『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第38話 崩玉

「ほぉら隣互ー、いい子だから泣き止めー。

 ……泣き止んでくれないとパパ泣いちゃうぞ!?」

 

「てめぇまで泣いてどうすんだクソ親父!」

 

「……浦原ぁぁぁぁああああ!!」

 

「ぐぇっ!?」

 

家族の慰めを振り切って浦原の前に転移した隣互は、彼の胸倉を右腕で掴み持ち上げ、左腕で自分の胸襟を大きく開く。

 

「取れ!これ、取れぇーーーーーーっ!!」

 

「ギブ!ギブっスよ隣互サン!」

 

傷一つない慎ましやかな胸の間に光が灯る。

彼女の叫びに応えて体の奥から浮かび上がって来たそれは。

 

「「「!?」」」

 

「ば、馬鹿なぁっ!?」

 

それは藍染の胸にある物よりも大きく、強い光を放つ白い玉。

ここに至ってようやく、事情を知らぬ者たちも隣互の力の根源を理解した。

そして彼女が何に怯えていたのかも。

 

「無理ですってぇ!魂とがっちり同化してますもん!

 むしろどんな人生送ったらそんな状態になるんです!?」

 

「なんじゃあ!?儂が悪いとでも言うんかぁ!?

 貴様の卍解でもなんでも使ってなんとかせんかぁ!!」

 

「ちょっとー!アタシの卍解は秘密にしてって言ったじゃないですかぁー!」

 

「今更秘密も何もあるかぁ!

 貴様がやらぬというなら儂が自分で……!」

 

「落ち着け隣互!ホレ、どうどう」

 

「ふーっ!ふーっ!」

 

隣互は夜一により引き剥され、浦原はなんとか解放された。

くだらないやり取りが終わった後も目玉しかない白タイツマンは隣互を呆然と見つめている。

やがて彼の顔にひびが入り、中から髪が伸びて白目と黒目が反転した藍染の顔が出てきた。

表情が良くわかるようになったので、彼の心境は誰もが一目で理解できた。

 

「ゲホ、ゲホッ……まぁ、そういうことです。

 彼女は貴方よりも早く崩玉を手に入れ、貴方よりも深く崩玉と接してきた。

 そしてすでに貴方よりも遥かな高みにいる。

 ……貴方が至ったのは天ではなく、とうの昔に隣互サンが通り過ぎてしまった場所なんですよ」

 

「なん……だと……!?」

 

「かつてアタシは彼女に内緒で、彼女に二つ目の崩玉を埋め込みました。

 そして彼女はつい先日までそのことに気付いていなかったそうです。

 貴方のように崩玉に力を求めたことも、力づくで従えようとしたこともない。

 崩玉が自分の意思で『彼女を支えたい』と願い、今の彼女が形作られたんです」

 

「ふざ、けるな……私……私が……!」

 

「いいえ。

 崩玉に選ばれた、天に立つ存在は貴方じゃない。

 ……黒崎隣互サンです」

 

「……お、の……れぇぇぇぇええ……!!」

 

隔絶した力の差があると相手の霊圧を察知できない。

だから死神や破面たちは今の藍染や隣互の霊圧が感じられない。

その藍染も、隣互との間にそれ以上の差が存在していた。

だから今まで気づかなかったが、同じ崩玉を目にして嫌でも理解させられたのだ。

彼女の胸にあるそれの方が、自分の中にあるものよりも遥かに強大な力を有していると。

 

 

「は……ハハハ、ならば!!」

 

「「「!?」」」

 

ならば隣互の崩玉も奪い取ればよい。

彼の胸にある崩玉も元々は、彼が作り出した未完成品に浦原が作り出した崩玉を取り込ませたものだ。

同様に隣互の崩玉も取り込めば自分は更に高みに至れる。

藍染はそう考えた。

 

 

 

「……あ」

 

 

 

だが彼にはそれを成し遂げるだけの実力がなかった。

 

「くだらん……天に立ち、神に至ってそれからなんとする?

 都合の良い箱庭でも作って眺めて満足するんか?」

 

既に隣互はある程度冷静さを取り戻していた。

だからスピリット・オブ・ファイアも手を出すことなく見守っていた。

彼女は交錯する瞬間に藍染の右手と融合していた斬魄刀を赫月で細切れにし、白星が藍染の胸から崩玉を抉り取っていた。

 

「か、返せ!!」

 

「断言してやる……絶対飽きるぞ。

 思い通りになる世界では、思う以上のことは起きぬ。

 どこまで行ってもただの一人遊びじゃ。

 それでは寝てみる夢と変わらんよ」

 

白星から受け取った藍染の黒い崩玉を左手で弄び、右手の赫月の卍解を発動する。

崩玉ですら焼失させる特性を持った卍解をだ。

 

「空想で満足できるなら……布団にくるまっていればよかったものをな」

 

「やめろぉぉぉぉおおおおお!!」

 

藍染の叫びも無視して、隣互は目の前に放り投げた黒い崩玉に炎の剣を振り下ろす。

 

 

 

 

そして、悪夢が起きた。

 

「「なぁっ!?」」

 

黒い崩玉が突如として禍々しい光を発し始めたのだ。

 

崩玉には、意思がある。

意思を持つ存在が消滅する運命を素直に受け入れるだろうか。

答えは『否』だ。

 

崩玉は意思に応えて力を発揮する。

黒い崩玉は『消えたくない』という自らの意思を力に変えた。

そして飛翔したのだ。

自分に向けて手を伸ばす藍染のもとへ。

 

 

 

 

……ではなく未だ露出したままだった隣互の胸にある白い崩玉へ。

 

「「は?」」

 

そもそも藍染のもとに戻ったとしてもまたすぐに抉り出されて殺されるのだ。

だから黒い崩玉が取った行動は、自身の存在を残すには最も確実な方法だった。

 

浦原の崩玉を取り込んだ藍染の崩玉は、自分の意思で隣互の崩玉に取り込まれた。

 

「「……」」

 

二つの崩玉が彼女の胸の中で混ざり合い、白と黒の二色を持つ一つとなった。

沈黙が場を支配する。

 

 

「……うらはらぁ……なに……これぇ……?」

 

隣互はぷるぷると震えながら、涙目で振り向く。

呼ばれた浦原が彼女の胸に顔を近づけて謎の玉をまじまじと観察する。

 

「あ~……多分これが崩玉の完成形っスねぇ……」

 

「かん……せい……?」

 

「霊力の余剰光の放出すらない。完っ全にこの形で安定してます。

 いやぁ~、まさか崩玉が進化するとは!

 夢にも思わぬとはこのことですよぉ~」

 

「これ……とれる……?」

 

「ぜっっっったいに無理っス」

 

何しろ『願いを叶える』この玉自身が彼女と共に在ることを『願っている』のだから。

もはや彼女の魂の一部であり、玉を抉り出して消滅させたところでまた彼女の魂から再構成されるだろう。

 

「「…………」」

 

 

 

 

 

「タイツマンはいやじゃああああああああ!!!!!!」

「馬鹿なぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!!」

 

 

神と呼ばれた女と神に至らんとした男。

二人の絶叫がハリボテの街の空に木霊した。

 




・『崩玉』→『大願成珠(たいがんじょうじゅ)

白と黒の二色からなる、太極図のような見た目をした宝珠。
所有者や周囲の人々の想いに呼応し奇跡を引き起こす。
大きな奇跡を叶えるには、その願いに応じた強い祈りが必要。
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