が楽しそうに暴れているので罪悪感はないが。
「ひょっとして、オレたちが手加減で困るのもオール・フォー・ワンの狙い通りだったりするんですかね?」
「『あり得ない』と言い切れないのが、奴の恐ろしいところだな」
とは言え、後は時間の問題だ。
先ほど校長から特製の
本来は弱らせた後から拘束具を使い動けなくする予定だったが、埒が明かないのでひとまず『マキアでも簡単に壊せない牢獄を作ってそのまま押し込めてしまおう』となったわけだ。
サイズがサイズなのでクラウドのワープゲートでも転送できないため、現在塚内が主導しこちらに輸送中らしい。
他のヴィランも、ほぼ残党狩りの段階。
一般構成員のほとんどは捕らえられた。包囲網は未だ健在。
残る幹部も僅か3名。荼毘とトガヒミコとMrコンプレスだけだ。
しかしヒノカミの武装錬金を身に着けたエンデヴァーには荼毘の炎は効かないし、通信機から響く雄叫びを聞く限りウラビティが優勢。
コンプレスは捕まっていないが大した抵抗もできず逃げ回っているらしい。
問題は死柄木弔だが、ヒノカミ本人がついている以上デクとダイナマイトの心配も不要だろう。
『敵と分かり合う』という彼らの目標を達成できるかはともかく、敗北はあり得ない。
世界の命運をかけた一大決戦は、間もなく『ヒーロー側の完全勝利』で幕を閉じようとしている。
「……む?」
マキアの動きが止まった。
身構えたまま、突如ピタリと止まったのだ。
「……あるじ……?」
呟いたマキアが、周囲をキョロキョロと見渡す。
「……ぁぁぁああああるじ!
感じるのに、感じない!!どこだ、どこだ!?
ぁぁああるじぃぃぃいいい!!!」
そして錯乱しボロボロと涙を流しながら暴れ始める。
周囲が見えていないようで、ミルコがホークスたちの傍まで退避しても気付いていない。
「オイ!アイツどうしたんだ!?」
「我々にもわからん!」
『みんな!聞こえているかい!?』
3人が揃ったタイミングで、全員の通信機からオールマイトの声が聞こえてくる。
『そっちの状況は把握している!
マキアの変貌の原因はおそらく『死柄木弔の復活』だ!』
「!?ついに動きましたか、デクくんたちは?」
『先ほど戦闘を開始した!今のところは問題ない!
ヒノカミのテリトリーも維持されていて、周辺への被害も完全に防がれている!』
「……では奴は、結界の中にいる死柄木の復活を察知したというのか!?」
「『野生の感』って奴かねぇ……」
ヒノカミのテリトリーは、内外の干渉を完全に遮断する。
物理的な接触はもちろん、音も、空気も、通信も、個性による空間干渉も。
仲間たちに戦況を伝えるために光だけは例外にして中の光景が見えるようにしているが、その気になれば光さえも遮断できる。
マキアが気付くというのは完全に予想外だ。
「っ!あんにゃろ!!」
突如マキアに向けて駆け出したミルコを見て二人も気付いた。
ギガントマキアが、地中に潜ろうとしている。
「うらぁっ!!」
「がぁっ……あぁぁぁぁぁぁあ!!」
真下に潜り込んだミルコが蹴り上げ巨体が浮き上がるが、マキアは構わず地面に手を伸ばし続ける。
おそらく地中に潜って死柄木を探しに行くつもりだ。
『どこだ』と叫んでいたことから、少なくとも彼は蛇腔病院にいることを知らされていないのだろう。
だからこそ進行方向が予測できない。
こちらが手出しできない地中を通って市街地などに移動されれば大惨事だ。
「塚内!メイデンはまだか!?」
『まだかかる!』
「……こうなったらオレが」
始末する。
ホークスがそう宣言するより先に別の人物から通信が入った。
『ちぃと待ちな!今代わりのモンを持っていく!』
「グラントリノさん?代わりって……」
問いかける前に、マキアの向こう側にグラントリノが現れた。
彼の傍にいた何かが見る見るうちに大きくなり、マキアにも匹敵する巨体となった。
「『キャニオンカノン』!!」
「マウントレディ!?」
彼女のドロップキックがマキアの顔面を捉え、土の仮面が砕け散る。
そして彼女は左手をマキアの顔面に向けて突き出した。
直後マキアの動きが一瞬鈍るが、かぶりを振ってまた暴れ出す。
マウントレディは左手の上の何かを庇いつつ距離を取った。
「あーもう!しっかりしてくださいよ先輩!」
「うるっさいわね!コイツが眠るまで何回でもやんの!
負けてられないのよ……あのバカ共に!!」
「ホント!いいトシして落ち着きのない人ですよね!!」
「ミッドナイト!?」
「オレに言わせりゃどっちも大差ねぇよ、嬢ちゃんたち!」
おそらくこの決戦における最大最後の戦場に、チームメンバーですらない二人のヒーローが参戦した。