『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第31話

 

「な、なな……なんでヒノカミさんが参加してるんだよ!?」

 

実力不足、という意味ではない。

むしろ彼女の武闘家としての実力はクリリンよりも高い。

しかし彼女は自分を妖術師であり剣士と定義している。

喧嘩は嫌いではないが、ルールに合わせると大幅に力を制限しなければならない天下一武道会はあまり好みではないと言っていた。

年を取れないので公の記憶や記録に残るような場に参加するのも控えたいはず。

たかが50万ゼニーの賞金が目当てとも思えない。

彼女はその活躍から海賊の財宝を多めに配分されており、しかし仲間のために使うばかりで大半が手つかずで残っている。

どう考えても『出ない理由』しか出てこない。

だからこそこの場にいる理由がわからない。

 

「おぉ~、やっぱばあちゃんはつえぇなぁ」

 

瞬殺するのではなく敢えて相手に全力を出させるように振る舞い、それからとどめを刺す。

身体能力は対戦相手に合わせて制限しているようだ。

相手が戦いを通じて武闘家としての後の成長につながるように振る舞っているらしく、教育者を自称する彼女らしい。

そして体のスペックを制限しているからこそ技術の高さが光る。

 

「!?ま、まさか悟空、お前が……!?」

 

「うん!さっきオラが登録するときに、『せっかく強くなったからばあちゃんとも戦ってみてぇ』ってお願いした」

 

「「バ、バッキャローーーー!!!」」

 

彼女は子供と身内にとんでもなく甘い。

悟空がお願いすれば二つ返事だったのは容易に想像できる。

 

亀仙人のもとで修業したこの3年間、ヤムチャとクリリンは何度もヒノカミと手合わせをしている。

そして一度も勝てたことはない。

実力がはっきりわかっている分、未知数なところが多い悟空よりも絶望的だ。

一応は他人ということになっているジャッキーも平静を装いつつ、汗と鼻水を流しながらガタガタと震えている。

武者震いではない。多分更年期障害でもない。

 

「……はっ!でも待ってください!

 試合でなら妖術は使ってこないはずです!」

 

「!?そ、そうだよなっ!

 ならオレたちにも勝ち目はあるよな!……きっと!」

 

「えぇ!……きっと!!」

 

彼女は公平なルールにはとても従順だ。

こっそり使えばバレないとしても、絶対に違反行為を行わない。

炎熱操作と自己再生と転移能力が封じられたなら純粋な身体能力での戦いになる。

それでも及ばないが、二人は一縷の望みに縋った。

その後鶴仙人の弟子であるチャオズが超能力をバリバリ使って戦う姿を見て、ヒノカミが『あ、使ってもいいんじゃな』と呟くのを耳にすることになるのだが……それはまだ先の話。

 

そして案の定彼女もまた勝ち進む。

天下一武道会参加者総勢182名の内、本戦に出場するのは8名。

内3名が亀仙人の弟子であり2名が鶴仙人の弟子。

変装した亀仙人と、神の端末であるヒノカミ。

以上で7名。

紛れ込んでしまった一般人のパンプットくん。本日は遠路はるばるお越しいただきありがとうございました。

気を付けてお帰りください。

 

こっそり参加していたことをブルマや一時変装を解いた亀仙人に問い詰められ、それをのらりくらりと躱して本戦の参加者控室に集合する。

部屋の隅で固まっているヤムチャとクリリンに天津飯が近づき声をかけた。

 

「貴様らドンガメチームが生き残れたとはな」

 

「「……」」

 

「……おい、聞いているのか?」

 

「だまれ、お前に構ってる余裕なんかないんだこっちは!」

 

「そうだそうだ!」

 

「……なんだと?」

 

邪険にされた天津飯はヤムチャたちが厳しい視線を向ける先に目を向ける。

そちらには3人目の亀仙人の弟子である子供と、彼と話す小柄な女。

二人の視線は女の方に向けられているらしいと気づいた天津飯は鼻で笑う。

 

「はっ!あんな女が怖いのか?」

 

「「怖い」」

 

「……」

 

挑発のつもりがあっさりと肯定され二の句が継げなくなってしまった。

 

「2対1でも勝ったことないってのに、1対1だなんて……」

 

「不味いぞ……このままではオレたちは全滅だ……!」

 

「……おい、あの女が何だというんだ?」

 

「……はっ!そうだ!!

 コイツ確か悟空並みに強いってヒノカミさんが言ってましたよね!?」

 

「そうか!おいお前!

 あの人の情報を教えてやる!

 だから対戦することになったら全力で当たれ!」

 

「はぁ?何を……」

 

「お前らはあの人を知らないからのんきでいられるんだっ!

 鶴だの亀だの言っていられる状況じゃないんだぞっ!?」

 

「……なんの冗談だ?」

 

正々堂々戦って負けることは悪いことではない。

しかし亀仙人の弟子という看板を背負った自分たちが公の場であっさり敗れるのは、あまりに外聞が悪い。

この天津飯というのも鶴仙人の弟子として参加する以上は同じなはずだ。

 

『武天老師さまに顔向けができなくなる』と嘆く二人。

大丈夫。彼なら君たちとは離れた場所で背を向けている。

物理的に弟子に顔向けできてないのは彼も同じだ。

 

 

やがて行われた抽選の結果は以下。

 

第1試合。ヤムチャ対天津飯

第2試合。パンプット対ジャッキー・チュン

第3試合。チャオズ対クリリン

第4試合。ヒノカミ対悟空

 

ヤムチャはヒノカミと対戦するとしても決勝なのだからしばらくは問題を棚上げできると安堵した。

クリリンはいきなりぶつからずに済んだものの一度勝ち上がればヒノカミか悟空。割と絶望的な表情になっていた。

 

この抽選結果は天津飯がチャオズに命じて超能力で決めたものだが、自分と戦うことになったヤムチャが露骨にホッとしていたので流石に嫌悪感を隠せなかった。

とはいえ無理やり聞かされたヒノカミとやらの情報が事実であればその反応もわずかだが理解できるものであり、衝突する前にできる限り消耗させておきたい。

故に自分とは一番遠い位置に配置し、そして亀仙人の弟子の中で一番強いらしい悟空という子供にぶつけさせることにした。

 

間もなく第22回天下一武道会、本戦が開始される。

 




前回大会でジャッキーが月を破壊していないので男狼が不参加です。
代わりにヒノカミが紛れ込んでます。
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