『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第50話 俺たちのこれから

超常解放戦線と日本全ヒーローとの戦いは、ヒーローの勝利で幕を閉じた。

しかしその事件が社会に与えた影響は非常に大きかった。

何しろ十万人だ。ありとあらゆる組織が超常解放戦線に、ヴィランに関わっていた。

ヒーローも、政治家も、大会社の社長も、警察や公安の人間すらもだ。

無関係な人間などいなかった。

声を荒げる資格を持つ者などどこにもいなかった。

 

事件から数日後、未だ事後処理も完全に終わっていない状況で、公安のトップが雄英の根津のもとを訪れていた。

 

「あのヒノカミという女性、彼女との面会を希望します」

 

「会ってどうするというんだい?」

 

「無論、協力を要請します。

 あれほどの力、安全面でも国益の面でも放置はできません」

 

「HAHAHA!無駄さ!彼女は『神様』だもの!

 お節介でお茶目で、怒りっぽい神様さ!

 今回も気まぐれで手を貸してくれただけ。

 制御も利用もできはしないよ」

 

「『神』?神などいるはずがないでしょう?」

 

「あの時の彼女の姿を見ても、そう言えるのかな?」

 

「……」

 

蛇腔病院の戦いの結末、彼女が女神を呼び出し死柄木を生まれ変わらせる瞬間はTVを通じて日本中の人が目にしていた。

それはまさしく神の御業。

民衆の間でも、彼女を神の使いと崇める宗教まで出てきている始末だ。

公安もここに来るまでに、雄英の前で彼女との対面を求める人混みを通り抜けてきた。

 

「ま、信じる信じないは君たちの勝手さ。

 ただ彼女の力は個性じゃない。イレイザーでも無効化できなかった。

 富にも名声にも執着がない。どうやって交渉する?

 そして彼女は怒りっぽいよ?しかも嘘つきや人を騙す人間が大嫌いなのさ。

 君たちの言う国益とやらは、この世界全てを天秤にかける価値があるのかい?」

 

「……!」

 

押し黙るしかなかった。

根津は公安に彼女の能力を余すことなく伝えている。

あらゆる場所に自在に転移し、病や傷を癒し、条件が揃えば死者すら蘇生できる。

生身で海底や宇宙で活動でき、飢える老いることもない。

その剛腕はオールマイトの比ではなく、一振りで大陸が沈む。

……そして自らの信念にのみ従い、力を使うことをためらわない。

 

「それにね、彼女はもうここにはいないんだよ。

 そしてもうこちらから連絡を取ることもできないのさ」

 

「どういうことです?」

 

「言っただろう?彼女は神様だって。

 やるべきことを終えたのだから、彼女の世界に帰るのさ。

 いつまでも神様に縋りついていては、愛想をつかされてしまう。

 ……だから僕たち自身がこれからどうするか、建設的な話をしよう」

 

根津の凄みに、公安も押し黙る。

ホークスが根津の方についたことで、知られたくない情報を多数握られてしまった。

そして今回の事件、公安ははっきり言ってなんの役にも立たなかった。

交渉のイニシアティブをどちらが握っているかは、言うまでもない。

 

「見たくないものに蓋をし続けた結果が今回の騒動だ。

 僕たちは、これ以上目を背けてはいけないのさ」

 

 

 

――――……

 

 

 

「くっそぉ……くっそぉ!羨ましい!

 オレもトガちゃんに抱っこされたい!!

