『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第28話

「やはりこうなったか」

 

舞台の上にあるのは、まるで網かごをひっくり返したような巨大な氷のドーム。

焦凍は炎を推進力にして網目状の氷の上を縦横無尽に滑走し、追いかけてくる緑谷から距離を取りながら炎と氷で遠距離攻撃を続けている。

緑谷のパワーは脅威だ。焦凍も鍛えているとはいえ、接近戦では分が悪い。

しかし四角い平面の舞台では距離を取り続けるのは難しい。角に追いやられればおしまいだ。

だから焦凍は半球状の足場を作った。

これならば円の動きで舞台上を失速することなく移動し、緑谷との距離を保ち続けることができる。

緑谷は足場の破壊を試みたが、部分的に壊してもまた再生されてしまう。

風圧で遠距離から攻撃するが距離のせいで威力が落ち、直撃しても焦凍が身に纏った氷の防御を砕くだけで大したダメージがない。

接近するために緑谷も氷の足場を利用しようとするが、足場には中が空洞になった強度のない氷が混ざっており、気づかずにそれを踏み抜くと態勢を崩し致命的な隙を晒してしまう。

 

「くっそぉ……!」

 

「……」

 

美しい氷とそれを照らす炎、高速で移動する二人の動きの派手さから会場はなかなかの盛り上がりだが、戦法自体は酷く地味。

逃げ回りながらひたすらにちくちくと遠方から攻撃する。

およそヒーローらしからぬ戦い方ではあるが、こうしなければ勝てない相手だと緑谷を認めている証でもある。

 

「ジリ貧じゃの」

 

氷のドームを作られる前に一瞬で決めれば勝ち目はあったが、舞火ほど焦凍を知らない緑谷がそこまで予測するのは無理がある。

他の攻撃に混ぜて隠しながらドームを作り上げていたので途中で気づけというのも酷な話だろう。

緑谷がここから逆転するとしたら、氷のドームを一撃ですべて破壊するしかない。

しかし今の緑谷のOFA許容限界は瞬間的に5割。

 

「あとわずか、力が足りぬな」

 

「フン!オールマイトならこの程度で苦戦なぞせん」

 

「兄上」

 

「わかっている……あれはオールマイトではない。

 そう実感したということだ……む?」

 

緑谷が氷のドームの端に移動し、壁を背にして足を止める。

焦凍は対面に移動して攻撃を続けるが、最も距離が遠い状態なので焦凍の攻撃の威力も低くなり、攻撃を見て直撃を避ける余裕もある。

しかし当然、緑谷からの攻撃も届かない。

これでは倒れるまでの時間が長引くだけだ。

 

「……50……55……60%……!」

 

「あやつ、まさか!?」

 

腕一つ捨てる覚悟かと思いきや様子が違う。

緑谷の限界は5割と言ったが、それは入試直前の話。

力を使うことへの慣れと成長により、今の緑谷の許容限界は5割を超えていたのだ。

 

「60%……SMASH!!!」

 

『ぶっ壊したぁああああ!!!』

 

まさに今までの限界を超えた一撃を天へと放つ。

それは確かに焦凍の作り出した檻を一撃で砕いた。しかし。

 

「ぐぁっ!」

 

技を放つまでに受けたダメージ。

許容限界ギリギリの力の反動。

その結果生じた隙は、焦凍が急接近し一撃を加えるには十分な時間だった。

舞台の端まで移動しドームを背にしていたので、ドームが壊れた今、彼のすぐ後ろは当然舞台の外だ。

 

『場外ィィイ!

 轟焦凍、三回戦進出ゥゥウウ!!』

 

プレゼントマイクの宣言に会場が沸き立つ。観客は勝者と敗者の両方に惜しみない拍手を送った。

 

『……ってアレ?

 エンデヴァーさん大人しくね?』

 

『理由は知らんがいいことだ』

 

しかし焦凍の活躍に誰よりも早く著しい反応を見せてきた炎司が腕を組んだまま難しい顔で座り込んでいる。

 

「どうした?兄上」

 

「……あれはオールマイトではない。

 だがそれを超えうる者、焦凍の覇道を阻む存在だ。

 1年の体育祭の1勝程度でぬか喜びはできん。

 ……こいつだけはな」

 

「……そこに勝己、いや他の者たち全員も加えてやれ」

 

「フン!俺にそう思わせるだけの力を見せれば考えてやる!」

 

2回戦第1試合の勝者は轟焦凍に決まった。

第2試合。夜嵐の放つ暴風が塩崎の茨を引きちぎり、彼女自身も吹き飛ばして決着。

第3試合。芦戸は常闇の個性闇影(ダークシャドウ)に阻まれ近づくこともできず敗退。

第4試合。頑丈な切島は爆撃を受けても岩山のように揺るがなかったが、彼が大地と一体化しているわけではない。

今後の戦いに備えて爆豪は力押しを避け、切島を宙に浮かせて吹き飛ばすことで場外に落下させた。

 

ベスト4が出揃い、準決勝の対戦相手が決定した。

第1試合は轟焦凍VS夜嵐イナサ。

第2試合は常闇踏影VS爆豪勝己となる。

 

「……よう考えたら、焦凍のくじ運は相当悪いの。

 出久、夜嵐、勝己……並みいる強敵全員と戦うことになるとは」

 

「おいおい舞姉、試合前だぜ?

 弟子が勝つって断言していいのかよ?」

 

「多少油断していたとしても勝てるんじゃよ。

 今回に限ってはな」

 

常闇の個性は強力だが致命的な欠点がある。強い光に弱いのだ。

爆豪はそれを知らないはずだが、少し戦えばすぐに気づくだろう。

爆発によりいくらでも光を出せる彼に負ける要素はない。

 

「常闇も出久や夜嵐相手ならば善戦できたかもしれんが」

 

「相性か……そりゃ仕方ねぇな」

 

「そうじゃ、兄上。夜嵐をよく見てやれ。

 あれは兄上のファンで焦凍の一番の友人。

 焦凍を超えようと露骨に挑んでくる勝己たちよりも接しやすかろう。

 儂はあ奴をエンデヴァー事務所の職場体験に推薦する」

 

「……次の奴の試合次第だ」




緑谷戦終了。
残るは夜嵐戦と爆豪戦、閉会式なのであと数話で体育祭編を終える予定です。
その後は職場体験に移ります。
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