『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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ヒーローの世界:アフター
最終話 あなたに『ただいま』を


 

「そんで家に戻ってからは一心父上の後を継いで、黒崎医院の医者になったんじゃ。

 それからは特に事件もなく過ごしておったが、年を取れんので流石に若作りが過ぎるからな。

 20年くらい経ってから妹らに病院を任せてまた旅に出たんじゃ。

 これ、一護と織姫の子の写真じゃ。かわえぇじゃろ?」

 

「……うん……そうだね」

 

(……オールマイトさん、オレもう行っていいですか?)

 

(お願い相澤くん置いてかないで!)

 

突然ヒノカミが自分の前に現れ捕縛布だけ要求して立ち去ったので、何かあったのかとオールマイトのもとを訪れた相澤。

彼はタイミングよく帰って来たヒノカミの土産話に巻き込まれていた。

 

「これが錬金術の世界のヴィクトリアの結婚式の写真。

 別嬪さんじゃろ?昔は儂よりちんちくりんじゃったのになぁ。

 これが第2回魔界統一トーナメントの後に馬鹿どもと大宴会した時の写真で、こっちがシャーマンファイトの7年後にみんなで集まった時の写真。

 蓮がめちゃくちゃデカくなって驚いたもんじゃ、あの裏切り者め。

 花は一勇と比べると可愛げの足りぬ生意気な小僧じゃが、昔のルドセブによう似ておる。

 そのルドセブもおおきゅうなって、セイラームも美人になっとってなぁ……」

 

(……孫自慢するおばあちゃんみたいなんですが)

 

(実際、生きてる年数考えたらお年寄りどころじゃないからね……)

 

「あー……ゴホン。

 ヒノカミくん。話を遮って悪いが、ちょっといいかな?」

 

「なんじゃ?」

 

語りたいことはいくらでもあるのだろうが、その前に確認しておきたいことがある。

オールマイトはヒノカミの頭を指さして尋ねる。

 

「……その『仮面』を着けてるってことは、今の君はその……『端末』なのかい?」

 

「そうじゃが?」

 

二人の胃液が少しせりあがって来た。

彼らにとってはヒノカミが帰還したのはつい先日の話。

胃に受けたダメージはまだ回復しきっていない。

 

「じゃあ本当のキミはまだ……死神の世界に?」

 

グレートスピリッツとやらが育つまでには千年はかかるかもという話だった。

しかし彼女はおよそ20年で死神の世界を離れたという。

であればここにいる彼女は世界の壁を越えて、死神の世界から遠隔操作されているということなのだろうか。

 

「ん~……あ~……まぁえぇか。

 一護らには隠し通したが、別の世界の話じゃし」

 

「「?」」

 

「実はな、死神の世界での儂の計画は『失敗』したのよ」

 

「「はぁっ!?」」

 

「グレートスピリッツの代行を務めながら端末を操作する余裕なんてなかったんじゃ。

 大願成珠に平和を祈りつつ、流れ込んでくる魂の情報を処理するだけで精一杯。

 完全にただの歯車になっとったよ。

 外の世界を知覚することすらできんかった」

 

「え!?じゃあ今のキミは!?

 一体どうやって動いてるの!?」

 

「かかか、事実上『解放されるまで外の世界と遮断されていた』という状況が上手く働いての」

 

「……まさか!?」

「え?何?相澤くんわかったの!?」

 

 

 

 

「あなたは……『未来』のあなたなんですか!?」

 

「ご名答。

 およそ『千年後』にお役目を終えた魂が『千年前』の端末を動かしとるんじゃよ」

 

「ブフゥーーーーーーーーッ!!!!」

 

「死神の世界を離れ自分の世界を作り出した後で、死神の世界の過去に未来から干渉したんじゃ。

 グレートスピリッツだった頃のことは何にもわからんから未来の知識を使った過去の改変にも当たらず、儂の本体そのものが過去に戻ったわけではないからな。

 ちゃんと平行世界が生じていないことは確認済みじゃよ」

 

「……アンタ今なんつった!?『自分の世界』!?」

 

「あぁ。流石に存在がデカくなりすぎてな……魂が世界そのものを圧迫してしまう。

 よほど強度が高い世界ならともかく、普通の世界にそのまま降りたら大惨事になりかねん。

 なんで平行世界の狭間に『領域』で自分だけの世界を作って、そこから時空間を超えて端末の操作を……」

 

「コイツガチで神様になりやがった!!」

「私たちの胃がまさに大惨事だよ!!」

 

轟舞火が死亡し、新たなヒノカミとして舞い戻るまで数カ月。

そして5日後に出かけて、戻って来たのがおよそ1時間後。

たったそれだけの間にかつての同僚は、随分遠い世界に行ってしまったらしい。文字通りに。

 

「ゲフッ!?あ、ヤバ、もう無理」

 

「オールマイトさん!?

