『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第44話

「やれやれ、遂に護廷最強の死神の座を明け渡す時が来たか。

 ようやく肩の荷が下りた気分じゃが……相手が護廷十三隊でないことだけが悔やまれる」

 

「儂は死神の力を使っていても、死神というわけではないんじゃがなぁ……護廷所属でもないし」

 

体は人間、能力は様々。

この手合わせだけでも、死神と相反する滅却師の力すら使っている始末だ。

今も武装錬金を発動させて領域内の熱を搔き集めている。

 

この戦いの勝者は間違いなく黒崎隣互であるが、彼女の内心はとても勝ったとは思っていなかった。

『月牙天衝』はこの世界の技だが、この世界を旅立った後に完成させた技だ。

咄嗟の事態に彼女は禁を破ってしまった。

技の相殺によりほぼ消えていたからよかったものの、もう少し炎を込めていればあのまま結界を切り裂き、内側の熱が尸魂界に溢れ出していただろう。

山本は完全敗北を受け入れているが、彼女は試合に勝って勝負に負けた気分だった。

 

「いっそ正式に、護廷十三隊へと入らぬか?

 お主ならばゆくゆくは総隊長の座を託しても良いと思うておるが」

 

「遠慮しておこう。でかい組織はどうにも合わぬ」

 

気に食わなかったら掟も何もぶっ壊すのが彼女だ。

歴史ある巨大組織となれば、軋轢も多いだろう。

 

「ふぅむ、誠に残念であるの」

 

「……というか、なんでそんなに引き下がろうとするんじゃ?

 まだまだ現役で行けるじゃろ?」

 

実際にこの手合わせで山本の実力は更に大きく伸びた。

彼が護廷十三隊最強の死神だと言うなら、他の死神との差は更に広がった。

むしろ引退を更に先延ばしにしようと考えてもおかしくはないはず。

 

「とはいえ、この有様ではな……」

 

「?斬魄刀がどうかしたのか?」

 

「なんじゃ、もしやお主は知らなんだか?」

 

刀身が半ば焼失し、放出する熱も著しく弱まっている卍解を見て呟く山本に、隣互は素朴な疑問を投げかける。

 

 

 

 

「破壊された卍解は、元に戻らんのだぞ?」

 

 

 

 

「……は?」

 

隣互が卍解に至ったのは、この世界でももう何年も前の話。

そのような重要な情報は当の昔に知っていて然るべきだったが、浦原たちは彼女に伝えていなかった。

 

それは隣互の卍解が『破壊不可能』な卍解だったから。

 

切っ先から柄尻に至るまで『触れるもの全てを焼失させる炎』でできた刀。

『炎を操作する』という個性が無ければ掴むことすらできない存在。

しかも刀の形をしていても本質は『炎』であるため不定形であり、仮に質量が減っても炎を取り込めば再生できる。

むしろどうすれば破壊できるというのか。

 

「…………」

 

隣互は改めて山本の卍解に目を向ける。

刀身が半ばから焼失した刀を。

半分しか残っていない、刀だったものを。

 

 

 

「……ば」

 

「ば?」

 

 

 

 

 

「卍解ぃい!『観音開紅姫改々(かんのんびらきべにひめさらにあらため)』ぇぇぇえええええ!!」

 

 

 

領域の内側に、隣互に似た雰囲気を持つ女神像が具現化された。

 

「『大願成珠』ぅう!手伝えぇ!!

 『残火の太刀』を作り直すんじゃぁぁあああああ!!」

 

彼女の心からの叫びに応えて、彼女の胸の奥から強い光が放たれる。

光は女神像へと流れ込み、やがて光が女神像を動かし始める。

女神像の指先から伸びた糸が刀の断面に集まり、少しずつ刀身へと変化していく。

 

「儂の霊力を全て費やせ!

 さっきまでの戦いで集めた情報で足りんなら『赫烏封月』から補え!

 同種の能力じゃからいけるじゃろ!

