尸魂界、瀞霊廷の一室にて浦原・山本・京楽・浮竹の四人が極秘裏に対談する。
万が一にも他者の侵入を許さぬ密室にて、盗撮・盗聴対策の結界まで重ねて使うという念の入れようだ。
涅ですら彼らのやり取りをうかがい知ることはできないだろう。
「『霊王』とは、『世界の楔』なんです」
浦原の一言目に反応を示したのは、京楽だけだった。
「その様子だと、山じいたちは心当たりがあるのかな?」
「聴取を受けた藍染が、同じようなことを口にしていたんだ」
「儂も全て把握しているわけではない。
浦原、改めて説明を頼む。
お主なら我らの知らぬことも知っていよう」
「わかりました」
それはまだ世界が『現世』『尸魂界』『虚圏』の『三界』に別れる前の話。
生と死が同じである世界にて、虚が人間を喰らい始めた時に彼らを護るため立ち上がった者がいた。
それが『霊王』。
人・死神・滅却師・完現術者の力全てを併せ持つ、神のごとき存在である。
彼はその力を振るい、人々に広め、虚を滅却して世界の循環に戻していた。
しかし生と死が同じである世界に進化はなく、緩やかに衰退していく未来しかなかった。
そこで後の世にて『五大貴族』と呼ばれる者たちの祖先が、世界を生と死に分離させることで滅びを回避しようと考えた。
その方法とは彼らの一族より一名ずつ選出し、霊王より彼らに世界を分ける力を賜り、彼らを人柱として世界を留める楔とすること。
そして志波家の祖先が霊王を説得し助力を得るために謁見した。しかし。
「その隙を突いて綱彌代家の祖先が、霊王を襲い封印したんです。
霊王の力を受け継いだ者よりも、霊王そのものを用いた方がより確実であるとね」
「「!?」」
神のごとき存在である霊王ならば返り討ちにすることもできただろう。
だが彼はなぜか封印を無抵抗で受け入れた。
「だから綱彌代は霊王を疑った。まだ何か仕掛けてくるつもりかもしれないと。
そして万が一の復讐を恐れ、霊王の力を悉く奪い取ったんです。
前進を司る左腕と静止を司る右腕を斬り落とし、臓腑を抉り取り生も死もない状態に陥れた」
「……えっぐい話だねぇ」
「そして他の死神たちも、最終的には綱彌代に同調しました。
霊王を彼らにとって都合のよい、一切の反抗もせずに世界を留め続けるための人柱に造り替え、彼を『楔』にして世界を三つに分けたんです。
故に『霊王』の死は『世界の崩壊』。
零番隊が守っているのは『霊王』だけではなく、『霊王によって維持されている世界』そのものなんです。
だから彼らは圧倒的強者でなくてはならない。
それこそ尸魂界全土が反乱を起こそうと、鎮圧できるだけの力が必要になる」
「っ!我々が、そのようなことを!」
「『しない』とは言い切れないでしょう?
実際に『した』から今の世界になったんです。
霊王に忠誠を誓う零番隊からすれば、死神は『前科持ちの潜在的な敵対勢力』なんですよ。
……尸魂界の貴族とは『貴き一族』ではありません。
神話の英雄を貶め利用し続け、その事実を隠蔽している『大罪人の一族』なんです。
後の世に生まれ平穏を享受してるアタシらも、似たようなもんですがね」
「じゃあ彼らにとって、僕ら『護廷十三隊』は……」
「その『共犯者』、と言ったところでしょうねェ……。
少なくとも『正義』を名乗るのはおこがましいと思っているでしょう。
彼らに『悪』と呼ばれても否定する資格はない。
藍染サンは、おそらくこの事実を知っていた。
そして東仙サンにもそれを明かしていたとすれば……彼の頑なな態度もご納得いただけるかと」
「「「……」」」
沈黙が場を支配する中で、山本が口を開く。
「……おおよそは把握できた。
して、零番隊が黒崎隣互を連れ去ったこととどう繋がる?」
「……彼女は『完現術者』です。
彼女が持っている斬魄刀、あれは彼女がそうとは知らず『完現術』で作り出したものです。
死神らにより切り刻まれ世界に散らばった『霊王の欠片』。
その一つが彼女の中にあることは確認しています。
……『人・死神・滅却師・完現術者の力を持つ、神のごとき存在』。
それは彼女にも当てはまるとは思いませんか?」
「「「……!」」」
「それだけじゃない。
進化した崩玉の調査中に発覚したのですが、あのスピリット・オブ・ファイアとやらは『虚』の因子を宿したようです。
彼女の内には、この世界の『あらゆる力』が神に匹敵する次元で備わっている。
そして『世界を隔てる能力』……アナタ方なら身に覚えがあるはずだ」
「!?『領域』か!!」
「えぇ、そうです。
彼女は『空間を断絶し自らの世界を作り出す能力』を持った『空間制御』のエキスパート。
加えて『老いることのない肉体』に『尽きることのない力』、『死すら覆す蘇生術』。
すでにある意味で『生死を超越している』存在だ。
……彼女とかつての霊王、どちらの力が上かなんてアタシにはわかりません。
ですが『世界の楔』としての適性ならば確実に、彼女は霊王を上回る……!」
「まさか零番隊の……兵主部一兵衛の目的は!!!」
「彼女を次の『霊王』に……この世界の『人柱』にすることです」