『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第41話

隣互は虚圏から帰還してすぐ、今度は尸魂界の瀞霊廷に向かった。

本当はもっと早くに向かうべきだと考えていたのだが結局今日まで延びてしまっていた。

 

朽木ルキア奪還作戦においては、隊長たちに協力を仰ぎ散々瀞霊廷を引っ掻き回しておきながら転生により何も言わずに立ち去ってしまった。

先日の空座町での決戦後は崩玉の件で錯乱していてまともに話もできなかった。

そしてようやく平静と安定を取り戻し、一番の協力者であった浮竹と会談の約束を取り付けて十三番隊隊舎へと足を運んだのだが。

 

「貴殿まで顔を出してくださるとは、光栄であるの」

 

「なに、其方の力と功績を思えば儂が直接出向かねばな」

 

「だとしても、俺には話を通しておいてほしかったですけどね……」

 

浮竹に案内され客間の扉を開けると、部屋の椅子に座っていたのは山本総隊長だった。

どうやら浮竹にも知らせず隊員たちにも一切気取られぬように潜入して待ち構えていたらしい。

 

「まずは謝罪から。

 先日の瀞霊廷及び双殛での一件、ご迷惑をお掛けした。

 数々の無礼を心よりお詫び申し上げる」

 

「しかと受け取った。

 そして我らの不手際の責を其方らに負わせたこと、こちらも謝罪する」

 

「確かに」

 

「あはは……堅苦しい挨拶はそこまでにしよう。

 話しておきたいこともたくさんあるし、総隊長もお忙しいでしょう?」

 

「うむ」

 

尸魂界での事件後に何があったかは、一護たちからおおよそのことは聞いている。

彼女が気になるのは先日の空座町での事件後、具体的には藍染たちの現状についてだ。

 

まずは藍染。

牢獄で大人しくしている……というか、半ば自暴自棄になっているようにも見えるらしい。

皮肉たっぷりな口調は変わらないが、聴取には素直に応じているとか。

長年かけて求めた力を目の前で掠め取られ、挙句それ以外の力も全て失ったのだ。

しかもその理由が『求めた力そのものに見限られたから』。

そして自分の代わりに選ばれた者が『こんなものはいらない』と言うのだから、色々とどうでもよくなっているのかもしれない。

 

次に東仙。

彼もまた牢獄にいるが、藍染とは逆に一切の対話を拒絶している。

彼を友と呼ぶ狛村が時間を見つけては足しげく通っているが、言葉が返ってくることはないらしい。

ただ彼の目的が『復讐』だったらしいということは判明している。

 

そして最後に市丸。

彼が獅子身中の虫を演じていたことは明らかなため罰はなし。

地位は剥奪されたが、平死神として気楽に過ごしているそうだ。

今日も幼馴染である上官に振り回されているのを目にしたとのこと。

 

「そう言えば、君は市丸の思惑に気付いていたのかい?」

 

「確信したのは奴が死を受け入れた瞬間だったがな」

 

隣互が最初に違和感を持ったのは、尸魂界で彼の神槍に刺された時だ。

彼は隣互の腹を突き刺した後そのまま刀を戻した。

少し捻れば傷が広がり、確実に隣互を殺せていたはず。

きっとあの時の一撃は隣互が急所を避けたのではなく、彼が意図的に狙いを外したのだろう。

藍染の味方らしく振舞いつつ、藍染を打倒しうる要素と見込んで……結局死んでしまったが。浦原のせいで。

 

「件の三人に関してはこんなところだ。

 そして残る問題が、東仙以外にも多くの死神が藍染に従っていたという事実でね。

 ……尤も、彼が離反する前に二つの意味で斬り捨てられたそうだが」

 

藍染の斬魄刀『鏡花水月』の能力は『五感の支配』。

完全催眠と謳っているが思考誘導能力はない。

それが出来たなら、当の昔に瀞霊廷の全ては彼の支配下であったはずだ。

つまり藍染の協力者たちは当人の意思で藍染に従っていたということ。

 

「私欲に走り甘言に乗る死神がこれほどおったとは、全く嘆かわしいことじゃ。

 しかしお題目は揃った。

 この機会に護廷に巣食う蛆を一掃してみせよう。聖域など作らぬ」

 