 それでも駄目なら他の斬魄刀や異界の知識からも搔き集めるんじゃああああ!!」

 

「紅姫……もしやこれが浦原喜助の卍解か?

 他者の武装を模倣できると聞いたが、よもや卍解までとは……」

 

「考察しとる暇があったら貴様も祈らんか馬鹿者がぁ!

 複数人で願えば『大願成珠』の効果は跳ね上がるんじゃ!」

 

自分の能力として再構成したとはいえ、未だ扱い慣れない他人の卍解。

『大願成珠』の力を借りているが、刀身はミリ単位でしか伸びていない。

ちなみに織姫の『事象の拒絶』ならば修復可能なのだが、『元に戻らない』という発言から『修復』でなく『再構成』を選んでしまった。

もう少し冷静ならここまでの騒動にはならなかっただろう。

 

「……よ~し、構築と結合は問題なくできておる。

 これなら半日くらいかければなんとか……」

 

 

 

「半日だぁ?そんなに我慢できるはずがねぇだろうが」

 

 

 

声に反応し、振り向くと。

 

「ざ、更木……卯ノ花……」

 

「随分楽しそうなことをしていらしたのですね」

 

「楽しそう……だったかなぁ~」

 

「京楽!?」

 

改めて周囲を良く見れば護廷十三隊の隊長や部下たちが大勢。

山本の卍解の修復に全身全霊を傾けたため、とっくに領域は解除されていた。

『観音開紅姫改々』が残っているのは霊力を注ぎ続けているからだ。

 

「何故ここに!?

 周辺には誰もおらんかったし、霊圧や音は遮断していたはず!」

 

「いやぁ、総隊長の霊圧が突然消えたらそりゃみんな気にするでしょ」

 

「あ」

 

隊士たちに慕われる護廷最強の死神、隊士たちの憧れであり心の支え。

ならば彼の霊圧を常に感知している者がいるのも当然であり、それが消えたとあれば最後に霊圧を感じた場所に向かうのもまた自然なこと。

遠くから見られて異変だと思われないよう、領域は透明に設定していた。

なので集まった死神たちにも中の光景が見えていたし、霊圧を遮断していたので隣互も彼らに気付けない。

 

「なぁ、卍解の修復は後でもできんだろ?

 だったら後にしろよ……滾って仕方ねぇんだ」

 

「構わぬ」

 

「貴様が言うな山本ぉ!

 卯ノ花、更木を止めぃ!」

 

「更木隊長。私も同席してよろしいでしょうか」

 

「いいぜ、今のコイツなら二人がかりでもまだまだ余裕があるだろうからなぁ」

 

「「隊長!!」」

 

「忘れちゃいねぇよ、一角、弓親。テメェらも混ざれ」

 

「なぜ増えた!?京楽、狛村……!」

 

「いやぁ~……こんなに殺気立ってる二人を止めるのは無理」

 

「総隊長の決定なれば、異議など無し!」

 

「揃いも揃ってイエスマンか!

 というか卯ノ花その笑み、貴様更木の同類だったのか!?

 トップとそれに次ぐ二人が戦闘狂とは、護廷十三隊はどうなっとるんじゃ!」

 

彼らをまとめて相手をすることも不可能ではない。

だが格下であっても……むしろ格下だからこそ戦闘狂相手は御免だ。

絶対に長引くし、精神的に非常に疲れる。

死ぬ寸前まで戦い続けるのでギリギリのラインを見極めて手加減しなければならない。

死亡直後なら蘇生はできるがだからと言って殺すわけにもいかない。

殺生がどうとかではなく、蘇生して元気になったらまた襲い掛かってくるから。

 

「延びろ、鬼灯丸!一番槍もらったぁ!」

 

「させるかよ!オレが先だぁ!」

 

「咲け、藤孔雀」

 

「フフ、フフフフフフ……!」

 

 

「待て!まだ紅姫を消してない……あぁぁぁぁぁあああああ!!!」

 

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