『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第30話

「なるほど、手で持ち普通の槍として扱うのもアリか」

 

鬼は浮かんでいた槍を両手で一つずつ掴み、一瞬でウルキオラの眼前に迫る。

 

(速過ぎる!)

 

目の前には右手で突き出された槍の穂先。

回避はできない。迎撃するしかない。

そして槍と槍がぶつかり、また爆発を起こす。

しかし吹き飛ばされたのは片方だけ。

 

「ほれ、もういっちょ」

 

鬼はウルキオラが墜落する場所に先回りし、今度は左手に持った槍を突きだす。

ウルキオラは迎撃のために槍を作ろうとするが、時間がなく不完全なものしか作れなかった。

 

「がはっ!?」

 

相殺できず、ウルキオラの槍だけが炸裂。

鬼の槍がウルキオラの腹を貫いた。

そして鬼は彼を突き刺したまま槍を掲げる。

鬼の後ろに浮かぶ槍が一斉に動いて向きを変え、狙いを一点に定めた。

 

「なんだ……なんなのだお前は!?」

 

「……なんじゃ、やはり貴様にも『心』があるではないか」

 

「何を、言っている!?」

 

「真に心がない者ならその言葉は出ぬよ。

 疑問、欲求、信念。それらは全て心より生まれるもの。

 貴様は心が無いのではなく、まだ心の声が弱くて自覚できていないだけじゃ」

 

そう言うと鬼はウルキオラを解放し、すべての槍を消した。

そして鬼の鎧すら消し去り人の姿へと戻った。

天蓋の上に落ちたウルキオラは、腹に空いた穴を修復しつつ問いただす。

 

「……何のつもりだ?」

 

「心がないなら道具じゃが、心があるなら命じゃからな。

 ……かつて弟に言われたんでの。

 『簡単に誰かを殺す姉を見たくない』と。

 故にあ奴の目がある場所では、安易な殺生は自制すると決めた」

 

彼女は後ろを振り返る。

その向こうには、こちらに駆け寄ってくる黒崎一護らの姿があった。

 

「ま、きっかけは与えてやった。

 後は時間をかけて向き合っていけ。

 その上でお主の心が『藍染に従い我らを討て』と命じるならばそれも良し。

 改めて挑んでくるがいい。

 ……その時は容赦なく殺してやる」

 

そして隣互は背を向けたまま無防備に歩き出す。

 

「……」

 

通用するとは思えないが、攻撃する余力ならあった。

しかしウルキオラは俯いたまま、その場を動こうとはしなかった。

 

 

「姉貴!」

 

「治療は終わったようじゃな?」

 

「隣互さん……あの後、貴方に一体何が」

 

「まぁ待て。儂に聞きたいことは山ほどあるじゃろうが、その前に儂からも聞きたいことがあるんじゃ」

 

 

 

 

「どこじゃここ?」

 

 

 

 

「「「は?」」」

 

「尸魂界ではないよな?現世とも思えぬ。

 なんで主らがこんなとこにおるんじゃ?

 そもそも、あの戦いからどれだけ過ぎた?」

 

「は、はぁ!?

 何言ってんだ姉貴!?」

 

「先ほど見ていたと……何も状況を理解していないのか!?」

 

「あー、ほんの数分前に一護の気配を辿って転移してきたばかりでな。

 なんにもわからん。茶渡はどうした?師匠はおらんのか?」

 

「て、転移?

 夜一サンはいねぇが、チャドなら一緒に……!?」

 

そこで一護が言葉を止める。織姫たちにも緊張が走った。

隣互だけはのんびりとした動きで視線を下に向ける。

 

「なんだ……天蓋の下?

 こんなバカでかい霊圧……!?」

 

「……ふむ、傍に茶渡と朽木ルキアと阿散井恋次もおるようじゃの」

 

「「「!?」」」

 

「話の続きは後にしようか」

 

隣互が掌を強く叩きつけ、テリトリーで一護たち3人を覆った。

 

「これ……何?」

 

「かか、その辺も後で全部説明するわい。

 ではウルキオラ。また会おう」

 

「…………」

 

ウルキオラはやはり何の反応も示さなかった。

そして彼の前で4人が忽然と姿を消した。

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

第10十刃、ヤミー・リヤルゴ。

その正体は刀剣解放することにより数字が変化し、第0十刃となる最強の破面。

怒りを覚えるほどに体を巨大化させ、力を増大させていく特性を持つ。

解放から間もないというのに、すでにその大きさは100メートルを優に超えている。

腕力も当然その大きさ相当にまで強化されており、その力を目の前にいた虫けら共に振りかざす。

 

「……あぁ?」

 

しかしそれでも彼女には及ばない。

 

「チャド!ルキア、恋次!」

 

「一護、石田、井上……!」

 

「一護!

