亡き巨匠へ敬意と感謝を込めて。
第1話 旅立ち
「ばあちゃんただいま!」
「おぅ、おかえり。
じいちゃんにも挨拶してこい」
食料を取りに行った少年に応対した後、続けて彼の後ろにいた見知らぬ少女に挨拶をする。
「んで、お嬢ちゃんはどちら様かな?」
「……え?アンタがコイツの『ばあちゃん』?
わたしとトシ変わんないじゃない!」
「かか、まぁ少なくともお嬢ちゃんよりは年上じゃよ」
「じいちゃん、見てみろ!うちに客が来たぞ!」
「……あったーーーー!!!」
少年が拝んでいた祖父の形見の球を見て、少女が家の奥へと駆け出す。
「『ドラゴンボール』だ!!!」
「っ!」
ヒノカミは左腕に巻き付けていた白い帯を伸ばして、少女の胴体に巻き付け引っ張る。
「ぐぇっ!!
うぎぎ……何すんのよ!」
「そりゃこっちの台詞じゃ。
家主の許可なく家に押し入り故人の形見を奪い取ろうとは、完全に強盗じゃろ」
「うっ!」
「これはじいちゃんの形見だ!客だって触っちゃだめだっ!」
「うぅ……ごめんなさい」
落ち着いたらしい少女から帯を解き、再び左腕に戻す。
「んで、こんな田舎に来た目的はそれか。
驚いたの、お嬢ちゃんのような若者がドラゴンボールを知っておるとは」
「えっ!?アンタこれが何か知ってんの!?」
「ばあちゃん、ドラゴンボールってなんだ?」
「ふむ……いい機会じゃし説明しておくか。
お嬢ちゃんは今幾つ揃えた?」
「2つ。これで3つ目よ。ホレ」
「あ!じいちゃんだ!」
少女がカバンの中から、祖父の形見とそっくりな球を二つ取り出した。
オレンジ色の半透明な球。
しかし中に入っている赤い星の数が異なる。
この球の名は『ドラゴンボール』。
世界中に散らばったこの球を7つ集めて呪文を唱えると神龍という竜の神様が現れ、どんな願いでも一つだけ叶えてくれる。
「すげぇな!」
「前にドラゴンボールを集めた人は王様になったらしいわ」
「して、お主は何を願うつもりじゃ?
ろくでもない願いではなかろうな?」
ボールの大きさは掌の上に乗るほど。
こんな小さなものを、世界中を探して7つ揃える労力は並大抵ではない。
この少女はなんとドラゴンボールを検知するレーダーを作り出したそうだがそれでも大ごとだ。
そうまでして叶えたい望みとは一体なんだろうか。
家族や友人のために、どうしても譲れない願いがあるかもしれない。
だから願いの内容次第では少年を説得する側に回ってやっても良かった。
しかしそれが悪い願いであれば絶対に譲れない。
それこそ『世界征服』や『この世から嫌いな奴を消し去る』なんて願いでも叶ってしまうのだ。
決して自分たちにも無関係ではないからと、ヒノカミは少女に凄む。
「食べきれないほどのイチゴっていうのも捨てがたいけど、やっぱり『ステキな恋人』!これよね!!」
「……『恋人』?」
「ばあちゃん、コイビトって神様にお願いしたらできるんか?」
他に人もいない山奥に住んでいるからこそ、少年は非常に世俗に疎い。
色々と知識は与えているが、その本質を正しく理解できているとは言い難い。
「……はぁ~~……恋に恋するお年頃か。
その行動力は大したものじゃが、そんなもんに頼らず自力で見つけるべきではないか?」
「何よ、いいじゃない!
というわけで、そのドラゴンボールわたしにちょうだい!」
「だめ!これはじいちゃんの形見だもんね!」
「じゃあアンタ、ボール探し手伝ってよ!
どうせここにいても暇なんでしょ!?
最後にちょっとだけ貸してくれたらいいから!」
「……う~ん……ばあちゃん、どうしたらいい?」
ヒノカミが前々から『外の世界を見に行った方がいい』と言い含めていたため、少年は旅立ちを前向きに捉えていた。
「お主が好きに決めたらええ」
「ん~~……じゃあわかった」
「決まりね!」
旅立ちの準備のために少年が家の奥へ引っ込んだ隙に、ヒノカミはニコニコ顔の少女の後ろにスッと移動して呟く。
「……一度願いを叶えるとボールはどうなると思う?」
「ギクッ!!」
正解は『世界中に飛び散って1年間はただの石ころになってしまう』だ。
つまり一度貸したら戻ってこない。1年後にまた世界中を探さねばならない。
少女の反応を見る限り、彼女はそれを知っていてあんな提案をしたようだ。
「……儂も同行しよう。
あの子の旅立ちと成長は望ましいが、お嬢ちゃんに任せると良くない方に進むかもしれんからの」
それに途中で彼女の気持ちが変わったり願いを横取りされたりして、変な願いが叶えられてはたまらないので。
「あ、あははは、お手柔らかに~~……」
続いてヒノカミも最低限の準備を整え、揃って家の外に出る。
「さあさあ!楽しい旅にレッツゴーよ!
ところでアンタたち、名前は?」
「オラ悟空だ。孫悟空」
「儂はヒノカミじゃ。お主は?」
「……ブルマ」
少女はいやいやながら小声で答えた。
どうやらブルマは自分の名前を好きではないらしい。
「変な名前だな~……アタッ!」
「人の名を悪く言うものではない。
しかし、お主まさかカプセルコーポレーションの娘か?」
「えっ!?
アンタわたしのことまで知ってんの!?」
「儂はそれなりに世俗に通じておる。
しかし世界に名だたる大企業のご令嬢か。
神龍に願わんでも、お主なら引く手あまたじゃろうに」
「わたしの家とかお金とか、そういうのに寄ってくる輩には飽き飽きしてんのよ。
やっぱり恋人にするならもっとワイルドでカッコよくて強い男じゃなきゃ!!」
「あ~~……お主も苦労しとるわけか。
さっきは願いを馬鹿にして悪かった」
「いいって。そんじゃ、これからよろしくね!
悟空!ヒノカミ!」
「おう!」
「んむ」
若き天才少女ブルマ。
尻尾が生えた世間知らずの少年悟空。
年寄り染みた雰囲気の謎の女性ヒノカミ。
デコボコな3人組の冒険が始まった。
今までの物語から主人公の設定のみを引用した『ドラゴンボールの世界』。
ストック全くないしストーリーも決めてない。
行き当たりばったりですが開始します。
ヒノカミの強さには見合いませんが、敢えて初期の冒険にがっつり関わらせる予定です。
逆にバトルはかなり薄味で行きます。
ここまで書いてきて、バトル物を見るのは好きでも面白いバトルを書くのはだと痛感しました。