『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

210 / 786
第48話 諦めない

AFOの消滅と共に、ヒノカミと死柄木の二人は現実世界へと引き戻された。

 

「ヒノカミさん!」

 

精神世界でのやり取りは現実では一瞬の出来事だったらしく、死柄木の行動に反応した緑谷が叫ぶ。

 

「案ずるな。もう終わった」

 

ヒノカミが振り向いて笑い、それを合図にようやく二人が駆け寄ってくる。

対してヒノカミから手を離したまま放心していた死柄木は、ふらつきながら数歩後退り、力なく佇む。

 

「うまくいった、ってことでいいんだな?」

 

「あぁ。オール・フォー・ワンの存在はこの世から完全に消滅した」

 

3人は揃って死柄木へと視線を向ける。

彼は右手を見つめ、何かを確かめるように握る開くを繰り返していた。

 

「『オール・フォー・ワン』の個性は消え、そちらに付随していた他の個性も焼き払われた。

 『超再生』も失った以上、先ほどまでの無理の反動で満足に動くこともできまい。

 ……貴様の『負け』じゃ」

 

「……負けた?」

 

「超常解放戦線もすでに崩壊した。

 力による革命を企てた貴様らが、力により敗れたのじゃ。

 潔く受け入れるがいい。それが敗者の義務じゃ」

 

「「……」」

 

ヒノカミの両脇に立つ緑谷と爆豪が無言で見つめる。

先ほどまでは気を回す余力もなかったが、マスコミのヘリが何台か飛んでいることにも気付いた。

死柄木の、敗者の姿が、日本中に中継されている。

 

 

「……くはっ」

 

 

 

「HAHAHAHAHAHAHA!!!」

 

死柄木が右手を顔に添え、天を仰いで嗤う。

飾りではなく自分の手だが、その見た目は実にかつての彼らしい。

その様相は力を失ってなお見る者に嫌悪感を抱かせた。

だがここから彼が逆転する目はない。

ヒノカミたちは気圧されることなく、冷静に死柄木を見つめ続ける。

 

「HAHA、HA……はぁ~……」

 

ようやく死柄木は動きを止める。

 

 

 

「ヤだね」

 

 

 

そして彼は自分自身に対して『崩壊』を発動させた。

 

「死柄木っ!?」

「テメェ!!」

 

「させるかっ!」

 

すぐにヒノカミが接近し、再生の力を込めた炎で包む。

逆再生するかのように壊れた肉体が戻っていくが。

 

「……なんじゃと!?」

 

再生した肉体が再び崩壊を始める。

 

(肉体そのものが変質!?えぇい!)

 

「『双天帰盾』!『私は拒絶する』!!」

 

死神の世界で出会った井上織姫の能力、『盾舜六花』をテリトリーで再現する。

彼女の能力は『事象の拒絶』。再生ではなく回帰。

死柄木が崩壊を使う前の状態にまで肉体を戻せば、確かに蘇生が叶うだろう。

 

「……間に合わん!!」

 

だが死柄木自身が生きることを諦めたせいか、魂の消滅が速過ぎる。

死柄木の肉体と魂をまとめて包んで対象としているが、それでもなお死柄木の魂はゆっくりと崩れていく。

これでは蘇生可能な段階にまで肉体が戻るより先に、蘇生不可能な段階にまで魂が崩壊する。

消滅を先延ばしにしているだけだ。

 

ヒノカミの『刻思夢想』は『彼女の記憶にある存在を再現する能力』。

対象を正確に記憶する必要があること、膨大な霊力を消耗すること以上に致命的な欠点がある。

ヒノカミがどれだけ自分を鍛え上げようが、大量の霊力を注ぎこもうが、『彼女が記憶したオリジナルを超える性能を発揮することはできない』。

 

これが経験を積んで成長した井上織姫の用いる『盾舜六花』ならば回帰速度の方が速かっただろう。

魂を長時間維持できるなら、魂の情報を読み取って『不可死犠』で肉体を一から再構成し蘇生することもできたはずだ。

だがヒノカミが修行をつけた当時の織姫の力ではこれが限界だった。

 

 

 

「「「死柄木ぃっ!!!」」」

 

 

「「「!?」」」

 

大声に驚いてテリトリーを解除してしまったが、『盾舜六花』は霊力を注いでいたので維持されている。

黒い靄から飛び出してきた敵連合の幹部たちが、修復が終わっていない死柄木の遺体へと駆け寄った。

 