 ……今すぐリカバリーガール呼んできます!」

 

「儂が治してやるわい。

 この世界では端末で死者の蘇生までは無理じゃが、胃潰瘍くらい一瞬じゃ」

 

「とんだマッチポンプだね!

 ……アレ?相澤くんどこ行ったの?」

 

「あー……そのまま逃げたな」

 

「……助けてヒーロー!!!」

 

大丈夫。

ヒーローは助けを求める人を見捨てない。

ただ自分だけでは戦力が足りないからと、援軍を呼びに行っただけで。

 

「舞火ぁぁぁぁぁああああああ!!!」

「ナニをしてくれたんだいキミはぁぁぁぁああああ!!?」

 

保護者と責任者が会議を中断して怒鳴り込んできた。

ヒノカミは再び会議室に連行され、やらかしを洗いざらい吐かされた。

端末とやらの強さは滞在する世界に左右されるらしく、少なくとも旅立つ前よりは弱くなっている。

それでもオールマイトやAFOよりも強いが、扱いやすくはなった。

 

だが駄目だ。

コイツには何もやらせてはいけない。

 

彼女を轟家の血縁ということにして戸籍を与える案は採用された。

しかし彼女に再びヒーローになってもらいこの世界の安定に協力してもらうという案はボツになった。

彼女はあらゆる権限を与えられず、ただの一市民として暮らすことを強要された。

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

「……暇じゃ」

 

「自業自得だろ」

 

「ごめんなさい、流石に私も同意見よ」

 

轟家に押し込められたヒノカミは、今日も夏雄と冬美に監視されている。

一回り以上年が離れていたのに肉体だけは同年代になってしまった叔母の扱いに彼らもしばらくは戸惑っていたが、中身がまったく変わってなかったので数日もすれば慣れてきた。

 

「年寄りになったんなら、年寄りらしく落ち着きを持てって」

 

「んあ~~……あの激動の日々が恋しい。

 ……ハッ!これがワーカホリック!?」

 

「ちげぇよ」

 

「アハハ……もう少ししたら焦凍も帰ってくるから、あの子とたくさん話してあげて?」

 

明日からは暦の上では連休だ。

全寮制になった雄英生徒の焦凍が、久しぶりに実家に帰ってくる。

 

 

「ただいまー」

 

 

「お」

「噂をすれば、ね」

 

夏雄の視線が玄関の方に向き、冬美が立ち上がって向かう。

 

「あら、燈矢兄と一緒だったの?」

 

「おう、折角なんで途中まで迎えにな」

 

「舞姉はどうしてる?」

 

「縁側でゴロゴロ転がってるわ。

 退屈で仕方ないみたい。構ってあげて?」

 

「猫かよ」

 

「気まぐれさと放浪癖なら負けてねぇかもな」

 

長男と長女と末っ子で、次男と叔母が待つ居間へと向かう。

 

「おかえり~、元気そうで何よりじゃあ」

 

「……ただいま。舞姉も思ったより機嫌良さそうだな」

 

「……」

 

久しぶりに甥の顔を見て元気を取り戻したのかと、夏雄と冬美は思った。

しかし燈矢だけが無言でずんずんと突き進み、両手で叔母の頭を掴み間近で睨む。

 

 

「……なぁ舞姉。

 アンタ『どこで』発散してきた?」

 

「…………」

 

「「……あぁっ!!」」

 

思いっきり叔母の眼が泳いでいたので、夏雄たちもようやく気付いた。

 

「さっきか!さっき一瞬目を離した隙に、またどっか別の世界に行ってやがったのか!!」

 

「どのくらい別のとこで過ごしたの!?」

 

「……一年、くらい」

 

「「一年!?」」

 

「いい加減にしろよコラァ!

 マジで監視カメラ付きの部屋に放り込むぞ!?」

 

「助けを!助けを求める声が聞こえたんじゃぁぁああ!!」

 

「先に親父を助けてやれよ!

 胃薬の量そろそろヤベーことになってんだぞ!?」

 

燈矢と夏雄が泣きわめく叔母に詰め寄りし、冬美はおろおろと慌てている。

思えば轟舞火が家に来た時は、いつもこんな感じで騒がしい日になっていた。

 

「……帰って来たって、気がすんな」

 

「ふふ、そうね」

 

「母さん」

 

台所からやってきた冷が、焦凍の隣で騒がしい家族を優しく見つめる。

 

 

「おかえり、焦凍」

 

 

「……ただいま」

 




これにてアフターストーリーは完結となります。
ご愛読いただきありがとうございました。

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