 オレもトガちゃんの腕に包まれたいぃぃぃいい!!」

 

「赤ん坊相手に何言ってんだバカ」

 

「ふぇ、ふぇぇぇえええええええっ!!」

 

「ど、どうした!?おしめか!?ミルクか!?」

 

「大丈夫ですよスピナーくん。

 仁くんにビックリしただけですから」

 

「……揃いも揃って何やってんだろうな、オレら」

 

ここは雄英高校の地下深くにある極悪ヴィラン収容所。

しかしその名称とは裏腹に、あまりにも快適で長閑な光景が広がっていた。

そこに奥のエレベーターが開き、監視役の元ヒーローが訪れる。

 

「みんな、いるかい?」

 

「あ、オールマイト」

 

「その様子じゃ何とかなったってか?」

 

「あぁ、校長が頑張ってくれた。

 君たちの身柄は引き続き、我々の管理下に置かれることになったよ」

 

一度は捕らえたヴィランを解放し戦場に現れたことは、当然追及された。

だが彼らがヒーローと手を取り合い『死柄木の再誕』を成し遂げた光景もまた多くの人が目にしていた。

今回活躍したチーム『ワン・モア・タイム』のトップヒーローたちが揃って彼らを弁護し、ヴィランとも分かり合える社会の先駆けとなるとアピール。

そしてこの度、根津校長が公安を脅は……『オハナシ』をしたことで、無事に元敵連合のヴィランたちは雄英の預かりとなった。

 

「良かったねー弔くん……あ、『転弧』くんでしたね」

 

「流石に『死柄木弔』を名乗らせるわけにいかないのはわかるが、慣れねぇなぁ」

 

「……死柄木だった頃の記憶は、戻らないのか?」

 

「ヒノカミくん曰く、全くの不明だということだ。

 何かのきっかけですぐにでも思い出すかもしれないし、生涯忘れたままの可能性だってある」

 

「オタクらとしちゃ、記憶が戻らない方がいいんだろ?」

 

「関係ないさ。

 たとえ彼の記憶が戻ったとしても、もう世界を壊させたりしない。

 壊したいと思わないような素敵な世界を作っていくのが、私たちの次の目標さ!」

 

「そっか……テメーらなら信じてやるよ、ヒーロー」

 

「オレらもほどほどに協力してやるさ。

 死柄木が戻って来た時に世界が昔のまんまじゃ、オレらだって顔向けできねぇしな」

 

「……トガくん、私にも抱っこさせてもらっていいかな?」

 

「はいどーぞ。遠慮しなくていいんですよ?

 戸籍上は、オールマイトが『お義父さん』ですからね」

 

「HAHAHA!そうだね!

 ……私も炎司くんに負けない、立派な『父親』になってみせるさ!」

 

「……反面教師にすりゃいいんだ、あんなクソ親父」

 

「だぅ」

 

「アウチッ!?髪引っ張らないで!ハゲる!ハゲちゃう!!」

 

「ぶはは、いいぞ転弧!オールマイトをやっつけろ!!」

 

「ぶぅーっ!」

 

「Noooooooooo!!!!」

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

「お前らには先に伝えておこうと思ってな。

 来年度から、白雲はお前たちと同じ2年ヒーロー科として復学する予定だ」

 

「はぁ~……また2年の最初からやり直しかよ」

 

「そう言うなって。校長も結構無理してくれてんだぜ?」

 

「だってよぉ~、もう10年以上待たせてんだぜ?」

 

「……俺たちだって引き継ぎやら何やらある。

 待つさ。あと2年くらいな」

 

「あ、それって3人で事務所を持つって話?

 じゃあ先生たちも私たちと一緒に卒業ですか?」

 

「あぁ、教師に誘ってくれたミッナイ先輩や生徒らにゃあ悪いが……オレらの夢だからさ」

 

「ちなみにですけど、A組とB組のどっちになるかも決まってるんですか?」

 

「事情を知るオレやお前らがいるA組の方がいいだろうという話になってる。

 ちなみにB組には心操が編入する予定だ」

 

「……いよいよバランスおかしくねぇか?」

 

「そこはオレたちも危惧したが、仕方のないことだろう。

 ……すでにお前らの実力はオレたちやオールマイト以上だ。

 だがヒーローは『強い』だけで成り立つ職業じゃあない。

 来年度からむしろお前らには、強さ以外の面を重点的に学んでもらう。

 精神的にかなりキツイぞ。覚悟しとけよ」

 

「「はい!!」」

 

「上等ぉ。オレはトップになるんだ。

 いつかあのババァすら超えてやるぜ!」

 

「……ババァて」

 

「……お前の向上心は、まさに天井知らずだな」

 

「……やっぱりかっちゃんはすごいや」

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

「いーやーーだーーー!!!」

 

「ワガママ言わんでくださいよミルコさん!