「テメー!バカヤロー!!何あっさり諦めてんだ!!」

 

「たった一回負けたくらいで投げんなよ大将!」

 

「死柄木!オレは、オレはお前と行くと決めたんだぞ!!」

 

「私、弔くんやみんなのいる世界じゃないとイヤです!!」

 

チーム『ワン・モア・タイム』のメンバーたちも続いて現れる。

ここには報道のヘリも飛んでいる。

ヒーローがヴィランを連れてくるなど大問題だ。

だがヒーローたちは彼らの懇願に応え、共に死柄木の救援に向かうと決めた。

 

「イレイザー、どうだ!?」

 

「やはりダメだ!オレの個性じゃ発動後には止められない!」

 

「燈矢、頼む!お前の炎も貸してくれ!!」

 

「……アンタのためじゃない。仲間のためだかんな!!」

 

「ウチも、ちょっとくらいなら!」

 

武装錬金を纏った炎司が燈矢の炎を吸収し、癒しの炎に変えて死柄木へと注ぐ。

未熟だが治療術を学んでいたウラビティも両手から光を放つ。

 

『……HAHAHA!HAHAHAHAHAHAaa!!!』

 

「何笑ってんだテメェ……コイツらは諦めなかったぞ!

 仲間のために、テメェのために、最後までアタシらに立ち向かったんだぞ!」

 

「ムダだ、ミルコ……死柄木の魂は、もう……」

 

霊視能力を得ているヒーローたちは、遺体の上で壊れたように笑い続ける死柄木の魂が見えていた。

いや、もうとっくに『壊れていた』。

 

少しでも生き延びようという意志があれば、ここまで急速に崩壊が進むことはなかったはず。

彼を破滅へと突き進ませたのは『自分が救われることへの激しい拒絶』。

 

「なんでだよ……なんでそうまで拒むんだよ……!」

 

「……デク」

 

ヒーローたちはもう彼が助からないと理解してしまった。

彼らが願った最高のハッピーエンドは、死柄木の命を懸けた意趣返しにより苦い結末を迎えることとなった。

 

 

 

「……ふざけるなよ」

 

 

 

しかしその結末を、ヒノカミは認めない。

 

緑谷が正しかった。死柄木弔は救わなければならなかったのだ。

それこそが彼にとって何よりも重い罰となるのだから。

逃がしてなるものか。敗北から、責任から、仲間から、世界から。

 

 

パァン!!

 

「「「「!?」」」」

 

ヒノカミが改めて巨大なテリトリーを発動した。

この場にいた全員が内側に閉じ込められる。

 

ヒノカミはこの状況を打破できる『可能性がある』力を知っている。

その力を再現し使いこなすことができれば、彼を救える『かもしれない』。

しかし遥か昔に一度目にしただけ。観察は足りず、理解も浅い。

『条件が不足し過ぎている』上に、具現化できたとしても『成功率は著しく低い』。

そして何より『失う物が大きすぎる』。

そうまでして死柄木の、しかも別世界の彼を救う『義理はない』。

 

 

「それがどうした」

 

 

いくつ『やらなくていい理由』を並べたところで、彼女が『やらない理由』にはならない。

『やる』と決めた。それが全てだ。

 

「…………」

 

いつも荒々しくやかましい彼女が、口を噤み目を閉じた。

掌を合わせたまま両手の指を折り動きを止めた。

その姿はまるで神に祈りを捧げる巫女のようだった。

 

「「「「…………!!」」」」

 

そして膨大な霊力を練り上げ始めた。

この世界に来て初めて発揮する、彼女の全身全霊、全力全開。

テリトリーで遮断されていなければ世界中の人間がその霊圧を察し慄いたことだろう。

ヒーローもヴィランもなく、テリトリーの中にいた全員が息を呑み押し黙る。

 

 

 

「『卍解』」

 

呟くように宣言する。

無音の世界に、その名が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「『観音開紅姫改メ(かんのんびらきべにひめあらため)』」

 

 

 

 

 

 

巫女の祈りに応え、女神が現世に舞い降りた。




・卍解『観音開紅姫改メ(かんのんびらきべにひめあらため)

死神の世界、浦原喜助の卍解。
聖母のような姿の女神像を具現化する。
女神像が触れた存在を『造り替える』。

浦原喜助が黒崎隣互に崩玉を埋め込むために、彼女の前で一度だけ使用している。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。