『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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本編最終話までのストックが完成しました。
完結まで1日2回投稿します。


第40話 恋バナ

『ミルコ。今回の君は失態が目立ちすぎるな』

 

『あーもー、んな詰め寄らなくても聞こえてるって。

 こちとら兎だぞ?』

 

『だったら反省してくださいよホント。

 グラントリノさん、マキアは?』

 

『嬢ちゃんの『眠り香』をがっつり嗅がせてようやく眠ったわ。

 ……あれ喰らってなお動き出そうってんだから恐れ入ったぜ』

 

「……マキアの方も捕まえたみたいやね」

 

「アハ、そっかー」

 

「やれやれ、完敗だなこりゃ」

 

山荘の瓦礫の上で倒れこむトガヒミコとコンプレスの傍にウラビティが腰かけている。

周囲にはヒーローもヴィランも誰もいない。

 

「コンプレスさん、一緒に戦ってくれてありがとう」

 

「ん-……まぁ負け確っぽかったからね。

 どーせなら最後は仲間のために戦いたかったのさ。

 それが可愛い女の子なら言うことなしってね」

 

「エヘヘ」

 

トガと一対一で戦っている最中に、彼女をサポートするためにコンプレスが参戦してきた。

とは言え実力差はもはや歴然。

ウラビティはトガが変身する隙を与えなかったし、コンプレスはそもそも相手に触れなければ個性が発動しない。

先ほどまで粘り続けたが揃って力尽きた。

圧倒的敗北だ。もはや逃げ出す余力はなく、あったとしてもその気力がない。

 

「……トガちゃん」

 

「?」

 

「ウチ負けへんから!」

 

たった今二人がかりで挑んで言い訳のしようもないほど完敗したばかりだ。

なのに勝利した彼女が『負けない』とはどういうことなのかとコンプレスが頭を捻るが、トガは満面の笑みで答える。

 

「……恋敵だもんね!」

 

「あ~そういうこと。こりゃオレも報われないねぇ」

 

二人の女の子の明るい笑い声と、一人の青年の自嘲気味な笑い声が廃墟に木霊する。

 

「後は荼毘……燈矢さんと死柄木弔やけど、そっちはエンデヴァーさんとデクくんたちが当たっとる。

 全部終わるまでもうやることもないし、一緒にゆっくりしとこ」

 

「そーいやお嬢ちゃん、荼毘がエンデヴァーの息子ってマジ?

 あとさっきの引退会見も」

 

「全部ホントですよ。今度こそ息子と向き合うんだって意気込んでました」

 

「そっかぁ……荼毘くんには素敵なお父さんがいたんだね」

 

「……お菓子あるけど食べる?」

 

ヒノカミの世界ではそうなる前に救われたらしいが、この世界のトガヒミコは自身の在り方を両親に否定され、ヴィランへと堕ちた。

貧しいが優しい両親を持つ麗日は彼女の内心を思い、秘蔵のかき餅を取り出した。

 

「……なんか女子っぽくないです」

 

「なんで!?えぇやんお餅!安くておいしくて腹だまりするんよ!?」

 

「今のでお嬢ちゃんの家庭事情もなんとなく察したよ……」

 

上半身を起こしたコンプレスが胸元から取り出したビー玉のようなもの。

それは彼が個性で圧縮し携帯していた食料だった。

 

「どーせ捕まったら全部取り上げられちまうだろうし、この場で食っちまうか」

 

「わ、スイーツも!」

 

「ウチももらっていいですか!?」

 

「あーはいはい、たんとお食べなさいな。ジュースもあっから」

 

どうせ自分一人では食べられない量だ。

目の色変えて甘味に飛びつく女の子たちを生暖かい目で見守りつつ、やけ酒のつもりで秘蔵のワインに手を伸ばす。

 

「でも弔くんと出久くんが戦ってるんですか……大丈夫かなぁ」

 

「だいじょぶだいじょぶ。

 デクくん『死柄木を助けたい』って言うとったし!」

 

「あのボサボサくんそんなこと言ってんの!?

 あの子の頭の方が大丈夫?」

 

「爆豪くんもコンプレスさんと似たようなこと言ってましたよ。

 『イカれてる』って」

 

「あぁ彼……言いそうだよねぇ……。

 てか死柄木強いよ?負ける心配はしないの?」

 

「ふふ~ん」

 

麗日はポーチから小さな機械を取り出した。

彼女が操作すると、空中に映像が投影された。

 

『うぉぉぉおおっ!!』

 

「あ、出久くん!」

 

「どうや!ウチらずっと秘密の特訓しとったんよ!

 デクくんもうめっちゃ強なっとるんやから!!」

 

『くっ……まだまだぁ!』

 

「わ、わ!血だらけで戦ってる出久くん、カッコイイです!」

 

「ウチはこの『絶対にくじけない!』って目がええと思うんよねー」

 

「……お嬢ちゃん、ちょっといい?」

 

思い人の雄姿に盛り上がる麗日に一言断って、コンプレスが質問する。

 

「この相手してる女の人……誰?」

 

「ヒノカミさんです。

 ウチらを鍛えてくれた人で、ウチらのチームの総大将。

 ……あ、他にも映像ありますよ!見ます?」

 

ひょっとしたらコンプレスはヒノカミに興味を持ったのかもしれないと勝手に脳内変換した麗日が機械のボタンを操作する。

緑谷だけではない。爆豪や麗日、エンデヴァーたちトップヒーローも含めたメンバー全員でヒノカミに挑んだときの映像だ。

 

「特訓ってもしかしてずっと一緒にいたの!?

 ズルイ!私も出久くんと一緒にお泊りしたかったです!」

 

「へへーん!ウチ一歩リードやし!」

 

相変わらず恋愛脳な女の子を余所に、コンプレスは完全に硬直していた。

 

(あ、ダメだ。こりゃ勝てんわ)

 

とんでもなく強くなっている麗日たち一人一人が全力を発揮し、連携してたった一人に襲い掛かっている。

なのにこのヒノカミという女は息一つ切らすことなく完全に彼らを圧倒していたのだ。

オールマイトだろうがAFOだろうが、マキアだろうが強くなった死柄木だろうが、超常解放戦線全員で挑もうが、この女に勝てるビジョンがまったく浮かばない。

コレが控えている以上、ヴィラン側に勝ち目がない。

『ヒノカミさんの一番カッコイイシーンがえぇよね』という麗日の気遣いは、コンプレスの心をボッキリとへし折った。

 

「お茶子ちゃん!この動画ください!」

 

「えぇよー、メアド交換しよ!」

 

「うん!!」

 

二人なのに姦しい少女たちを余所に、コンプレスはグラスに入れたワインをあおるように飲み干すと、天を見上げて呟いた。

 

「ハァ……いいなぁ、オレもお相手欲しい。

 刑務所で出会いってあんのかなぁ……」




自分の方が強くなったからというのもありますが、麗日もヒノカミに毒されてしまいヴィランへの敵意がほとんどなくなっています。
トガちゃんは元々傷つけ合うのが当たり前なので、ボコボコにされても麗日への敵意はほぼありません。
そしてコンプレスは多分気のいいにーちゃんだと思います。
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