『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第60話 巡礼

死んだはずの人間が、しかも若返って現れる。

 

死穢八斎會への襲撃には多くのヒーロー、警察、ヒーロー候補生も参加していた。

OFAのことは流石に無理だが、ヒノカミが『転生する』個性を持っていたことを明かさないわけにはいかなかった。

今回の作戦の事後処理と併せて一同大騒ぎ。

ナンバーワンヒーローとなり一層多忙になったはずの兄が、連絡を受けた途端に二人の甥を連れて飛んできた。

兄にとってはわずかな、しかし妹にとっては長い別れを越え、ついに彼らは再会を果たす。

 

これが1日目。

 

雄英にてオールマイト、根津やリカバリーガールといったOFA関係者が集合した。

緑谷はOFAを通じてヒノカミの歩んできた道のりを夢で見続けており、彼らにはそれを伝えていた。

当初は信じてはいなかった彼らも、本人が帰還したことで全て真実だったと受け入れるしかなかった。

平行世界などと突拍子もない話だったが、緑谷が土台を作ってくれていたお陰でスムーズに話が進んだ。

まだ事情を知らない生徒には秘密にしておくことになったが、すでに事情を知っている生徒や教師たちと改めて再会を喜んだ。

 

これが2日目。

 

緑谷と爆豪を除くOFA関係者、警察、公安の一部を雄英に集めヒノカミの過去を説明することになった。

 

この世界の公安はヒノカミに対して距離を置いていた。

何故なら先代の公安のトップがデビュー間もない頃にヒノカミのネームバリューと容赦のなさに目をつけ彼女を勧誘し、拒絶されたため権力と暴力をちらつかせ脅迫したところ、彼女の逆鱗に触れボコボコにされたからだ。

この事件で先代の公安トップは再起不能となり、彼に同伴していた公安所属の女性ヒーロー1名が重傷を負って引退している。

後で事情を知ったオールマイトとエンデヴァーが本気で怒ったので、その後の公安は彼女には不干渉の方針を貫いていた。

とは言え、流石に今回は事が事なので彼らも仕方なく出席した。

 

ヒノカミの上映会は丸一日かけて行われ、あまりの濃密さとちょくちょく挟まれるグロシーンは視聴者の胃液を逆流させた。

特にもう一つの自分たちの世界の出来事は危険な情報が多すぎた。

敵連合は既に存在しないが、AFOの協力者である殻木球大、10万人規模の異能解放軍はこの世界でも健在であるはず。

連中が動く前に察知できたのは僥倖だが、権力者や一般市民相手では強引な手段は取りづらい。

時間をかけて、慎重に対処すべきだろうという意見で一致した。

 

しかし一番厄介な問題はヒノカミが強くなり過ぎていたことだ。

なんだ月を破壊したって。

死者を蘇生できるって。

神様と崇められてたって。

しかも彼女はふとしたことで簡単に導火線に火が付く。

敵に回すと絶望的だが味方にするとこれほど胃に優しくない者もいないだろう。

彼女の扱いをどうするか、戸籍をどうするかと全員が頭を抱え、会議は翌日に持ち越されることになった。

 

これが3日目。

 

次の日、ヒノカミはやりたいことがあるからと自由時間を求めてきた。

今日の会議は彼女がいなくても問題なく進められる。

数千年耐えてきたのだ。彼女にも自由を与えるべきだろうと了承した。

 

これが4日目。

 

 

そして5日目。

 

「言い訳を聞こうか」

 

会議室の中央に立たされたヒノカミに、全員が恨みがましい視線を向けている。

彼らを代表してエンデヴァーが睨みつけ圧をかけながら問いただそうとした。

わずか1日だ。いや、朝に出かけて夕方に帰って来たから実質半日。

たったそれだけ目を離した隙にコイツは……。

 

蛇腔病院秘密エリアに襲撃をかけ全ての脳無を破壊し保管されていた『AFO』の個性因子を焼却してから殻木を引きずって来た。

 

全国各地の異能解放軍拠点を奇襲し構成員を軒並みボコボコにして構成員リストと解放軍幹部全員を悪事の証拠と共に持ち帰った。

 

イレイザーとマイクを連れ出して黒霧から白雲を蘇生した。

 

ついでにと先代インゲニウムや神野の決戦に巻き込まれた負傷者を再生して回った。

 

「良かれと思って!!」

 

「開き直るな馬鹿者!!」

 

前情報があったとは言え、平行世界での数カ月は何だったのか。

しかし『ヒノカミが動く』とはこういうことである。

彼女はどこまでも容赦がなく、何が起きても対処できるだけの力を持っている。

自分の故郷の世界でまで自重するつもりなどない。

……一言で言うと、彼女は『はっちゃけた』のだ。

 

「なんじゃい、主らが日和りよったからじゃろが。

 あんな連中一日たりとも野放しにできるか。

 ちゃんと正体は武装錬金で隠しとったし問題なかろーが」

 

「HAHAHAHA!!君はまだニュースを見ていないのかい!?