「儂としては好ましいんじゃが……真っ先に涅が消えるのではないか?」

 

((……あり得る))

 

地位に見合うだけの功績を上げているから目を逸らしていたが、叩くまでもなく埃塗れな男だ。

少なくともアレが無罪はあり得ない。

 

「……浦原の復帰を、本格的に検討するべきかのぅ」

 

「それはいい。是非呼び戻して酷使するが良かろう」

 

「あははは……」

 

「しかし尸魂界の正常化となれば儂にとっても他人事ではない。

 協力は惜しまぬ。必要とあれば……コレも使おう」

 

そうして彼女は自分のみぞおちのあたりを指で叩いた。

その奥に何があるのかは彼らも嫌という程理解している。

 

「崩玉を!?」

 

「……お主は安易に願いに頼るような輩ではないと思うておったが?」

 

「それは間違いない。

 じゃがこれも崩玉……いや『大願成珠』の安定に必要だとわかったのでの」

 

虚圏にて新たな崩玉を制御できるようになるための修行中、彼女はウルキオラのためにと一つ願いをした。

それがきっかけだった。隣互の願いを叶えた途端、暴走しがちだった崩玉が沈静化したのだ。

 

考えてみればわかることだった。

崩玉には意思がある。そして願いを叶えるために生み出された存在である。

ならば崩玉の願いとは『誰かの願いを叶えること』。

しかし隣互は余計なことを仕出かさないようにと崩玉を全否定し抑え込もうとしていた。

 

「だから反発していたというわけじゃ。

 ようは拗ねておったのよ、こ奴」

 

「ほ、崩玉が……拗ねる……!?」

 

彼女が見つけた『崩玉を安定させる方法』とは『適度に願いを叶えさせる』こと。

つまり『ストレスを溜め込み暴発する前に発散させる』ことだ。

実験により崩玉の傾向もある程度判明している。

大きな願いを叶えるほど満足するが、どうでもいい願いばかりだと機嫌を損ねる。

そして主である隣互にお願いされると特に喜び、他者と彼女の願いが競合した場合は彼女の願いを優先する。

 

「なんとまぁ……まるっきり童じゃの」

 

「その通り。こ奴は『子供』だったんじゃよ」

 

力の大きさに惑わされて本質を見抜けていなかった。

ようするに『親の手伝いをしたがる小さな子供』のようなものだったのだ。

頼られ褒められると嬉しいし、無視されるといじける。そうとわかれば可愛いものだ。

だから彼女は進化した崩玉を受け入れ『大願成珠』という新しい名前を与えた。

その結果、更に安定化。

今ならよほど真摯な祈りでなければ勝手に反応することはないだろう。

 

「そういう訳で、こ奴にも活躍の機会を与えてやりたいのよ」

 

何しろ願いを叶える願望機。やろうと思えば何にだって使える。

願いが大きいと強い祈りが必要だが、怪しい人物を特定したり、嘘を見抜いたり、過去の光景を映像として呼び出したりなら簡単なものだ。

 

「これは浦原が作った儂直通の通信機じゃ。

 一つ渡しておこう。呼べばすぐに応える」

 

「はは、頼もしいと言うかなんと言うか……」

 

「あい分かった。いざとなれば頼りにさせてもらう」

 

「とはいえ頼り切りにされるのは困るので、適度にな」

 

恨みは忘れないが恩も忘れない。

こちらが誠意を込めて接すれば義理堅く応じる。

そして多彩で強大な能力を保有し使いこなしている。

やはり尸魂界のためにも彼女とは友好的な関係を築くべきだと、山本は確信した。

 

「さて、話すことはこれくらいであろうが……なんぞまだ言いたいことがあるのではないか?元柳斎殿」

 

「……わかるか?」

 

「こ奴は願いに反応すると言ったであろう?

 そのせいか儂に向けられる感情には一層敏感になってしもうてな」

 

「総隊長……?」

 

困惑する浮竹を余所に、山本は持っていた杖を斬魄刀へと変化させた。

 

 

「一手、仕合うていただきたい」

 

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