『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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ヒノカミ(端末)の戦闘力は200くらい。
全盛期のピッコロ大魔王が260らしいので、老いた大魔王と同じくらいです。
なので武装や能力に縛りを設けていてもこの時の悟空よりまだ上です。


第34話

 

『アチッ、アチチッ!

 これは本物の炎なのでしょうか!?』

 

舞台の上のアナウンサーだけでなく彼女の背中側にいた一部の観客も同様に、ヒノカミの翼からまき散らされる火の粉を払いのけようとしている。

免れた者たちも彼らの様子から本当の炎なのだと理解した。

 

「審判、舞台から降りろ」

 

『は!?』

 

「観客席の壁を背にするくらいには離れておけ。

 それでも仕事はできよう」

 

『え!?……いえ!

 私も実況に命を懸ける覚悟は……!』

 

その心意気は見事だが、それではただの無駄死にだ。

今の彼女は術で練り上げた爆炎を手足に纏っている。

ヒノカミは片足を上げ、地面に降ろした。

 

「『うわぁっ!?』」

 

踏みしめた場所を中心として舞台の上で爆発が起きる。

悟空とアナウンサーの声が重なった。

 

「お主がおると、巻き込みそうで動きが鈍る。

 選手が全力を出せる環境を作るのも審判の務めではないかな?」

 

『!?しばしお待ちを!』

 

説得の仕方を変えたことでようやく動いてくれた。

彼は慌てて舞台を降り、観客席との間にある芝生の上に移動した。

 

「では……」

 

 

「行くぞ」

 

一瞬でヒノカミは悟空の目の前に移動した。

これは今までと同じく瞬歩だ。

悟空は同様に地面を蹴って横に移動した。

 

「いぃっ!?」

 

しかし移動した先にはすでにヒノカミが回り込み拳を突き出してきていた。

これは躱せないと悟空は咄嗟に両腕を重ねて防御の姿勢を取る。

 

「ぎゃっ!!」

 

拳が叩き込まれた瞬間、爆発した。

強大なパワーに爆風が追加され、先程より大きなダメージを受け吹き飛ばされる。

そして飛ばされた先にはやはりヒノカミが回り込んでいる。

寸前で気付いて再度の攻撃を間一髪躱した、と思ったが。

 

「うぎっ!?」

 

(パンチの横が爆発して、オラを追っかけてきた!?)

 

そちらに爆発の力を使ったからか、当たった拳が爆発することはなかった。

しかし単純にパワーがあるヒノカミの拳をまともに受け、意識が飛びそうになる。

それでも必死に姿勢を保ち、ヒノカミの攻撃を見極めようとする。

 

『こ、これは!

 一般人の私では違いが判断できませんが、ヒノカミ選手が更に速くなった模様!

 孫選手、攻撃を躱すだけで精一杯だーーーっ!』

 

(あの羽と手足の火、あれを爆発させて体を吹っ飛ばしてるんだ!

 速さはまだギリギリ見えっけど……動きの予測ができねぇ!)

 

触れるだけで爆発するため防御は不可能。

紙一重で躱しても軌道をずらして追撃してくる。

なので攻撃を大きく回避しなければならず、反撃に転じる隙が無い。

 

 

(……躱せているだけで、とんでもないんじゃがなぁ)

 

ヒノカミは苦しそうな顔を見て彼の考えを予想し、苦笑する。

 

(しかも回を重ねる毎に反応が良くなっておる……疲労はないんか、疲労は)

 

先ほどの2回のかめはめ波、何度か当てた攻撃のダメージ、全力回避行動の連続。

どれも大きな負担のはずだが動きが鈍るどころか速くなっていく。

やがて苦しそうなだけだった顔が、苦しいが楽しくて仕方ない笑顔になっていく。

 

(亀仙人、苦労をかけていたようじゃな)

 

理解はしていたが、こうして目の当たりにするとその異常っぷりに頭を抱えたくなる。

悟空は強敵との戦いで急激に成長する。

かつては端末との実力差がありすぎて戦いが成立していなかったが、今は違う。

悟空は今、ヒノカミの端末に迫る領域にまで成長しようとしている。

このまま戦い続ければ悟空に敗れる可能性もある。

それはそれで悪くない結末ではあるのだが……。

 

(流石にそこまでは持たぬか)

 

彼の気の総量を見抜き、その前に力尽きると結論付けた。

悟空のスタミナが人並外れていようと無尽蔵ではない。

対してヒノカミの端末は周囲からエネルギーを吸収しながら戦っているので悟空よりもさらにスタミナがある。

このままでは時間が経つほど動きに差が出てきて、やがて攻撃を避けきれなくなり決着となるだろう。

 

「……それでは、味気ないな!」

 

『と、飛びました!

