「いちち……弟子のためにえらい苦労するわい……」
「着替え終わったか?」
「すまんの」
ヒノカミに周辺を警戒してもらい、藪に隠れてジャッキー・チュンの変装を解いた亀仙人は悟空たちと合流する。
「今までどこ行ってたのよ?」
「後ろの方で試合を見とって今は便所に行ってたんじゃ」
(……な?儂の言う通りじゃったろ?)
(みたいね。オムツつけた方がいいんじゃないかしら?)
「うぐっ!」
そういえば本戦前に彼らと別れた際、ヒノカミがそんな冗談でブルマたちを説得していたんだった。
咄嗟の言い訳のせいで意図せずそれを肯定する形になってしまい、亀仙人は言葉に詰まる。
「じゃあ私たちの戦いも見ておられたのですね!?」
「無論じゃ。二人とも、ようやった」
「でも悟空は惜しかったよな!」
「あのじいちゃん無茶苦茶強かったな~~」
「その通りじゃ!世の中上には上がいるもんじゃ!
これしきで満足するほど武の道は甘くないぞよ!
本当の修行はこれから始まるんじゃ!」
「うんっ!」
「はいっ!」
(ふぅ~~っ、これが言いたいためにえらい苦労したもんじゃわい……)
(何を今更、自分でしょい込んだ苦労じゃろうが)
「そうだな、もっともっと強くならなきゃ!
じゃねぇとあのじいちゃんにも……ばあちゃんにも勝てねぇしな!」
「……へ!?
このヒノカミさんって、ジャッキーさん並みに強いのか!?」
「間違いないわ」
「少なくとも今の俺でも手も足も出ないな」
「「うんうん」」
「そういやあのじいちゃんとばあちゃん、どっちが強いんだろ?」
「「…………」」
(……次の大会、儂も出てやろうか?)
(勘弁せい……コイツらだけでも手に余ると言うに……)
「……よ、よし!では良い試合をした褒美に夕飯をたらふくごちそうして……!」
「待て。……儂が作ってやる」
話題を変えつつ見栄を張ろうとした亀仙人を止め、ヒノカミがホイポイカプセルを取り出す。
ブルマからの伝手で手に入れた大型のカプセルハウスだ。
デカい厨房が備え付けられてあり、中に大量の食材も溜め込んである。
「ホントかっ!?
久しぶりにばあちゃんのメシが食えるぞ!」
「ね、ねぇ!わたしたちも一緒にいいかしら!?」
「構わん。どこか空き地を借りに行こう」
「どうしたブルマ?随分がっつくじゃないか」
「そういやヤムチャとプーアルは知らねぇんだったか。
ヒノカミの料理って滅茶苦茶うめぇんだぜ?」
(これ!折角儂が師匠らしい姿を見せてやろうとしておったのに!)
(アレの食欲は知っておろうが!50万ゼニーなぞ跡形もなく消し飛ぶぞ!?)
(……)
それは亀仙人がジャッキーとして手に入れた天下一武道会の優勝賞金。
一般人にとってはとてつもない大金なのだが、悟空を連れて外食するには心許ない額だ。
……それが事実であったことを、すぐに思い知らされることになる。
「ぷひゃーーーっ!食った食った!」
「ご、50人前はあったぞ……?」
「おかわりならまだ作ってあるぞ?」
「ヒノカミさん、流石に多すぎじゃ……」
「全部くれ!」
「ば……化物かお前は……!」
(……あながち間違いではないのよなぁ)
もう大猿には変身しないが、悟空の正体は宇宙人なので。
以前こっそりと体を調べたことがあるのだが、基本構造は地球人とほぼ同じでも細胞が似ているようで別物だった。
溜め込めるエネルギー量とその消耗が桁違いなのだ。
そして食材が尽きる直前に、ようやく悟空は満腹を宣言した。
ヤムチャが運転する車で空港へと向かう一行。
「お前たちは帰ったらまた修行の続きか?」
「勿論ですよ!!」
「いやいや、儂の教えられることはほとんど教えたつもりじゃ。
これからはそれぞれの道をゆけ。
自分自身で修業をつむが良い。
お前たちならやっていけるはずじゃ」
「……じゃあオラはじいちゃんのドラゴンボールを見つける!」
神龍に願いをかなえてもらってそろそろ1年。
石からボールに戻っていてもいい頃だ。
亀仙人が悟空の荷物を持ってきていたので、この場で別れて旅立つという。
「悟空、オレもついてってやろうか?」
「いいよ、クリリンは筋斗雲に乗れないしさ」
「ドラゴンレーダーの使い方わかってるわよね?」
「わかるわかる!
じゃあみんな、また会おうなーーっ!」
「頑張れよーーーー!」
声援を受けて悟空は再び旅立った。
「……では、儂もこのまま行くとしようか」
「アンタも!?
アイツがせっかちなのはアンタ譲りかしらね?」
「かかか。その内、またそちらの家にお邪魔させてもらおう」
「はいはい。その時はまた意見聞かせてね。
アンタと話してたら、また面白い道具が作れそうだし」
「かかか、何を隠そう儂は発明の達人……なんじゃがなぁ。
お主相手だと自信喪失気味じゃわい」
「……えーと、ブルマ?さんは科学者か何かなんですか?」
「まぁそんなとこ」
世界に名だたる大企業カプセルコーポレーションの娘であり、稀代の大天才。
平行世界で巨大組織の技術局長を務めたこともあるヒノカミだが、彼女を相手では白旗を上げるしかない。
「では、またな」
そしてヒノカミは転移で姿を消した。
唯一彼女が妖術師であると知らないクリリンは何度も目をこすって呟く。
「……ヒノカミさんって、いったい何者なんですか……?」
「……未だにオレたちでもわかんねぇんだよなぁ。
いい奴なんだけど……」
「そういやブルマ、飛行機のカプセルは?」
「……え?あれ!?
確かここに……!?」
「おいおい!まさかまた無くしたんじゃないだろうな!?」
「……あったーーーっ!
良かったーーーっ!!」
「冷や冷やさせんなよ、まったく……」
「うっさいわね!」
何しろブルマはかつての冒険で大ポカをやらかした前科があるので。
しかしあの後ヒノカミにこってり絞られ、うっかりを改めようと努力しているのだ。
……それでもやらかす時はやらかすが。