『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第21話

オールマイトは、並みのヒーローとは隔絶した力を持つナンバー1ヒーローである。

印象に残るのはパワーだが、ディフェンスもスタミナも、スピードも一級品。

そんなオールマイトのサイドキックを務めるならば、最低でも彼と同等のスピードがなくてはならない。

でなければ事件と聞けばすぐに飛び出す彼を追いかけることはできず、同じ戦場に立っても彼の動きについていけない置物になってしまうからだ。

 

ナイトアイはオールマイトを理解して思考を読み、予測により先んじて動くことで問題をクリアした。

グラントリノはサイドキックではないが、元よりスピードに特化した個性であったので連携することができた。

そしてヒノカミ。彼女はバランスの良いオールラウンダー。

炎の性質上水に弱く、個性で操る炎を別に用意しなければならないという欠点はあるが、個人戦・集団戦・接近戦・遠距離戦、およそあらゆる状況に対応できる。

しかしそれは尖った能力を持たないということでもある。

少なくとも、オールマイトのようなスピードを発揮できる個性ではない。

ナイトアイのようにオールマイトを先読みするなんて器用な真似もできない。

だから彼女はあまりにも危険な方法でオールマイトに並ぶ速さを身に着けた。

 

「……斬っても斬っても生えてきおる。

 トカゲでももう少し節操を持っとるもんじゃぞ?」

 

オールマイト並みの身体能力を持つ脳無の攻撃に晒されながらも、彼女は未だ一度も攻撃を喰らっていない。

しかし彼女の装備はすでに限界が近づいている。

脳無を切り裂いていた刀だけでなく、手足や胴体の装甲もだ。

 

「!!」

 

「うぉっと」

 

ヒノカミは肩の隣で浮かんでいた火球を爆発させ、自分の体を吹き飛ばすことで脳無の攻撃を躱した。

これがヒノカミの高速戦闘手段。

自分の周囲に圧縮した火球を待機させ、爆発させた衝撃を装甲で受け止め反動で高速移動する。

この戦法を想定した装甲であるとはいえ、体を吹き飛ばすほどの衝撃を受けてただで済むはずがない。

使うたびに骨や筋肉に多大な負担がかかっている。

しかしこのおかげでヒノカミは瞬間的にオールマイトを超える速度で移動することができる。

ただでさえ行動が単純で読みやすい脳無の攻撃など、彼女に当たるはずもなかった。

 

「……が、これは想定外じゃな。

 まさか儂の装備の方が先に駄目になるとは」

 

装甲は耐熱・耐衝撃性に優れている。

ボロボロに見えるが敵の攻撃は受けていないので壊れるのはまだ先だろう。

しかし問題は武器の方。

斬撃は個性で無効化されないとはいえ、頑丈な肉体のせいで刀身にかかる負荷はかなりのもの。

脳無の前にも大勢のヴィランを切り裂いていたこともあり血糊で切れ味も悪くなっていた。

 

「あ」

 

再び脳無の拳を躱しながら腕を斬り落とそうとするが振りぬくことができず、脳無の腕に食い込んだ状態で止まってしまった。

そのまま再生が始まり、刀が完全に肉に取り込まれた。

武器を手放すしかなかった。距離を取ろうとするヒノカミに脳無が迫る。

 

「チッ、任せた!」

 

「任された!」

 

割り込んだオールマイトが脳無を殴り飛ばした。

衝撃を吸収する個性のせいでダメージは与えられないが、足止めならできる。

先ほどまでもヒノカミが攻撃しやすいように脳無の注意を引いたり動きを妨害したりとオールマイトも活躍していたが、今の彼の攻撃で脳無に刺さっていた刀が壊れてしまった。武器がなければ今まで通りの戦い方は続けられない。

 

「さて、どうする?

 やっぱり力押しで行こうか?」

 

「やめんか脳筋。

 苦戦して見えるやり方は最後の手段と言うたであろうが」

 

ヒノカミたちの目的はただ勝つことだけではない。

ヒーローの圧倒的な勝利を敵に見せつけることである。

平和の象徴は未だ健在であり、どうあがいても敵うはずはないのだとヴィランたちに思い知らせるために。

主犯である弔と黒霧はすでに拘束している。

しかし予知によればもう一度襲撃してくるらしいので、おそらくここから何らかの手段で脱出するのだろう。

だが予知が変えられない、再度の襲撃事件が不可避なのだとしても、勝ち目が薄いと思わせれば彼らに協力しようとするヴィランは減るはず。

 

「とは言っても……刀は折れた、打撃は効かない、焼いても表面が焦げるだけとなると、どうやっても泥臭い戦い方しかできないんじゃない?」

 

「んー……リスクは高いが、アレを使うか」

 

ヒノカミは周囲の火球を一つにまとめて上空に待機させ、そこに残る着火剤を全て投げ入れた。

檻の外にいるヒーローたちにも熱気が届くような、巨大な火球が彼女の上に現れる。

火球はゆっくりと降下しヒノカミが掲げた右手に接触すると、少しずつ小さくなっていく。

炎が消えているのではない。

彼女の掌で凝縮されているのだ。

現れたのは、1mほどの大きさにまで圧縮された炎の棒。

それを構えて一歩踏み出すと、反応した脳無が突撃してきた。

十分に距離があったので動きは見える。

攻撃を躱すと同時に、脳無が通る軌跡上に炎の棒を掲げる。

 

「……!!?」

 

棒に触れた部位が何の抵抗もなく溶断された。

すぐに再生が始まるが、断面が高熱で溶解していたせいか再生速度が先ほどより遅い。

 

「『赫灼熱剣(かくしゃくねっけん)』」

 

エンデヴァーの『赫灼熱拳』を学んで編み出したヒノカミの必殺技。

圧縮した炎を放出するのではなく棒の形に留め、武器として振り回す。

欠点として、技の維持に個性の制御能力全てを費やすので他に炎を扱うことができなくなる。

つまり、爆発を利用した高速移動はできないということ。

 

「というわけで妨害と誘導、今まで以上に頼むぞ」

 

「……それ振り回す君に近づくの超怖いんだけど……やるしかないかぁ」

 

オールマイトはため息をつくが、気を取り直して脳無へと突っ込んだ。

それを追ってヒノカミも炎の剣を手に駆け出す。




・『赫灼熱剣』

超高熱のレーザーブレード。
射程は短いが火力はエンデヴァーの赫灼熱拳よりも上。
熱も含めて制御し閉じ込めているので触れない限りは安全。
発動中は他のことに個性を使う余裕がなくなる。

・フレイムヒーロー『ヒノカミ』

炎と剣術を操る武闘派ヒーロー。
小柄で見目麗しい女性ヒーローでありながら敵への容赦がないことで有名。
応用力の高い個性と並外れた剣の技量を持つが、自分で炎を生み出せないので他のヒーローの協力やサポートアイテムが必須。
水場や雨の日では個性が使い物にならず、戦闘力が激減する。

前回と今回で、主人公の戦闘スタイルをほぼ説明することができました。
彼女のスタイルは爆豪寄り。
爆発を多用したり、口が悪かったり、敵にかける情けが無かったりと共通点が多いです。
なので緑谷よりも爆豪の方と仲が良く、爆豪も彼女を身近な目標として慕っています。
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