『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第14話 大猿

一度目は孫悟飯が一人で面倒を見ていた頃だった。

二度目はヒノカミが一緒に暮らし始めてからだった。

そして今日が、三度目。

 

「あぁなった悟空には意識も理性もない。

 どれほど叫ぼうと声は届かぬ。

 ただ目につく全てを破壊し続ける」

 

実際に今も、先ほどまでいたピラフの宮殿を執拗に攻撃している。

見つからぬよう離れた岩陰に隠れた一行は大猿の暴虐を震えながら見つめている。

 

「今まではどうやって止めてたの!?」

 

「前回は儂と悟飯で叩きのめして、元に戻るまで縛り上げていた」

 

「元に戻るって……いつまで!?」

 

「……満月が、沈むまで」

 

「いぃっ!?冗談じゃねぇよ!

 あと何時間あると思ってんだ!!」

 

1時間も経たず大猿は宮殿を破壊し尽くすだろう。

おそらくその後は新たな破壊対象を求めて移動を開始する。

近辺には集落すらないので真っすぐそちらに移動することはないだろうが、夜が明けるまでまだまだ時間があるので彷徨った挙句に辿り着く可能性が高い。

そうなれば……数えきれない死者が出るだろう。

 

「……ヤムチャ、ブルマを頼む。

 儂が戦端を開く。

 奴の注意が儂に向いた隙に車を出して、全速力でこの場を離れろ」

 

「あれに挑むつもりか!?」

 

「元よりそれが、儂がこの旅に同行した本当の理由じゃ。

 万が一の時にあ奴を止めるために。

 ……ちと骨が折れそうじゃがな」

 

二度目には悟飯がいた。

そして何より『尻尾を強く握られると力が抜ける』というわかりやすい弱点があった。

しかし今回はヒノカミ一人で、悟空は既に弱点を克服している。

 

「本気で行く。決して近づくなよ。

 巻き込まぬ保証はない」

 

「無茶よ!逃げましょう!!」

 

「案ずるな。武闘家としては儂は亀仙人どころか悟飯より下じゃが……『戦士』としてなら儂の方が上じゃあ!!」

 

ヒノカミが鬼の仮面を被り、宣言する。

 

「『鬼相纏鎧(きそうてんがい)』……!」

 

仮面の口から噴き出した炎がヒノカミの体を覆い、鎧へと変化していく。

炎が消えた後、その場所にいたのは。

 

「鬼……!?」

 

「行くぞ……!」

 

赤と青の2色の鎧を身に着けた巨躯の鬼が脚から炎を噴き出し大猿へと飛び込んでいく。

左腕に巻き付けていた白い帯が膨れ上がり、左腕を何度も何度も覆うように渦を巻き、やがて形を作る。

 

「『帛手割砕(はくしゅかっさい)』!!」

 

全長20メートル近い大猿、それに迫る巨大な白い腕が、大猿を思い切り殴り飛ばした。

しかし大猿は空中で姿勢を変えて着地し、宙に立つ鬼を敵と見なして唸り声を挙げる。

対して鬼も右手の石剣に炎の刃を纏わせ、巨大な左腕で大猿を挑発する。

 

「……かかってこいやぁーーーーーっ!!」

 

『グオォォァァアアーーーーーーーッ!!』

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

「なんだよアレ!?

 どっちもバケモンじゃねぇか!!」

 

「こんなヤツらが、世界にはいたのか……!?」

 

巨大な大猿と、巨大な左腕を振るう鬼がぶつかり合っている。

『近づくな』?言われるまでもない。

あんなものは天変地異も同然だ。

自分から火山の噴火や大津波に突っ込んでいく馬鹿がどこにいる。

 

「っとそうじゃない!急いで離脱だ!

 プーアル、車のカプセルを!」

 

「はいっ!」

 

「早く行こうぜ!

 ……おいブルマ!?どうしたんだよ!?」

 

「……ヤムチャさま、正直に答えて。

 孫くんは、止められそうなの?」

 

「……」

 

ヒノカミは大猿を殺すのではなく捕らえようとしている。

過剰に傷つけることすら避けているようだ。

あの右手の炎の剣を大猿が投げてくる瓦礫を斬り払ったり牽制に使うばかりで、チャンスはいくらでもあるのに直接突き立てはしないことからもそれは明らか。

しかしあれだけ殴り続けても大猿がダウンする様子はなく、暴れまわってもスタミナが切れる様子もない。

いつになるかはわからないが、ヒノカミの方が力尽きるのが先ではないか。

それが彼の予測だった。

 

「厳しいのね?」

 

「……あぁ」

 

ブルマはポケットの中に手を突っ込み、取り出した機械を操作し凝視する。

 

「おいブルマ!?」

 

「……ウーロン、協力して。

 わたしのパンツでもなんでもあげるから!」

 

「な、なにしようってんだよ……!?」

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

『ガオォォォーーーーーーーーーーーー!!』

 

「ぐぅ……そう、じゃよな。

 あの時よりもずっと、悟空は成長しておるもんな……!」

 

悟空自身が強くなった分だけ大猿の姿での強さも上昇していた。

想定よりも、少し厳しい。

 

(取っておいたフライパン山の炎を強化に回して、ようやく互角か。

 日頃からもう少し熱を集めておけばよかったわい。

 最後の手段には……頼りたくないんじゃがな……)

 

その手段とはもちろん大猿を、悟空を殺すこと……ではない。

悟空の手足を斬り落とすことだ。

炎の剣で斬ると同時に焼けば失血死の危険もない。

手足が無ければその場から動けず、後は夜明けまで放置しておくだけでよい。

落とした手足は悟空が元に戻ってから繋げるか、最悪新たに生やせばいい。

今の彼女では蘇生は難しいが、再生や治癒なら容易にできる。

 

しかし自我を失い暴走しているものの悟空は筋斗雲にすら認められた善人。

そして大猿になっている間のことは何もわかっておらぬ、無垢で幼い少年である。

元に戻せるからといってこれを過剰に傷つけたくはない。

だから彼女はギリギリまで、それこそ自分の体が動かなくなるギリギリまで抗うつもりでいた。

 

「それでも、何も知らぬ悟空に人殺しをさせるくらいならば……ぬ!?」

 

まだそこまで離れていない宮殿跡地に土煙が近付いていく。

ヒノカミだけを見ていた大猿も、それに気づいた。

 

「ブルマ!?」

 

4人を乗せた車が夜の荒野を疾走していた。

 




この世界線ではとうの昔に悟空が弱点を克服しているため、『尻尾を切ってみれば元に戻るかも』という考えそのものが思い浮かびません。

ちなみに原作ではシーンごとに悟空の大猿の大きさはまちまちなんですが、本作では悟空の息子の方の悟飯がベジータ戦で変身した時のサイズでイメージしています。
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