『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第39話

藍染の心が折れ、戦いは終わった。

 

 

藍染の力のほとんどは崩玉に内包されていたらしく、それを隣互に奪われたことで彼は大幅に弱体化していた。

死神どころか流魂街の人間霊たちと大差のない矮小な存在。斬魄刀も当然失われている。

私欲のために世の平穏と多くの命を奪い続けてきた男は、そうまでして手に入れた力を根こそぎ奪われることになった。

 

もはや脅威足りえぬと、藍染は東仙共々幽閉された。

この戦いの功労者である黒崎一護たちが戦えなくなった相手の命を奪うことを忌避したのも理由の一つだが、強者として傲慢に振舞ってきた藍染が弱者として無様に生き続ける方が相応しい罰となるだろうという考えもあった。

 

 

 

市丸は護廷十三隊に復帰した。

藍染を倒す機会を伺うためとはいえ、彼が数々の悪事を行ったのは事実。

だがそれを言えば奴にいいように騙されていた死神達も似たようなものだ。

よって引き続き護廷に尽くすという条件で無罪放免となった。

ただし流石に隊長として復帰することは許されず、古巣である三番隊からも距離を置くよう命じられた。

彼は十番隊の預かりの平隊員として一から出直すことになった。

 

「顎で使ってやるから覚悟しときなさい、ギン」

 

「へーへー。おっかないですなぁ、松本副隊長」

 

「そいつは甘やかさなくていいぞ、市丸」

 

 

 

虚たちは虚圏へと引き返していった。

もはや現世とも尸魂界とも事を構えるつもりはないとのこと。

藍染に敵わず配下となっていた彼らが、それ以上の強さを持つ相手に挑む気が起きないのも当然である。

そして隣互の援護がなければ苦戦しただろう強敵と無理に事を構える余力は今の尸魂界にはない。

人的被害はほぼないが、偽の空座町を作り上げるために資材や資産の面でかなりの無理をしていたからだ。

オマケに戦闘中に一度は降参を受け入れている。

これを反故にすればそれこそ隣互の不興を買うだろう。

死神たちは黙って彼らを見送ることとした。

最後に一体の破面が、遠くで父と一緒に姉をなだめている一護を見て呟いた。

 

「なぁ死神さんたち。アイツに、礼を言っといてくれ」

 

 

 

 

仮面の軍勢たちは現世に残ったが、一部は護廷十三隊に復帰した。

破面や市丸への対応を見て、今の護廷十三隊ならば信用できると判断。

欠員の補充が急務である護廷十三隊は彼らを歓迎した。

 

「藍染の後釜扱いは気に食わんが、元鞘と思えばえぇか」

 

「えと……これから、よろしくお願いします!平子隊長!」

 

「よろしくなぁ、雛森副隊長」

 

 

 

新たに結成された中央四十六室は当初猛反発した。

前任者を皆殺しにした藍染を即刻処刑し、危険因子である黒崎隣互を処分すべしと声高に叫んだ。

 

「……なるほど、貴公らは尸魂界を戦火に晒すおつもりか。

 つまり……護廷に仇名す意思有りと、そう判断してよいか……!」

 

しかし山本元柳斎の威圧を前に押し黙った。

隣互が本当に尸魂界にとっての脅威ならば、護廷十三隊は命を賭して戦うだろう。

しかし山本の知る彼女は高潔な武人であり死神にも友好的。

彼女が敵となる可能性は低く、こちらから敵対する理由もない。

これからどうなるかまではわからないが、ならば尸魂界は彼女が敵とならぬよう手を尽くしつつ、万が一に備えて彼女の能力を探るべきである。

だというのに今すぐ彼女を殺せというのなら、その理由は『人間ごときに後れを取る現状を受け入れられぬ』という虚栄心でしかないだろう。

朽木ルキアの処刑にて四十六室の決定を鵜呑みにした結果、藍染に利用され多くの犠牲を出したのだ。

今の山本は間違っていると思えば誰であろうと斬る。

再結成されたばかりで新米しかいない今の四十六室に、山本と渡り合える胆力を持つ者はいなかった。

 

 

 

そして一護たち現世の人間は、隣互を連れ日常へと戻った。

 

「う”ぁ”ぁ”~~……」

 

「あら隣互、まだ調子がでないの?」

 

「母上ぇ……」

 

「……一兄、隣姉どうしたの?

 その、デカい戦いがあったんでしょ?

 そこでなんかあったの?」

 

「まぁそうなんだが……そっとしといてやれ。

 オレらが気にしてもどうもなんねぇ話だ」

 

黒崎家に戻った隣互は、事件以降ずっと唸り続けていた。

 

戦いが終わってすぐに、彼女は同じく現世に戻った浦原のもとで進化した崩玉の精密検査を行った。

ちなみに十二番隊の涅が『自分にやらせろ』とごねたが『信用ならん』と一蹴した。

そして検査の結果、『望む可能性を引き寄せる』だけだったはずが『道理も過程もすっ飛ばして望みを現実にする』という、まさに願望機に相応しい能力に変化していることがわかった。

大きな奇跡を起こすには強い想いが必要なので『無意識に想像した悪夢すらも現実にする』というデメリットは消えたも同然だが、所有者以外の願いでも反応してしまう点は変わらぬまま。

 

心は誰もが持っており、想いの強さは年齢・性別・戦闘力に左右されない。

つまり彼女の傍で強く願えば彼女を通じて崩玉へと祈りが届き、誰でも望みが叶ってしまう。

制御不能で誰でも使える願望機など火種にしかならない。

ならば彼女自身が制御装置を担うしかない。

検査以降、彼女は崩玉に対して常に『願いを叶えるな』と願い続けることで他者の願いを相殺しているのだ。

そこで安易に自分の願いを叶える方に走らないからこそ隣互に相応しい力だと浦原は称賛したが、彼女の心労は半端ではない。

しかも彼女が気を抜いたり、彼女よりも強い祈りを受けたり、彼女が僅かにでも『叶えてやりたい』と考えてしまうと、結局発動してしまう。

 

タイツマンにはならないとわかったのは助かった。

崩玉自体に意思があり、それは決して邪悪な物ではないと知れば消滅させようとも思わないしそもそもできない。

しかしその影響力が大きすぎる。

彼女は自分の中に勝手に間借りし始めた新たな入居者への対応に、先住者共々頭を抱えているのだ。

 

『カァ~』

『シャ~』

 

「……隣姉の上に乗ってる烏と蛇は何?動物霊?」

 

「あー、やっぱ夏梨には見えるか……。

 姉貴のペットみてぇなもんだ」

 

「……ズルイ!

 いつの間にかお父さんも見えるようになってるし、ウチで見えないのは私だけなんて!

 私も幽霊見えるようになりたい!」

 

 

 

ぺかーーーーっ

 

 

 

「あっ」

 

机に顔を突っ伏していた隣互の体から暖かい光が溢れた。

慌てて顔を上げるが、もう遅い。

 

「お姉ちゃんが光った!?

 ……あれ?見える!

 お姉ちゃんの上に烏さんと蛇さんがいる!かわいい!」

 

『カァッ!?』

『シャア!?』

 

「え!?遊子見えてんの!?

 どういうこと!?一兄、隣姉!?

 ……隣姉?」

 

「……姉貴」

 

「むがぁぁぁあああああ!!」

 

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