 ちゃんと勝負して決めたじゃないですか!」

 

「くっそぉ、あそこで『チョキ』を出さなきゃ……!」

 

『あのー……今の発言を聞く限りでは……。

 暫定ナンバーワンヒーローを決めた方法って……ジャンケン?』

 

「あー、まぁ、そういうことです。

 オレら3人は今回の件で評価されたわけですが、『ナンバーワン』なんてガラじゃないもんで」

 

「最初は実力で決めようとしたのだが……勝負がつかなかったのだ」

 

「なぁ、やっぱエンデヴァー連れ戻そうぜ!

 どう考えたってナンバーワンに相応しいのアイツだろ!」

 

「その点は同意するが、そっとしておいてやれ。

 彼はようやく、本当になりたいものになろうとしているんだ」

 

『へ?えっと、皆さんはエンデヴァーどころかオールマイトすら超えるほどの力を身に着けたとお聞きしましたが?』

 

「アタシら以上にエンデのが伸びてんだよ。

 3人掛かりでも手も足も出ねーんだ」

 

『はぁ!?』

 

「おそらく、今後この世界に彼以上のヒーローが現れることはないだろうな……。

 あの強さを思い知らされると、とてもナンバーワンを名乗ろうとは思えん」

 

「それ考えると未練がましくもなりますよホント……。

 あー、この放送見てる皆さん。

 思うところあるでしょうがあの人に手ぇ出すのはやめてくださいね。

 万が一彼を追い込んでヴィランになられたりしたら、今度こそこの国終わりますからね?

 そん時はオレ国外に逃亡します。勝ち目ないんで」

 

『は、はぁ……』

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

「……もう、行くのか?」

 

「あぁ、皆によろしく伝えておいてくれ。

 ……そんな顔をするな、たまには顔を出すわい」

 

「そうか……」

 

轟家の道場の中心で、ヒノカミと炎司が別れの挨拶をしていた。

見送りは彼だけだ。そうなるように、ヒノカミ自身が望んだ。

 

彼らが共に過ごし修行した孤島はとっくに消滅している。

この世界にはもう霊力に満ちた場所はない。霊能力者が生まれる土壌はない。

数代は遺伝するかもしれないが、段々と弱くなっていくだろう。

預けていた簡易武装錬金も全て回収した。

ヒノカミがこの世界を訪れたことによる影響は、いずれ完全に消滅する。

 

「……『鬼相纏鎧』、譲ってもいいんじゃぞ?

 どうせお主以外に使えるものはおらんし」

 

「この世界には過ぎた力だ。俺はもうヒーローでもないしな。

 それに家族と向き合うのに仮面で顔を隠し続けては格好がつかん」

 

「かかか。そりゃこれに頼りきっとる儂への皮肉か?

 少々耳が痛いわい」

 

炎司が無言で差し出した右手を、しっかりと握り返す。

 

「世話になった」

 

「達者での」

 

短い儀式を終えて、ヒノカミは炎司に背を向けた。

 

「……ヒノカミ!」

 

「?」

 

「お前の世界の俺を見た時、俺は『負けた』と思った。

 だが今は、『負けたままではいられない』と思っている。

 俺たちはこの世界を、お前の世界よりも素晴らしい世界にしてみせる。

 だから……俺たちのこれからを見ていてくれ!」

 

「……負けるなよ!」

 

最後に一度振り向いて、彼女は忽然と姿を消した。

 

「……」

 

炎司はその光景を目に焼き付けて、彼もまた背を向け歩き出した。




次回、最終話となります。
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