女性の身支度とはどうしても時間がかかるもの。
ヒノカミはそうでもないが、色々とお年頃の女子であるブルマは悟空が呆れるほどの時間を使っていた。
退屈だから運動をすると一人で外に出たのだが、彼が誰かと話している声が聞こえてヒノカミとブルマが顔を出す。
「……ウミガメ?」
「すいません、塩水を一杯いただけませんか?
できればワカメも添えていただいて……」
「贅沢なカメね~……」
「ワカメは……あったかのぅ……?」
どうやら困っている様子なので要望に応えてやると、なんとこのカメはこんな内陸部で1年も彷徨っているらしい。
ここから海まで、南に120キロメートル。
「オラたちがその海ってとこまで連れてってやろうか?」
「ほ、本当ですか!?」
「何言ってんの!
夏休みが終わるまであと30日しかないのよ!?」
「まぁ待てブルマ。
確か南の方にもドラゴンボールの反応があったのではないか?」
昨晩、彼女からレーダーを見せてもらったヒノカミは残るボールの位置と方角のおおよそを記憶していた。
「ちと迂回する形になるが、そちらに先に向かうことにしてはどうじゃ?」
「え~~~?」
「なんとか曲げてくれんか?
山育ちの悟空に、海を見せてやりたい」
「……もうっ!わかったわよ!」
「あ、ありがとうございます!」
ブルマの身支度が途中だったがなんとか手早く済ませてもらい、荷物をカプセルにして出発する。
ウミガメはヒノカミが運んでやってもよかったが、悟空が自分から言い出したことだ。
彼自身に運ばせた方がいいだろう。
ブルマはバイクで、ヒノカミは走ってその後に続く。
途中、ウミガメを食料として寄越せという巨大な獣人が現れたが。
「ばあちゃん、パス」
「おう、ちゃっちゃと済ませい」
ヒノカミにウミガメを投げ渡した悟空があっさりと叩きのめした。
「あ、あんなに強いの?孫くんって……。
そんでヒノカミはそれ以上……!?」
「なぁ、おまえおいしいのか?」
「お、おいしいわけありませんよっ!」
「調理法次第じゃな。
……いや食わんぞ?……食わんって」
そしてようやく海に到着。
悟空は初めて見る海の広さに衝撃を受け、ウミガメはお礼をしたいからここで待っていてくれと言い、泳いで去って行った。
「玉手箱じゃないでしょうね?」
「かかか、だとしたら儂が使ってみようかの。
さて、今のうちに身支度の続きを済ませておけ。
儂はこれからの予定を考えておく」
「そーね」
ブルマは海岸から少し離れた場所にもう一度家を出す。
悟空は未だに海を川と勘違いしており、水を飲もうとして塩辛さに咳き込んでいる。
ヒノカミは木陰に座ってレーダーと地図を並べて見つめる。
「……んん?」
南にあったボールの反応のひとつが、自分たちの方へと動いてくる。
この方角は先ほどウミガメが向かった方ではなかったか?
「……まさか」
「お待たせー」
「いいタイミングじゃな、ブルマ。
多分もうすぐ戻ってくるぞ」
「カメが?」
着替えまで済ませたブルマを連れて海岸に移動し、水平線の向こうを見つめる。
「……あ、さっきのカメだ。
上に誰か乗ってんなぁ」
「アンタこの距離でよくわかるわねー……。
ってヒノカミ、アンタもなんでわかったの?」
「予想通りなら、すぐにわかるさ」
ウミガメと同行者が陸地に到着するまで、更に待つこと数分。
「お待たせしました」
「ハロー」
「……ハデなじいさん」
やって来たのは杖を持ち、亀の甲羅を背負い、サングラスを付けアロハシャツを着たおじいさんだった。
「カメを助けてくれたそうじゃの。
儂は『亀仙人』じゃ。
……助けてくれたのは誰じゃ?」
「皆さんですが、運んでくださったのはおぼっちゃんです」
「『亀仙人』……?
もしや『武天老師』?」
「ほ?儂を知っとるとは、若いのに感心じゃの」
「ばあちゃん知り合いか?」
ヒノカミは悟空を彼の前に押し出し、頭を下げる。
「お初にお目にかかる。
儂はヒノカミ。そしてこの子は孫悟空。
『孫悟飯』、という名に聞き覚えは?」
「……ぬ!?小僧の背中のそれは『如意棒』!?
そういえば随分昔に、尾が生えた子を拾って育てていると聞いたが……」
「じいちゃん、オラのじいちゃん知ってんのか!?」
「孫悟飯は儂の一番弟子じゃ」
「……ねぇ、わたしにも何のことか教えてよ」
後ろから小声で話しかけてきたブルマに説明する。
この老人『亀仙人』は『武天老師』と言われた武術の達人で、悟空の武術の師である彼の祖父『孫悟飯』の師。
直接会ったのはヒノカミも初めてだが、悟飯から生前よく彼のことを聞いていた。
幼かったので悟空は話を覚えていないだろうが。
「……ってことはこのおじいちゃん、孫くんより強いの!?」
「確実に、な。武術の腕前ならば世界最高峰じゃろう」
「悟飯は元気か?」
「じいちゃんなら少し前に死んじゃったよ」
「なんと!?そうか、惜しい男を亡くしたのぅ……」
「老衰での穏やかな最期でした。
儂らで看取り、パオズ山に埋葬を」
「そうかそうか、これも運命かのぅ。
……良し、では小僧にとっておきのプレゼントをやろう!
こいっ!筋斗雲よーーーーーーっ!!!」
亀仙人が空に杖を向けて叫ぶと、黄色い雲が飛んできて彼の前に止まった。
「筋斗雲じゃ。これをおまえにやろう!」
「どうやって食うんだ?」
「ありがたい雲を食うなっ!」
「……悟空、何故儂を見る?
流石に儂でも雲の調理は無理じゃぞ?
……多分」
筋斗雲までもが少し距離を取った気がするが、気のせいということにしておこう。