「待たせたの。夏雄、冬美」
割り当てられた警備の時間を終えた二人は、会場にいる轟一家の席に合流した。
「ほんとに待ってたよ舞姉!燈矢兄!
親父の面倒見るの大変だったんだから!」
「……兄上」
「……親父」
「……フン……」
妹と息子に冷めた視線を向けられ、エンデヴァーは大きく顔を逸らした。
ヒノカミ達は警備に集中していたので中継映像を見ていないが、実況は聞こえていた。
焦凍が騎馬戦で一位を守り抜いた雄姿を見て1回。
最終種目の1回戦で瀬呂を倒したことでさらに1回。
そして最初の障害物競争の件を加えればエンデヴァーはすでに計3回炎上している。物理的に。
回数を重ねるごとにイレイザーヘッドがどんどん口悪くなっているのを聞いて、ヒノカミは後で頭を下げに行かねばと決心していた。
「夏君、実況で大まかに理解してるけどどんな感じだったのか教えてくんね?
騎馬戦開始前あたりから見れてねーんだ」
「そうなの?やっぱ大変なんだな、ヒーローって」
夏雄は二人に今に至るまでの試合の流れを簡単に説明する。
騎馬戦では舞火の予想通り焦凍のチームが一位。
残りは爆豪チームと緑谷チーム、そしてダークホースの普通科心操チームが勝ち残った。
最終種目であるタイマンバトルに参戦する16名が決定……したはずが2名が辞退を宣言する。
よくわからないが騎馬戦で勝ち残ったことに納得がいかず、自分たちはこの場にふさわしくないというのが理由だった。
ミッドナイトが許可したため参加する選手が変更。
その後レクリエーションを挟んで最終種目が開始し、今は1回戦の8戦すべてが終了したところだ。
焦凍だけでなく彼の友人の夜嵐と、ヒノカミの弟子の緑谷と爆豪も勝ち残っている。
緑谷は心操の個性で操られ窮地に陥るがなんとか撃破。
焦凍は瀬呂の速攻に冷静に対処し瞬殺。
夜嵐は暴風で飯田の攻撃を逸らして場外に吹き飛ばし、爆豪は麗日相手に容赦のない爆撃を浴びせた。
7戦目の切島と鉄哲が引き分けだったので、間もなく簡単な勝負でどちらが2回戦に進出するかを決める予定。
それが終わればいよいよ2回戦1試合目。
焦凍と緑谷の戦いが始まる。
「お弟子くんすごく強いよね。
焦凍、大丈夫かしら?」
「油断すれば危ういが、焦凍も出久が強敵と理解しておる。
師としては言うべきでないが、よほどのことがなければ焦凍が勝つじゃろうな」
「だったら絶対に勝てるように、私たちが精一杯応援しなきゃね!」
そう、よほどのことがなければ。
出久が制御を手放して自損覚悟でOFAの100%を振るうようなことでもなければ。
オールマイトは後継者である緑谷の活躍と勝利を望んでおり体育祭前に発破をかけたらしいが、勝てば終わりの決勝ではなく後が控えている2回戦、そしてわずかだが勝ち目がある状況で自爆特攻染みた行動はしないはず。
そうするよう矯正している。
夏雄の説明を聞いて考えこんでいると、いつの間にか7戦目の勝者を決めるための腕相撲対決が始まっていた。
燈矢たちを含めた会場全体が盛り上がっている内に、舞火は周囲に聞こえないように兄に語りかける。
(……出久はオールマイトではない)
(……)
(焦凍も兄上ではない。……あまり重ねて見んようにな)
(……わかっている)
舞火は兄が妙に渋い顔をしているのが気になったが、問いただすほどのことではないと判断し追及しなかった。
実は兄がこっそりと緑谷に会いに行き「OFA継承者の力を見せてみろ」と発破をかけていたと知ったら、人目もはばからず怒鳴りつけていただろう。
その場合エンデヴァーが協力者と知らなかったとは言え、思わずOFAの名を叫びかけた緑谷も犠牲になる。
『決着ぅ!2回戦に進出したのは1-A切島!』
密談している間に勝負が終わっていた。ついに2回戦が始まる。
小休止を挟んで、二人の戦士が舞台へと進んできた。
『頼りない顔してスーパーパワー!1-A緑谷出久!!
未だ負けなし!炎と氷を操る超人!1-A轟焦凍!!
共に体育祭トップクラスの成績を叩きだしてきた二人が今、並び立つ!!』
「焦凍ー!頑張ってーー!!」
冬美を始めとした兄弟たちが焦凍へ声援を送る。
舞台にまで声が届いていたようで、焦凍は家族のいる方に向かって軽く片手を上げた。
油断はしていないが、気負っている様子もない。
そして緑谷も焦凍の動きから舞火に気づく。
向けられた顔はこわばっており、明らかに緊張している。
(ここはゴールではなく道半ば。負けても夢破れるわけではない。
ならば胸を借りるつもりで、精一杯ぶつかってこい)
舞火の気持ちが伝わったのか、緑谷はゆっくりと頷き、目の前の焦凍に視線を戻す。
『それでは2回戦第1試合……FIGHT!!』
ここまでの試合内容をバッサリカット。以降の試合もだいぶ削ります。
……轟の内面に問題がないと、戦いの中でドラマが起こせないんですよね。ただ戦って勝った負けたがあるだけなので。
本文でも触れた通り、ここは単なる通過点に過ぎないですし。