 日本どころか世界中で大騒ぎさ!

 『不動明王さまが現れた』とね!!」

 

「ぬぁっ!?また神様扱いか!?

 儂ゃそんな大それたものではないわい恐れ多い!」

 

「HAHAHA!嫌かい?嫌なのかい!?

 それはいいことを聞いた!積極的に広めておこう!!

 そうすれば君も少しは自制してくれるよねぇ、HI~~HAHAHAHAHA!!」

 

根津は程よく壊れていた。

これから彼女の尻ぬぐいで被る労苦を思えば正当な復讐ではあるだろう。

そして同じく胃に穴を空けられた他の面々も、根津に協力を申し出た。

 

 

 

「……で、1カ月の謹慎なのね」

 

「ちょっとくらいストレス発散させてくれてもいいじゃろがい、ケチンボ共め」

 

「HAHAHA!今の君の場合はため込んで爆発すると世界が吹っ飛ぶけど、小出しでも絨毯爆撃みたいなものだからね」

 

神野での事件後、この世界でも雄英生徒の寮生活が始まっており、合わせて教員寮も設立されていた。

生徒の目がない寮の一室で机に顔を突っ伏して、同じく会議室から追い出されているオールマイト相手に愚痴っていた。

こちらの彼は個性を失いはしたものの健康そのもの。

やはりこの筋肉ダルマの姿の方が馴染みがあって安心する。

尚、彼が会議に不参加な理由は戦力外通告である。

 

「……で、今度は何をするつもりだい?」

 

「あー……わかるか?」

 

「長い付き合いだからね。

 また何か始めるつもりだろ?

 だから殻木や異能解放軍を放置したままでは安心できなかったんだ」

 

「万が一……いや億、兆が一ということもあるじゃろうからな」

 

そこでヒノカミは頭を上げニヤリと笑う。

 

「世話になった者たちに、挨拶巡りでもしようかとな」

 

「……平行世界の?」

 

「あぁ」

 

ヒノカミは転生を繰り返していくつもの世界を巡り、多くの人々と関わって来た。

彼女の事情を知らぬ者も多いが、彼女の願いが叶うことを祈ってくれた者や彼女との再会を望んでくれた者もいる。

自由に世界を超える能力と、あらゆる障害を跳ねのける圧倒的な力を手に入れたのだ。

彼らにも再び顔を出すのが礼儀というものであろう。

彼女がそれぞれの世界を去った直後の時間軸に移動すれば再会できるはずだ。

ただし過去には行かないように気を付けねばならない。

もう一つのヒーローの世界のように、平行世界が分岐する可能性が高いからだ。

 

「ホントにとんでもないことになって帰ってきたねぇ、キミ。

 もう神様でいいんじゃない?」

 

「やめぃやめぃ、貴様まで。

 どれほど力を手に入れようと全能には程遠い。

 儂ゃ低俗な人間じゃよ」

 

「HAHAHA!魔王気取りなんかよりよっぽど人間臭いのは確かだね。

 他の皆には伝えないのかい?」

 

「どんだけ他の世界にいるかはわからんが、この世界には転移直後の時間軸に戻ってくるつもりじゃからなぁ。

 せいぜい1時間そこらの不在、伝えるまでもなかろう?

 兄上や根津あたりは気付いておると思うがの」

 

「……やっぱ君の話のスケール、神様レベルだと思うんだけど……」

 

ヒノカミが立ち上がり、ストレッチを始める。

 

「んじゃ、ちょっと行ってくるわ」

 

「もう!?気が早くない!?」

 

「かかか、実はこれ以上待ちきれんでのぉ……」

 

そしてオールマイトは息を呑む。

彼女の後ろに……『鬼』が見えた。

 

 

 

「待っとれよぉ……浦原ぁ……!」

 

そして消えた。

どうやら挨拶巡りとは、お礼参りも兼ねているらしい。

 

「……アーメン」

 

オールマイトは目を閉じ、異界の誰かの冥福を祈って十字を切った。




連続投稿は一旦ここまで。
次の話までしばらくお待ちください。
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