「……すいません、真咲さん。
およそ半月前と同じ光景が見えるんですが……」
「昨日の夜中に尸魂界から帰ってきてから、ずっとこうなのよ。
『大願成珠』……だったかしら?
それの暴走の危険は無くなったと聞いたのだけれど」
雨竜は机の上に突っ伏して動かない隣互を見て尋ねた。
親戚だと発覚してから、尸魂界での戦いの後も雨竜は頻繁に黒崎家を訪れるようになっていた。
特に週末は夕食をご馳走になりそのまま泊っていくことが多い。
世話になり続けることを心苦しく思ってはいたのだが、家出同然の一人暮らしをしている彼は家計が苦しく、背に腹は代えられない。
学校や虚退治でも一護と一緒に行動することが増え、今は夏梨と遊子からももう一人の兄同然に慕われている。
「後で一護が話を聞いてみるって言ってたから、良かったら同席してあげて?
事情を理解してあげられる人は、多い方がいいもの」
「わかりました」
日頃の恩を返せる数少ないチャンスだと、雨竜は即答した。
彼個人としても強大な力を持つ隣互がどうしてあんなことになっているのか、尸魂界で何があったのかは非常に気になったので。
そして夕食後。
机には一護と隣互と雨竜の3人だけが残っている。
「……で、何があったんだよ姉貴」
「もしやまた何か、悩ましい事態が起きたんですか?」
「……あぁ、いや。
これは疲れとるだけじゃ……精神的に」
突っ伏した姿勢は変えず顔は見えないままだが、朝は反応すらなかったので多少はマシになったということだろう。
「浮竹さんと話するとか言ってたよな?
そんな重てぇ話だったのか?」
「いや、話自体は問題なかった。
じゃがその場に山本が同席しての……」
「山本?……総隊長ですか!?」
「んで一戦交えることになっての……」
「なんでだよ!?」
二人が順を追って話すように促すと、隣互は少しずつ、絞り出すように語った。
ルキア奪還の際の山本との戦いが途中であり、当時仕掛けたのが自分だったので『決着をつけたい』という彼の申し出を断ることはできなかった。
彼との戦いは特に問題なく終わったが、その過程で彼の卍解を破壊してしまった。
そこで卍解が破壊されると再生しないと聞き、慌てて修復しようとした。
だが戦いを見ていた更木や卯ノ花ら戦闘狂が我慢できないと襲い掛かってきて……。
「……卍解って壊されたら直んねぇのかよ」
「医療担当の四番隊の隊長、戦闘狂だったのか……」
「つーか、あ奴が初代剣八なんじゃと」
「「はぁっ!?」」
「回道を学んだのは永遠に戦いを楽しむためだそうじゃ。
……敵も自分も治療すれば、いくらでも斬り合いが楽しめるからと」
「……知りたくなかった……」
そして彼らを何とか殺さないように対処できたと思ったら……他の死神も参戦してきた。
戦闘狂集団の十一番隊だけではない。
藍染との戦いで力不足を痛感した隊長格までもが、副隊長以下の部下を引き連れてぞろぞろと。
エネルギー切れがない隣互は、肉体的にはいくらでも相手ができてしまう。
だから『自分たちも是非に』と頭を下げられると、不公平を嫌う彼女は彼らの相手もせざるを得ない。
またも神経をすり減らしながら彼らを殺さぬよう戦い続けていると。
「時間挟んで復活した更木と卯ノ花がまた……!」
「「うわぁ……」」
精神的疲労が蓄積しており、これでは加減を間違えるからと選手交代。
『白鎖彗星』を呼び出し後を託した。
滅却師の防御術『静血装』に覆われている白銀の鱗は非常に頑強で、『赫烏封月』やスピリット・オブ・ファイアのように火力が高すぎて殺してしまう可能性も低め。
なので大怪獣白星に死神達をまとめて相手してもらった。
しかしその戦いの中で。
「更木が始解しおった」
「ぶっ!?」
「ど、どんな斬魄刀だったんですか!?」
「身の丈よりもデカい無骨な斧。破壊力特化。