 ヒノカミ選手、炎の翼で空を飛んでいます!』

 

ヒノカミは上空十数メートルの位置で身を翻し舞台に向けて左の拳を突き出す。

 

「『爆裂霊光弾(クラスターショットガン)』!」

 

「うげげっ!!」

 

動作も弾丸も先ほど使った霊光弾と見た目上の差はない。

しかし舞台に触れた瞬間に弾丸が爆発し周囲を巻き込む。

 

『まさに絨毯爆撃!

 舞台の上には逃げ場がありません!

 孫選手、たまらず飛び上がったーー!』

 

それが明らかな悪手であるとわかっていても他に選択肢はなかった。

せめてヒノカミに攻撃しよう彼女に突っ込んだが、すぐに飛翔して距離を取られた。

彼女の移動先は観客たちの頭上、飛び上がった悟空を斜め上に捉えるような位置。

 

両手両足から爆風を放ち、炎の翼も使って加速して、回転しながら突進していく。

本来は上空から下降しながら使う技であり、これでは重力がプラスでなくマイナスに作用してしまう。

ならばとそれを上回る爆発を起こして加速し、激突。

 

 

「『榴弾砲(ハウザー)……着弾(インパクト)』ッ!!」

 

 

「うぎゃっ!?うわぁぁーーーーー……」

 

『孫選手、吹っ飛ばされたーーーーっ!!

 遥か彼方に飛んでいきます!

 これは場外負けかーーー!?』

 

「……」

 

この程度で悟空が諦めるなら、当の昔に決着はついている。

 

『……!あれは!?』

 

「そう、来るよな……」

 

かめはめ波を逆噴射し会場へと戻ってくる悟空。

しかし会場に近付いてきてもなお力を弱めず、それどころか更に加速してくる。

 

全力のかめはめ波を推進力としての突撃。

 

彼に残る力では持久戦は無理。

ならばヒノカミの強固な防御を抜く一撃を放つしかない。

 

避けるのは簡単だ。少し体を捻るだけで悟空は地面に激突し場外負けとなる。

しかし彼女は舞台の中央に立ち、両足を地に着け、両手を広げて悟空に『胸を貸してやる』。

 

『これは!?ヒノカミ選手、受け止めるつもりかーーーっ!?』

 

「それこそが親の、師の責務よ」

 

最初からそのつもりでこの状況を作り出したのだから。

ハウザーインパクトという技を見せ、距離を取らせれば、同じように返してくると思っていた。

 

静血装と聖光気、その他肉体の強度を上げる能力の全てを胴体前面に集中。

寸前でかめはめ波の噴射を止めた悟空が、右手一本に全ての力を籠める。

 

 

「くらぇえーーーーっ!!」

 

「こいやぁーーーーっ!!」

 

 

拳が胴体に突き刺さった瞬間、背中の炎で逆噴射。

舞台の上に二本の黒い焦げ跡の線を作りながらヒノカミは後退り、舞台の淵のギリギリで。

 

『と……止まった……』

 

「……ごぶっ」

 

「ばあちゃん!?」

 

今まで何をしても通用しなかったヒノカミが、盛大に血を吐き出した。

 

「ぐ、かか……流石に、堪えた」

 

「……へへ。あと一歩、届かなかったかぁ……」

 

「うむ、あと一歩じゃな。

 ……また、頑張れ」

 

「うん!」

 

全ての力を使い果たし、フラフラの悟空。

もう敗北を受け入れているようだが、最後まで戦うつもりで身構えている。

ならばとヒノカミは口元の血を拭って、こちらも右手を引き絞る。

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

そこで動きを止め、天を見上げた。

 

『……ヒノカミ選手、一体どうしましたか……?』

 

観客たちのどよめきすら聞こえておらず、ヒノカミは表情を歪めている。

 

「……何故……今更……!?」

 

「ばあちゃん?」

 

ヒノカミは仮面を被り、炎を纏い、剣を抜いた。

 

 

『ウォォォォォーーーーッ!!!』

 

「「「ひぃぃぃっ!?」」」

 

「急用じゃ!棄権する!」

 

「「「へ!?」」」

 

炎を背負った鬼はそう叫ぶと姿を消した。

 

「「「…………」」」

 

『……えぇと……ヒノカミ選手、棄権ということで……。

 勝者、孫選手と、します』

 

悟空すらも言葉を失う状況で、審判だけが冷静に職務を全うした。

 




原作でのタイミングが不明なので、試合中としています。
何が起きたかは次回。
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