『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第56話

霊王宮は瀞霊廷の遥か上空に浮かんでいる。

零番隊の使っている『天柱輦』という柱状の乗り物は上から降りてくるだけしかできず、自力で霊王宮へと帰還する力を持たない。

故に零番隊と浦原、一護を筆頭とした現世の人間たちは志波家に向かい、天柱輦を志波空鶴の花鶴大砲で打ち上げてもらう形で霊王宮へと飛ぶ。

 

『霊王宮表参道』に着地した一護たちが天柱輦の外に出ると、そこにはユーハバッハが残していった彼の親衛隊が待ち伏せしていた。

 

「相手は4名……ならばこちらも同数で構わぬ。

 和尚、小僧共を連れて先に行け」

 

「っ!?アンタらだけじゃ」

 

「ほざくな。我らは零番隊。

 貴様ら如き弱者が気遣うなど侮蔑に他ならぬ」

 

「ハイハイ、さぁ行った行った!

 じゃないと巻き込んじまうよ!

 アタシらの本気は、ちょっとばかし大雑把だからね!」

 

「行かせると思うか!?」

 

「たわけが、もう行ったわ」

 

一瞬だけ作った幻覚の隙に兵主部と浦原が一護らを掴み、すでに表参道を駆け抜けていた。

 

そして兵主部と浦原の先導で『霊王大内裏』へと辿り着いた一行。

最上階である霊王の間には。

 

「……誰もいねぇ……何もねぇ!?」

 

「まさか、霊王はもうユーハバッハに!?」

 

「いや違う。

 ここは霊王の間ではあるが……正確には『先代の』霊王のおわす場であったのよ」

 

「先代……?」

 

「……霊王は、代替わりしたんですよ。

 かつてここに霊王として『封じられていた』存在はすでにいません。

 彼の魂は解放され、今は輪廻の輪に加わっていることでしょう」

 

「……『封じられて』?

 霊王とは、いったい何者なのですか!?」

 

「……霊王とは、世界を維持するための人柱のことだ」

 

「「「「!?」」」」

 

事情を知らぬ一護らに、浦原が簡単に概要を説明する。

霊王とはおよそ百万年前に、死神たちの手によって世界を分けるための楔にされた存在であることを。

 

「……んだよそれ。

 代替わりしたってことは、また誰かを犠牲にしたってことか!?」

 

「それは……」

「その通りです。

 我々はこの世界のためにと、また一人の人間を犠牲にしました」

 

「てめぇ!」

 

兵主部の発言を遮った浦原に、一護が掴みかかる。

 

「先代の霊王はもう限界に近かった。

 これ以上世界を維持できるか怪しくなっていた。

 そうすればアタシも、アナタも、アナタの家族や友人も全て死ぬことになる。

 だから事情を全て明かし、当人の了承を得て、次の霊王になってもらったんです」

 

「だからって……!」

 

「止まれ、黒崎一護。

 ……今の霊王に頼み込んだのは儂だ」

 

兵主部が一護の腕を強引に引き剥がす。

 

「浦原喜助。

 おんしの気持ちはわかる。

 ……じゃが余計な言葉で煽ろうとはするな」

 

「一護、君も落ち着け。

 まだ戦いは終わっていない……今の霊王を護る方が先だ。

 兵主部さん、今の霊王はどちらに?」

 

「この『大内裏』の更に上だ。

 どうやらユーハバッハもそこにおるようだな」

 

「一護くん……」

「一護……」

 

「……わかった、行こう」

 

納得しきれていないが、怒りを飲み込んだ一護は更に先へと進む。

 

ほんの少し前まで、霊王大内裏の上には何も存在しなかった。

しかし新しい霊王は霊王大内裏の『中に入り切らなかった』ため、代替わりと共にその上空に新たな浮島が作られた。

 

「ユーハバッハ!……?」

 

真っ平らな大地の上に辿り着いた一護はこちらに背を向けるユーハバッハに向けて叫んだが、様子がおかしい。

天を仰ぎ、膝をつき、右手に握った剣の先端を力なく地面に乗せている。

その隣にいる奴の腹心らしい人間もまた呆然としていた。

 

「兵主部……一兵衛……!」

 

「軽々しく儂の名を呼ぶな……と言いたいところだが、今は許そう。

 ……どうやら散々足掻いた後のようだな」

 

肩で息をしながら、憎しみを込めた表情のユーハバッハが振り向く。

 

「なんだ……『アレ』は!?

 霊王はどうした!?」

 

「その言葉がかつての霊王を指しておるのなら、もうおらぬ。

 そして今の霊王を指しておるのなら……おんしが今目にしておるではないか」

 

そう言って兵主部もまた天を見上げる。

 

「何……アレ……!?」

 

「……巨人……!?」

 

彼の視線の先に会ったのは、遥か上空に浮かんでいる光の球体。

皆が目を凝らしてみれば、その中には人の形をした何かが見える。

 

赤い鎧を身に着けた巨人が白い綱を身に巻き付け、炎の鳥の上に胡坐をかき、巨大な掌を合わせている。

よく見れば巨人にはもう一対の腕があり、小さな光の玉を胸の前で抱きかかえている。

 

「あれこそが今代の『霊王』……いや」

 

 

 

 

「『霊統べる王(シャーマンキング)』とお呼びするべきかの?」

 

 

 

「……!?」

 

一護はその単語に聞き覚えがあった。

再会からずっと慌ただしい日々が続いていたが、その合間に聞いた彼女の冒険譚の中に。

 

こことは別の世界に生きる霊と共に在る者(シャーマン)たちの王。

この世界にはシャーマンなどいない。

シャーマンの世界でその力を学んできた、ただ一人を除いて。

 

「じゃあ……アレは……次の、人柱は!!」

 

彼らからは見えないが、巨人の抱える光の玉の中には人影があった。

 

 

 

「姉貴……!!」

 

それは、彼らの良く知る女性の姿に似ていた。

 

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