『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第57話 霊統べる王

場面は過去に遡る。

 

平行世界を巡り、霊王に代わり世界を維持する手段とやらを導き出した黒崎隣互は、霊王宮に集めた関係者の前で語り始めた。

 

「必要なものは大きく二つ。

 一つは、生者の世界と死者の世界を分けた状態を維持する機構。

 もう一つはその状態でも魂が循環する機構じゃ。

 まずは肝心の前者について」

 

現状では『霊王』という存在を、世界を分断した状態で維持するための『楔』としている。

 

「『楔』ではなく『結界』を用いる。

 断界全体に結界を張り、生と死の世界の再結合を阻む」

 

当時とは異なりすでに生者と死者の世界は別れているのだから、間に何かを挟むだけでよい。

そのために霊界と魔界の世界にて、霊界特防隊から結界術を学んできた。

彼らは圧倒的に劣る力でありながら強大な魔族すら通さぬ結界を作り出す結界術のエキスパート。

彼らの術を、その強大な魔族すら遥かに凌駕する力を持つ隣互……ヒノカミが用いれば、二つの世界を遮断する結界を張ることができる。

それぞれの世界の力がもう一方に悪影響を及ぼすこともないだろう。

 

『楔』ならば一度突き刺せばいいが素質を持った人柱が必要。

『結界』ならば維持するための霊力さえあればいいが必要な量は膨大。

今のヒノカミでも全力を出してようやくという量だ。

 

しかし確かに霊力は足りており、ヒノカミには『エネルギー切れ』も『寿命』もない。

『楔』と違い一か所に留め置く必要もない。

この世界にさえいれば、現世だろうが尸魂界だろうが虚圏だろうが問題ない。

どこにいても何をしていても、この世界を維持することが出来る。

 

「しかし永遠に儂がこの世界に滞在せねばならぬことは変わらぬ。

 結界の維持で力のほぼ全てを使い果たしている無防備な儂が、フラフラと歩きまわっては主らも気が気ではあるまい」

 

ヒノカミが世界の維持を担っているという事実を知れば、絶対に手を出してくる勢力が出てくるはず。

であればヒノカミを厳重に警備せねばならず、結局霊王宮の奥に押し込めねばならくなるだろう。

 

「故に、同時にこの結界を維持する存在を作り出す」

 

霊王にも勝るヒノカミが全力で取り組んでようやく維持できる結界。

それを代行できる存在など今のこの世界にはいない。

それこそ零番隊全員でも無理だ。

 

だから新たに作り出す。

そしてそれはもう一つの問題、世界に魂を循環させる機構を兼ねている。

 

 

全ての魂が生まれ、全ての魂が還る場所。

一つの世界の全ての霊の集合体。

星の全てを記憶するアカシックレコード。

 

 

「死神の世界に『グレートスピリッツ』を誕生させる」

 

 

今までは死者の霊は主に死神によって尸魂界に送られてきた。

そして尸魂界で死んだ霊は世界に溶け、やがて現世に流れ着き新たな魂となる。

これをグレートスピリッツを通して行う形にする。

世界を分断する結界をグレートスピリッツに繋げて維持させつつ、それぞれの世界をコミューンに見立て、グレートスピリッツを通じて消えゆく魂を集め、記憶し、送り出す。

これにより魂の循環が自動化されるだけでなく、二つの世界の間に世界全ての魂と同じ重さを持つグレートスピリッツが挟まれるため、現世と尸魂界の魂の数に多少の差が出たとしても傾くどころか揺るぎもしない。

 

世界全ての霊の集合体だ。その霊力は今のヒノカミとすら比較にならない。

結界を維持するなど容易く、外部からの干渉なぞ跳ね除ける。

グレートスピリッツをどうこうできるとしたら、それこそ儀式により自らの肉体を捨てグレートスピリッツと一体化した『シャーマンキング』しかいない。

そして死神の世界に『シャーマン』はいない。

零番隊が護る霊王宮に立ち入ることすら困難を極めるのだ。

この世界にシャーマンキングは生まれない。

 

ヒノカミが使役する『スピリット・オブ・ファイア』は元を辿ればグレートスピリッツの分霊。

そして新たな分霊『ベビー・オブ・ファイア』を生み出すことができるほどに成長している。

故にベビー・オブ・ファイアをグレートスピリッツにまで進化させることは不可能ではない。

 

「しかし放っておけば勝手に育つものでもない」

 

グレートスピリッツとしての役割を教え、導き、育てる存在が……『母親』が必要になる。

 

「その役割を、儂が担う。

 ベビー・オブ・ファイアがグレートスピリッツとして育つまで、儂がグレートスピリッツの代役を務める」

 

消えゆく魂を集めるのは『滅却師』の霊子支配能力。

魂を送り出すのは『死神』の魂葬。

魂の記憶を記録するのは『ノー・モア・タイム』の記憶力。

 

必要な要素は揃っている。

それらを駆使してヒノカミがグレートスピリッツとして振る舞い、その行いを内に取り込んだベビー・オブ・ファイアに学習させる。

 

「……が、今の儂ではグレートスピリッツの母体となるのも、グレートスピリッツの代役を務めるのも到底不可能」

 

ここまで肥大化した魂であっても、ヒノカミは所詮人間。

グレートスピリッツを内に抱え込むことも、世界中の魂を受け止め記憶することもできない。

魂が耐え切れず砕けて消滅するのは目に見えている。

神のごとき力を持っていても、ヒノカミは神ではない。

 

ならばなるしかない。

 

「儂の魂を、造り替える」

 

彼女の背後に現れたのは『観音開紅姫改々』。

触れた存在を『造り替える』力を持つ、ヒノカミに似た姿の『女神像』。

 

シャーマンキングになる為の儀式を応用する。

『人間の体』を捨て、魂を高次元の霊体と一体化させ上位の存在へと進化する。

……自分の魂をグレートスピリッツに匹敵するほどの『精神生命体』へと造り替える。

 

シャーマンの世界では年月と経験を経た人間霊が上位の霊に進化することがあった。

麻倉葉の持ち霊『阿弥陀丸』も人間霊から精霊へと進化していた。

チョコラブの持ち霊であり神格すら兼ね備えた霊『パスカルアバフ』も、元を辿れば千年前のシャーマンファイトに参加した人間だった。

 

霊力値も、超えてきた年月も、雄に彼らを超えている。

可能なはずだ。覚悟さえあれば。

 

「儂の存在を『神霊』へと昇華させる」

 

後戻りできない一歩を踏み出す、覚悟さえあれば。

 

 

 

「儂が『天』に立つ」

 

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