 ……ではあそこにいるのは誰だ!?」

 

一護たち3人と、ルキアたち3人が合流し6人。

隊長4人とその付き人も虚圏に来ているが、彼らの霊圧はここにはない。

彼らが把握している戦力はこれですべてのはずだった。

 

「よっこい……しょっと!」

 

「ぐぉぉおおっ!?」

 

ヤミーが振り下ろした拳を受け止めていた小さな影が、逆にヤミーの拳を押し飛ばした。

 

「……黒崎隣互!?」

 

「久しいの、お嬢ちゃん」

 

「おじょっ!?馬鹿者!私の方が年上だ!!」

 

「かっかっか、今はそうとも言えんのよなぁ……」

 

隣互はルキアを適当にあしらって、改めて巨大なヤミーを見上げる。

 

「ん-……でっかいの。

 これを殺さぬように対処するのは骨が折れそうじゃな……」

 

「あぁん!?なんだこのチビカスは!

 こんなゴミが俺の邪魔をしやがったってのかぁ!?」

 

「……やはり殺すか?」

 

「「「っ!?」」」

 

隣互から溢れ出した濃密な殺気に、一護たちだけでなくヤミーですら一瞬息を呑む。

 

「っといかんいかん。有言実行、初志貫徹じゃ。

 殺さぬようにこ奴を追い払うには……」

 

「……!?今のはテメェかぁ!

 俺に何をしやがったぁ!!」

 

「……そうじゃ、こうしよう」

 

「無視してんじゃねぇえええ!!」

 

「危ない!!」

 

ヤミーが再び、今度は隣互に狙いを定めて拳を振り下ろす。

しかし今度は彼女に届くことすらなかった。

 

『……』

 

「「「なぁっ!?」」」

 

巨大化したヤミーよりも更に巨大な、天蓋に頭が届きそうなほど巨大なスピリット・オブ・ファイアが、片手でヤミーを掴み持ち上げたからだ。

 

「なんだコイツは!離しやがれ!」

 

『……』

 

手の中で暴れる小人を無視して、スピリット・オブ・ファイアが少し上を向いて天蓋を見つめる。

 

『……!』

 

そして口を開き炎を放った。

 

「「「…………!?」」」

 

天蓋を容易く貫く巨大な熱線の威力に誰もが言葉を失う。

 

「がっ!?何する気だ!!」

 

その後スピリット・オブ・ファイアがヤミーを持つ右手を振りかぶり。

 

「えー、それでは、快適な空の旅をお楽しみくださーい」

 

「!?てめ……!」

 

開けた穴から空へと投げた。

 

「くそがあああぁぁぁぁぁ…………!」

 

やがてヤミーは虚圏の夜空に光る一つの星となった。

どこまで行ったかは知ったことではないが、虚圏の大地はほぼ砂漠なので墜落しても死ぬことはあるまい。

そしてこの場に戻ってくるには長い長い時間がかかるだろう。

 

「さて、これでええじゃろ。

 では改めて話を聞きたいんじゃが?」

 

「「「「……」」」」

 

一護たちは絶句している。

隣互の中から現れ、隣互の中へと消えたあの炎の巨人の正体はわからない。

だが隣互が使役していることは間違いない。

ならばこの巨人の力も彼女の力だ。

先ほどのウルキオラとの戦いと言い、自分と彼女の差はかつて以上に隔絶していると実感する。

 

(なんだよ、この強さ……。

 尸魂界でオレが卍解に至った時、『並ばれた』っつってたじゃねぇか!?)

 

自分自身も短期間で相当成長している自負はあるが、姉の伸びはそれ以上だった。

幼い頃はよく抱いていた劣等感を、一護は久しぶりに感じていた。

 

「……ん?死神が何人か近づいてきよるな。

 更木、草鹿、卯ノ花、虎徹、白哉……あと遠くに動かんのが二人おるな。誰じゃ?」

 

「……あ?あぁ、十二番隊の涅マユリってのとそこの副隊長が来てるらしい。

 だよな?雨竜」

 

「僕と阿散井恋次が会っている。間違いない」

 

「……アレか」

 

かつて尸魂界に突入した際に浦原から各隊長の情報を得ており、それは今でも覚えている。

涅マユリは典型的なマッドサイエンティスト。

自分の知識欲を満たすためなら他人を犠牲にしてもなんとも思わない、典型的な外道だ。

陣営としては味方とは言え、目の前に現れれば斬り殺さずにいられる自信はない。

 

「奴とは会いたくないが……連中もこっちに向かって来よるようじゃし、話は揃ってからにしよう。構わんか?」

 

「あ、あぁ……」

 

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