『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第49話

黒崎隣互は持ちうる力の大きさに見合わぬ『俗物的な人間』だ。

世界を左右することが出来ても『身の丈に合わぬ』とそれを望まない。

だが家族や仲間を見捨てない。

彼らを護るために世界を救う必要があるならそうするだろう。

だから兵主部は彼女の情に訴えた。

 

「儂に手足を落とされ封じられよと?」

 

「その必要はなかろう。

 世界の楔としてならばおんしの才は霊王を遥かに超えておる。

 動きや意識を封印するまでない。

 この霊王宮に座してくれるだけでよい」

 

「つまりこの霊王大内裏から出なければ良いということか?」

 

「そうなる。

 無論、儂を始めとした零番隊はおんしに寄り添い続ける。

 確約はできぬが、おんしの想いに沿うよう微力を尽くす」

 

「しかし……永遠にか」

 

「……その通りだ」

 

次の霊王が生まれる可能性が限りなく低いからの話だ。

即ち隣互の次もない。

彼女が立ち去った瞬間がこの世界の終わりとなる。

 

今すぐにという話ではない。いずれで構わない。

ならば仮に引き受けたとしてもまだ時間がある。

そして時を超えて平行世界を転移できる隣互は、僅かな時間があればこことは別の世界で永遠の時を過ごすことができる。

 

寿命を失い、自分を殺しうる強敵も命を懸ける理由も失った彼女だからこそ、いつかは自分で自分を終わらせなくてはならない。

かつての恩人たちへの巡礼の旅を再開し、ヒーローの世界に帰還し、弟子や甥姪たちの生涯を見送って。

そして自分の人生に満足した後もう一度この世界に戻って霊王の座に付き、黒崎一家とこの世界の行く末を見守り続ける。

……悪くない最期だ。

いつか生きることに飽きて無意味に命を散らすより、よっぽどマシな結末だ。だが。

 

「……断る」

 

「……そうか」

 

兵主部はその回答を予想できていた。

例え霊王が挫折し世界の維持を諦めたとしてもすぐに世界が滅びるわけではない。

おそらく、彼女の家族の寿命が尽きる方が先だろう。

とは言えその家族も死後は尸魂界に訪れる。

何より死神を友と認めた彼女ならばとすがってみたが、やはり駄目だったようだ。

しかし兵主部の想定以上に熟考した末の結論だったため、彼は顔を上げて尋ねる。

 

「理由を聞いても?」

 

「引き受けてしまったら……一護らに今の和尚と同じ顔をさせてしまうからな」

 

隣互が霊王となれば、家族と仲間たちの未来を護り続けることができるだろう。

だが隣互を犠牲にして手にした未来で、彼らが笑ってくれるとは思えない。

 

仮初とは言え、彼女はかつて『ヒーロー』だった。

人々の命『だけ』しか守れないヒーローなど三流以下だ。

ヒーローは人々の笑顔も護らねばならない。

命だけでなく、心も救わねばならない。

他にどうしようもない状況というならともかく……『可能性が残っている』内は諦めるには早すぎる。

 

「だから、求めるべきは『次の霊王』ではない。

 世界を維持するために、霊王という『人柱を必要としない方法』じゃ」

 

「!?」

 

続く言葉に驚き、兵主部は立ち上がり隣互に詰め寄る。

 

「そんなもの、あるはずが!」

 

「『この世界』にはな。

 三界の全てを識る者よ、儂がどこから来たか忘れたわけではあるまい」

 

「まさか……知っているというのか!?」

 

「いや知らぬ。そしてあると言う保証もない。

 だが儂がかつて巡った中には、この世界以上に霊的な神秘に満ちた世界もあった。

 可能性は無限、時間も無制限。

 ならば見つかるまで探し続けるだけよ」

 

あまりにも無責任で投げやりな回答。

しかしそれは言葉にするほど簡単なことではない。

そして彼女は、くだらない嘘はつかない。

 

「……おんしの言葉を疑いはせぬ。

 だが正直戸惑っておる。

 霊王の座に縛り付けようとした儂が言えたことではないが……おんしが自ら労苦を背負おうとする理由が、儂にはわからぬ」

 

「『救ってくれ』と言われた。

 ならば救うさ。儂のやり方でじゃがな」

 

「……それが、理由か?」

 

「霊王のやり口は確かに気に食わぬ。許すこともできぬ。

 しかし彼の献身に対する感謝と敬意を忘れたつもりはない。

 それを支え続けた和尚にもな」

 

追い詰められた悪党の無様な命乞いではない。

大恩ある方々からの、救いを求める必死の懇願だ。

これに応えずしてなんとする。

 

 

「……ぅわっはっはっは!

 わからん!おんしはわからんことだらけだ!」

 

この世界の全ての名を知り、全ての事象を知る兵主部は匙を投げた。

 

「他人にそう言われるのも、もう何度目か。

 じゃが儂は吐いた唾は吞まぬ。

 それだけは信じてくれ」

 

「あいわかった。儂はおんしに賭けよう。

 おんしがその方法を見つけるまで待つこととする」

 

「待つほどの時間は取らせぬさ」

 

隣互はつま先で地面を何度か叩いて、この世界の『座標』と『時間軸』を確かに記憶した。

 

 

「5分で戻る」

 

 

そして消えた。

兵主部は世界中に視野を広げたが、彼女の姿はこの世界のどこにもない。

 

「行ったのか……なんとまぁ気忙しい娘よ。

 だが、実に頼もしい」

 

たった今、彼女は旅立ったのだ。

散歩に行くような気軽さで、この世界を救う方法を探し求める旅に。

 




彼女は再び別世界……かつて巡った他の世界に旅立ちましたが、そこでの話を挟むと間が空いて話が分かりづらくなるため『この世界に戻った直後』の話を先に投稿します。
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