第一種目は障害物競争。
1年生全員、数百人が一斉に参加する都合上、例年第一種目は大勢が参加できてふるいにかけやすい物が選ばれる。
コースはスタジアムの外周4km。ヒノカミたちはその一角に潜んでいた。
生徒たちや映像を届けるカメラロボの邪魔をしないように隠れて、コースの警備をしながら観戦している。
『現在1位は1-A轟!
そして同じく1-Aの爆豪と緑谷、1-B夜嵐が続く!
つーか速過ぎだぜこいつら!
後続は引き離されてく一方だ!』
『能力の高さもだが、何より判断が正確で迷いがない。
クラスでも頭一つ抜けてる連中だが、実力の差がはっきりと浮き出たな』
流石に警備中にモニターを見るわけにはいかない。
実況のプレゼントマイク、解説のイレイザーヘッドの声で状況を把握する。
「……あいつら焦凍についていけんのか……こりゃマジでうかうかしてらんねぇな」
たった今目の前を一瞬で通り過ぎたが、直接轟たちを見たブレイザーが呟く。
轟は左から出した氷を足場、右から出した炎を推進力にしてコース上を滑るように高速移動。
爆豪は爆破の反動で飛行が可能なため障害物の悉くを無視。
緑谷は圧倒的な身体能力で障害物を跳ね除け、時に飛び越えて進む。
B組からも一人追いかけているし、他のヒーロー科生徒たちも優秀ではあるのが、残念ながらこの3人と比べるには力不足だ。
加えて、3人は互いを妨害せずに前に進むことだけに専念しているためその差は開いていくばかり。
このレースはコース上を走れば妨害でもなんでもありと宣告された。
実際に後続集団では足の引っ張り合いが発生している。
しかし轟はヒーローらしく、正々堂々正攻法で勝つと決めた。
それを察した爆豪は挑発と受け取り、轟のやり方に合わせて妨害行為を行わない。
緑谷は元々攻撃的な性格ではないし、個性の制御に集中力を割いているため余計なことはしない方が速いと判断した。
最後の関門である地雷原エリアを、轟が地面を凍結させ無効化し一気に駆け抜ける。
スロースターターの爆豪も追い上げていたが、わずかに間に合わなかったようだ。
『真っ先にスタジアムに還って来たのは、1-A轟焦凍ぉ!
スタートからゴールまで一度もトップを譲ることなく駆け抜けたぁ!
でももう少し抜きつ抜かれつの盛り上がる山場が欲しかったところだぜ!!』
『生徒に八百長を奨めるな』
『続いて1-A爆豪、少し遅れて1-A緑谷!
こいつらも及ばなかったが一位に引けを取らない速さを見せた!
こりゃこれからの競技も楽しみだぜ!!』
『無視か』
どうやら先頭はゴールしたらしい。
ヒノカミたちの目の前のコースにはまだ走っている生徒がいるが、放送が聞こえると露骨にペースを落とした。
「あーあ。見るからにやる気なくしちまってら。
ま、普通科のやつらっぽいししょうがねぇか」
ヒノカミの担当はヒーロー基礎学なので、ヒーロー科以外との接点がない。
なのでどういう生徒なのかは全く知らないが、少なくとも今の彼らの振る舞いは気に食わない。
「仮にも雄英生を名乗るのならば、せめて最後まで全力を尽くそうという気概を見せんかい。
まったく、少しは兄上を見習ってほしいものじゃな」
ブレイザーは無言だが、内心で同意した。
父以上の向上心と不屈の精神を持つヒーローを、彼らは知らない。
『焦凍ぉぉぉぉおおおお!!!!』
噂の人物の声が放送から響いてきたので、ブレイザーたちは思わず警備中だというのにモニターを見上げてしまう。
そこには全身から炎を噴き出しながら立ち上がって歓喜するナンバー2ヒーローの姿が映っていた。
隣には俯いて恥ずかしさに震える母と弟妹。
『HAHAHA!相変わらず親馬鹿だぜエンデヴァー!』
『会場警護のヒーロー。
ちょっとあの人取り押さえろ』
「……懐かしいな。
お主がここにいた頃を思い出すわい」
「やめて舞姉、マジで恥ずかしくて死にそう」
数年前、燈矢が雄英生徒として体育際に参加した時も、息子が活躍する度に気炎を上げるエンデヴァーの姿が全国に放映された。
その時は舞火も隣にいたので個性で強引に取り押さえたのだが、今回は他のヒーローたちに任せるしかなさそうだ。
「まったく……あの場にいなくてよかったぜ」
「後で合流するんじゃぞ?」
「……」
勝ち残った以上、焦凍の活躍はこれからも続く。
その度に、あの熱血親父は雄たけびと炎を上げ続けるのだ。
・フレイムヒーロー『エンデヴァー』
日本ナンバー2ヒーロー。事件解決数ならばトップ。
オールマイトが休養を取った際に一時期ナンバー1を務めていたこともある。
憤怒の形相と威圧的な態度、敵への容赦のなさから『ヴィランっぽいヒーローランキング一位』という不名誉な称号を背負っているが、度を越した親馬鹿で有名であり、そのギャップから根強い人気を誇る。
オールマイトに迫るほど実力が高い、家庭内の不和がない、市民からの人気もある。
この世界のエンデヴァーは非の打ち所がほとんどないトップヒーローです。
なのでちらっと触れましたが、彼が推薦を蹴る理由はまったくないのです。