『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第43話 轟 燈矢

「よし、いいぞ!今のは良く圧縮されていた!

 熱が体を焼く前に、熱を圧縮して放出しろ!

 お前の個性ならば俺以上の速さと威力で『赫灼』が使えるはずだ!」

 

「ハァ……ハァ……うるせぇ……!」

 

「フッ……まだまだ元気じゃないか」

 

エンデヴァーは目の前で悪態をつく荼毘を、微笑ましく見つめていた。

外見は母親似だが、諦めが悪いところや負けず嫌いな性格は自分に似ている。

 

爛れていた彼の肌は、傷一つない綺麗な姿になっていた。

失われていた顎の骨も再生し、歪んでいた顔も過去の面影を残す形に変わっていた。

ヒノカミから学んだ治療・再生の炎により、『荼毘』の姿は完全に『燈矢』になっていた。

 

「『赫灼』は俺よりも焦凍よりも、お前の個性にマッチしている技だ。

 でなければ独学でそこまで仕上げ、使いこなせるものか。

 最後のピースは俺が埋める。

 お前の『赫灼』を完成させろ!」

 

エンデヴァーは続きをしようとしている。

生き別れてしまった息子との、見限ってしまった息子との、特訓の続きを。

そして錯乱していた荼毘も流石にエンデヴァーの狙いに気付いている。

 

「……今更何のつもりだよ!

 ずっと……ずっと何も教えてくれなかったのに今更!

 オレはヴィランだぞ!オマエの炎で、大勢焼いてきた!

 ヴィランに力を与えて何しようってんだ……それとも今更ヒーローになれとでも言うつもりか!?」

 

 

 

「『なりたいものに、なっていい』」

 

 

 

エンデヴァーは即座に答え、問いかけた荼毘は口を開いたまま硬直した。

 

「『父親()のようになりたくない』といった焦凍に、母さんが言ったそうだ。

 ……母さんはきっと、本当はお前に、この言葉を言ってやりたかったんだと思う」

 

「……やめろ」

 

「俺たちはお前に生きてほしかったんだ。

 たとえ願いを踏みにじることになっても、結果恨まれることになっても、お前に生きていてほしかった」

 

「黙れよ」

 

「だが親が子の夢を阻むなど、あってはならないことだった。

 どれほど困難な道であろうと子に寄り添うのが親の役目だったのだ。

 俺はそれをお節介な妹分と、もう一人の俺自身から教わった」

 

「わけわかんねぇこと言ってんなよ!」

 

「だから今改めて、お前に力の使い方を伝えたい。

 お前が自分を傷つけなくともすむように。お前の望む道を歩んでいけるように。

 ……外道に手を染めたのは俺もだ。清廉潔白になれとは言えん。

 その力でヴィランとして生きるとしても俺には何も言う資格はない。

 そしてもはやヒーローでなくなる俺には止める資格もない」

 

「黙れっつってんだろ!」

 

「だが後を託せる者たちがいる。

 もしお前が歪んでも、アイツらが俺の代わりにお前を止めてくれる。

 だからアイツらとお前たちが作っていく未来に、俺はもういらないんだ。

 ……こんな風に考えられるようになったのは、お前のおかげだ。

 お前が俺に、『親とは何か』を教えてくれた」

 

「やめてくれよ……今更……今更ぁ!!」

 

 

 

「ありがとう、燈矢。『お前が生まれてくれて、良かった』」

 

 

 

「うぁぁぁぁぁァァあアアアッ!?」

 

 

絶叫と共に燈矢の全身から炎が噴き出した。

理性も制御も全て捨て暴走を始めた。

傷一つ無くなっていた彼の皮膚が再び炎で焼け爛れていく。

 

「燈矢!!」

 

炎司は高熱の塊となった燈矢に抱き着き、武装錬金でその熱全てを吸収しようとする。

 

(……ダメか!)

 

炎司の個性は『炎を生み出す』個性。

『炎を操る』個性でないためか、武装錬金による熱の吸収速度はヒノカミほど速くない。

燈矢から吸い取る量よりも燈矢が出す量の方が多い。このままではいずれ臨界を迎え爆発する。

 

「……ならばっ!!」

 

炎司は燈矢と自分を白い炎で包み、燈矢から熱を吸収し続け、その全てを両足から放出する。

 

「『赫灼熱拳』……ブレイジングバーン!!」

 

白い光が赤い尾を引いて天へと昇っていく。

その光は二人の戦場から離れていたヒーローやヴィランたちだけでなく、日本のほぼ全域で数多くの市民が目にしていたという。

 

 

 

――――……

 

 

 

 

「……見えるか、燈矢」

 

「うん……綺麗だ……」

 

上を見上げれば無数の星々、下を見下ろせば弧を描く惑星の輪郭。

二人はオゾン層を超え、成層圏を超え、地球と宇宙の境目にまで昇っていた。

人が生身で生きていられる場所ではないが、二人を包む白い炎が彼らを生かしていた。

 

「これが、お前の力だ」

 

「オレの……?」

 

疲労感と非現実的な光景のせいでまどろみの中にいる燈矢に、炎司は語り掛ける。

 

空を目指したのは、周辺への被害を防ぎ燈矢の炎を弱めるためだった。

誰もおらず、空気が薄く、気温も低い天空ならばと、たったそれだけの理由だ。

しかし燈矢の生み出した膨大な熱は、ついに二人の人間を宇宙にまで押し上げた。

 

「あぁそうだ、胸を張れ。

 お前はこんなすごいところに辿り着くことができるんだ。

 お前はこんなすごい景色を見ることができるんだ」

 

「……そっか」

 

「自分の世界を狭めるな。

 見ろ、世界はこんなにも広く美しい。

 まだ見たこともない物、見たこともない場所がたくさんあるはずだ。

 きっと大切なものが見つかるだろう。いつか探しに行くといい。

 お前の力があれば、お前はどこまででも行ける」

 

「うん」

 

「そして疲れたら、いつでも帰ってこい。

 俺はあの家でお前の帰りを待ち続けよう」

 

「……うん」

 

「……たくさん頑張って疲れただろう。

 だから今は、ゆっくり休みなさい」

 

「……お休み、お父さん」

 

眼を閉じ意識を手放した燈矢を起こさぬように抱きかかえ、炎司は脚から放出していた炎を弱めた。

この美しい世界をもう一度目に焼き付けてから、穏やかな顔で眠る息子に視線を落とす。

 

 

 

「帰ろう、燈矢。……みんなが待っている」

 

 

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