本気のオーバーソウルではなかったとはいえ、白星の鱗を砕きおったんじゃ……!」
『シュルルル……』
『カッ、カァア!カッ!』
隣互と机の隙間からしょんぼりした白蛇が顔を出し、続けて現れた三つ脚の烏が何か話しかけている。
あれは励ましているのだろうか。
「傷つけられて驚いた白星が加減を間違えての。
反撃で全身から霊子の矢を一斉掃射してしまい、荒野が地獄になった」
「……その、大丈夫だったんですか?死神達は」
「あらかじめ周辺被害を防ぐためにデカイ領域を張っておったからな。
蘇生は間に合った。結果的に死傷者はおらん。
じゃが他の連中の卍解も壊してしまい、全部作り替えねばならなくなって……」
「……確か浦原さんの卍解使うと、相当疲れるって話だったよな?」
「破損具合にもよるが、平均は1本あたり6時間前後。
最初はもっとかかったが、コツを掴んで早くなってもそのくらいじゃ。
隊長格が軒並み卍解使用不可というのは不味いんで、不眠不休の修復作業を行った。
これほどエネルギー切れの起きないスキルを恨めしく思ったのは初めてじゃった。
……そしてすべての修復を終えた直後、ワクワクしながら身構えていた更木たちが目に入り、逃げるように現世へ戻って来た」
「……納得しました。本っ当にお疲れ様です」
「いや、少しは気が楽になった。
聞いてくれてありがとうな」
ようやく隣互がのそりと上半身を起こすと、胸元にしまい込んでいた機械から音が鳴り始めた。
「……もしもし?」
『黒崎隣互か、儂じゃ』
「山本……何用か?」
『すまぬが、可及的速やかに尸魂界に足を運んでもらいたい。
お主にお会いしたいという方がおる』
「昨日の今日じゃぞ!?
……む?『お会いしたい』?
まさか貴族ではあるまいな。
今の儂に雑言を聞き流す心のゆとりはないぞ?」
護廷十三隊総隊長である山本が敬語を使う相手と言えば、貴族か四十六室くらいのはずだ。
隣互……ヒノカミはとにかく典型的な権力者とは相性が良くない。
下手をすれば昨日以上の地獄絵図。
山本にはそれを伝えたはずだが。
『いや違う。貴族などより更に上の方じゃ』
「更に上?……一体何者じゃ?」
――――……
「ちょっとぉ!隣互サン!
護廷十三隊の皆さんの前でアタシの卍解使ったってどういうことですかぁ!?」
尸魂界にいた元仮面の軍勢からの連絡で彼女の所業を聞いた浦原が怒鳴り込んできた。
「姉貴ならいねーぞ。
しばらく前に、尸魂界に呼ばれてまた出て行った」
「ハァ?彼女は通信機を持ってましたか?」
「えぇ。その通信機に山本総隊長から連絡が入ったので、そのまま持っていきましたが」
「おかしいですねェ。
通信が繋がらないから手元に置いていないのかと思いこうして足を運んだわけですが、尸魂界なら届くはず……。
そもそも尸魂界の要件は何ですか?」
「オレらも良く知らねーけど、会いたいって人が来てるんだとよ。
総隊長さんが言うには……」
「『零番隊』だとかなんとか」
「!!!!」
「あっ、オイ!どこ行くんだよ、浦原サン!」
一護の呼びかけにも応えず、浦原は商店へと踵を返し走り出す。
(マズイ、マズイ、マズイ!
なんでこの可能性に思い至らなかった!
彼女は……『全部揃ってる』じゃないか!!)
身を隠すことも忘れ、瞬歩すら駆使して屋根の上を疾走する。
(通信が繋がらないってことは、もうとっくに『上』に連れて行かれてる!
力尽くでこられたら……いや今の彼女なら力尽くでも跳ね除け……!
違う、そうじゃない!!
万が一にも『力尽く』でことが決まる状況に陥った時点で!!)
「最悪の場合……『この世界』が終わる!!」
ここから完全にオリジナルルートに入ります。
……相当無理がある、批判も大きい流れになると思いますが、自分ではこんな結末しか思いつきませんでした。
ご了承ください。