「おっかえり一護ぼほぉぁっ!?」
「おうただいま」
玄関の扉を開けた途端に襲い掛かる父のスキンシップに裏拳で応えてから靴を脱ぐ。
もうすぐ新学期が始まる。
妹の遊子と夏凜が中学生になる。
少し早いが入学祝いをするからと、今日の夕飯は家族揃ってパーティーだと聞いている。
「おう、おかえり」
「……ただいま」
こういう祝い事があるときには、昔から必ず姉も参加していた。
今回は彼女が料理を作ると言っていた。
今も台所から机の上に大皿を運んでいる。
「……?
なんか、変わってねぇか?」
「かかか。イメチェンじゃ、イメチェン」
姉の普段着は死覇装に似た黒い和服だったが、赤とオレンジの暖色系になっている。
袖から覗く左腕は包帯のような白い帯が何重にも巻き付いている。
特に目を引くのは側頭部に着けている鬼のお面。
『武装錬金』とかいう鎧のものにそっくりだ。
「どうせ変えんならもっと普通のカッコにしろよ……しかしなんでまた?」
「心機一転という奴じゃよ。一区切りついたしな」
「……一区切り?」
「あぁ、一番の山は越えた。
あと数カ月もすりゃ全部終わるわい」
「そっ……か……」
場合によっては本人に問い詰めようとも考えていたが、どうやら自分が気を揉んでいる間に解決寸前らしい。
拍子抜けしたが、ホッとした。
「……なぁ、多すぎねぇか?
こんな量6人で食えるかよ」
「ちと張り切りすぎてな。
じゃが雨竜と織姫と茶渡も呼んどる。
9人なら問題あるまい」
「雨竜はわかっけど……なんで井上とチャドまで?」
「どーせあと数年もすれば織姫も家族になるじゃろ」
「ぶふぅっ!?
がっ、なっ、何言ってんだてめぇ!?」
「んで雨竜と織姫呼ぶなら茶渡も呼ばねば仲間外れじゃからなー」
「話聞けや!
……つーか堂々と何やってんだ!
その布、完現術か!?」
「事情を知るものしかおらぬ家の中でまで隠す理由はあるまい。
便利な力は使ってこそじゃよ」
台所に引っ込んだ隣互を追いかけて覗くと、包丁で食材を切っている彼女の左腕から伸びた帯が、宙に浮いた炎の上でフライパンを振っていた。
炎の方は個性とやらだろう。能力の無駄遣いが過ぎる。
やがて母と二人の妹がケーキを買ってきて。
招待客3人が揃ってやってきて。
くだらない馬鹿騒ぎに振り回されながら全員で食卓を囲んだ。
ようやく全部終わるのだと、かつての日常が帰って来るのだと信じていた。
……この時までは。
――――……
「こんばんわ~。
いや~、羨ましいですねェ豪華なお食事。
アタシもお呼ばれしたかったなぁ」
「……何の用だよ、浦原サン」
織姫と茶渡を家に送ると付き添った一護と雨竜。
彼ら4人の前に、浦原が現れた。
「……お時間、いいですか?」
「あぁ」
彼は神出鬼没でこんな夜更けに現れるのも当たり前。
そして彼が動くとき、必ず何か意味がある。
「本当は隣互サンから伝えるべきだと思ったんですがね。
しかしやはりというか、彼女は何も言わなかった。
だからアタシが話します。
何より一護サンと……雨竜サンには知る権利がある」
「僕たちが?」
「ここは……」
「覚えてらっしゃいますか?一護サン」
「あぁ……忘れるかよ」
浦原の後をついて歩くこと暫く。
辿りついた場所は河川敷。
一護が初めて虚と出会い、そして隣互が虚と戦った場所だ。
「かつて滅却師だった真咲サンは突如力を失いました。
そして時をほぼ同じくして雨竜サンのお母さんも。
……二人の滅却師が力を失い、もうすぐ9年になります」
「……それが?」
「滅却師には、こんな伝承があるそうです」
封じられた滅却師の王は。
900年を経て鼓動を取り戻し。
90年を経て理知を取り戻し。
9年を経て力を取り戻す。
「『滅却師の王』……?」
「今から998年前に死神と戦い敗れた滅却師の開祖にして祖先、『ユーハバッハ』という男の事です。
全ての滅却師には彼の血が流れている。
先ほど挙げたお二人と雨竜サン、そして滅却師ではありませんが一護サンにもね。
奴はその血を通じて『不浄』と見なした滅却師から力を奪い、自らの力とすることができるそうです」
「では、僕の母は!?」
「体が弱かったそうですね……突然の力の喪失に、耐えられなかったのでしょう」
「っ……」
「奴が『不浄』と見なしたのは混血の滅却師だったようです。
ただ雨竜サンが無事なのは不明なんです。純血種の真咲サンが対象になった理由は予想がついてるんですがね。
彼女らが力を失ったのは6月の中旬。今は4月前。
先ほどの伝承によるならば、間もなく『力を取り戻す』9年が終わり、ユーハバッハは復活する。
……織姫サン、死神と滅却師が相容れぬ理由はご存知ですね?」
「滅却師は虚を消滅させてしまうから、現世とあの世の魂の数のバランスが崩れて世界が崩壊する、ですよね?」
「そしてついに世界は崩壊寸前へと陥り、死神によって滅却師は滅ぼされた。
その結末を聞いてどう思いました?」
「……虚から人間を守るために仕方なかったんじゃないかなって……。
滅ぼされるのは、あんまりだと思いました」
「ウム……」
「……では『世界のバランスが崩れる』ことが不可抗力ではなく、『世界のバランスを崩す』ことそのものが目的だったとすれば?」
「「「!?」」」
「石田家や黒崎家の滅却師の皆さんは虚から人々を護るために戦っていたのは間違いありません。
しかし滅却師の王であるユーハバッハは『護るため』ではなく、『壊すため』に戦っていたんですよ。
……彼は意図的に世界を滅ぼそうとしているんです」
情報源は和尚です。
原作では敢えて霊王が討たれるような動きをしていましたがその理由が無くなっているため、浦原や山本に情報を公開しユーハバッハの戦いに備えています。