『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第29話

準決勝第1試合。轟焦凍VS夜嵐イナサ。

A組とB組のトップ同士、友人同士の戦いだ。

 

「この試合、どうなると思われますか?

 解説の舞火さん」

 

「実況の真似事か?

 そうさの……まともな形で決着がつく可能性は低いな」

 

燈矢の小芝居に付き合い、舞火なりの予想を解説する。

 

「夜嵐の個性は広範囲の風を操る。

 舞台全域が奴の支配下じゃ。

 が、所詮は風。物理的な力自体はそう高くないんじゃよ。

 圧縮して威力を高めた攻撃でなければ氷の防御を貫くことはできまい。

 その隙を焦凍に晒すのは危険じゃから大技は使えんはずじゃ」

 

「?えぇと、焦凍が有利ってことでいいのかしら?」

 

「いや、焦凍から攻撃するのも難しい。

 安易に氷を使えば脆い部分を砕かれ、風で操る弾丸を与えることになる。

 それを使って更に氷を砕きネズミ算式に弾を増やしていくじゃろう。

 暴風の障壁には炎も相性が悪い」

 

「お互い決定打が無い、と言うことですね?」

 

「何もない舞台の上、過剰攻撃が禁止された試合だからこそじゃがな。

 普通の屋外戦なら夜嵐が弾丸にできる物なぞ溢れかえっとるし、焦凍も危険だから使えんだけで風の防御を抜く技は持っとる」

 

「では、どういった試合運びになると思われますか?」

 

「これはあくまで準決勝。

 まだ決勝が残っとる以上消耗は抑えたいはずじゃ。

 なんでどっちが奇抜な手で相手を出し抜くかが勝負の決め手になると思うんじゃが……。

 どうにも泥臭いやり方になりそうな気がするんじゃよなぁ……」

 

夜嵐は勉強ができないわけではないが、思考が単純で力押しに頼る傾向がある。

後の試合をことは考えず、親友でありライバルと認めた焦凍に全力で挑もうとする可能性が高い。

そうなれば焦凍もそれに対抗せざるを得なくなる。

消耗なく乗り切るのは無理だろう。あとはそれをどう少なくするかだ。

 

『準決勝第1試合!轟対夜嵐!スタートォ!!』

 

合図と同時に、焦凍は氷で自分の体を囲む小さな檻を作り出した。

 

「ねぇ!焦凍が自分で自分を閉じ込めちゃったけど!?」

 

「自分の体を固定し吹き飛ばされないようにしたんじゃ。

 夜嵐相手に最も警戒しなければならんのは場外負けじゃからの」

 

最終種目での彼は1回戦、2回戦とも相手を場外に出して勝利している。

人を巻き上げるほどの暴風を生み出し自在に操る彼を前に、わずかでも地面から足が離れればその時点で負けだ。

 

「とはいえこれで焦凍も身動きがとれん。

 どうやって勝つつもりでいるのか……おぉ?」

 

焦凍を覆っていた檻が、少しずつ大きくなっていく。

緑谷戦で見せたような速さではない。非常にゆっくりとした動きだ。

 

「これは一体どういうことなんでしょう!

 解説の舞火さん!」

 

「氷に絞ったか……焦凍は夜嵐相手に、逆に場外負けを強いるつもりじゃ」

 

氷の生成に時間をかけているのは、純度と密度を高め容易に砕けない強度にするため。

夜嵐が風を圧縮して攻撃するが、ヒビが入るだけで壊れるまで至らず、追加で注がれた冷気ですぐに修復されてしまった。

あれを壊して中の焦凍にダメージを与えるには熱を伴う爆発を扱う爆豪か、緑谷並みのパワーが必要だろう。

焦凍はこのまま檻を広げて舞台全体を覆うつもりだ。

冷気を注ぎ続けているので、檻に触れれば夜嵐の体も凍りかねない。

 

「!相手の子が空を飛んだ!」

 

だから夜嵐は舞台の上から離れるしかなくなるが、彼は飛行する個性を持っているわけではなく、個性を応用して飛べるというだけ。

応用は基礎以上に体力と精神力を消耗する。

いつまでも飛び続けることはできない。

力尽きて落下すれば、檻に飲み込まれ氷漬けになるか場外負けだ。

 

「しかしこのままでは焦凍もただでは済まん」

 

彼は炎と氷の個性をバランスよく使用することで自身の体温を調整している。

強固な氷を作ることに専念しているため、炎を出して暖を取るわけにはいかない。

今、氷の檻のど真ん中にいる焦凍の体温は見る見る下がっているはずだ。

 

「どっちが先に力尽きるか、根競べじゃな」

 

「……頑張ってー!焦凍ー!!」

 

冬美が力の限り焦凍を応援する。

状況がわからずにいた他の観客たちも解説のイレイザーヘッドが舞火と似たような推測を伝えたため、舞台の二人へ向けて声援が飛び交い始めた。

特にヒーロー科のA組とB組。

一部はこれを代理戦争のように捉えており、相手のクラスには決して負けるなと声を上げ始めた。

それから数分、焦凍は体を震わせながらもまだ立っているが、夜嵐が大きくふらつき始めた。

 

「最後の賭けに出たか」

 

夜嵐は焦凍の真上に移動し、上へ上へと昇り始めた。

すでに豆粒ほどに小さくなったところで残る僅かな力を振り絞って風を全身に纏い、重力を利用して急降下。

轟音を立てて氷の檻へと突撃を仕掛けた。

 

「……まだ余力があるうちにこの手を使っておけば、は結果論じゃな」

 

しかし届かない。夜嵐は何層もの氷を破壊して突き進むが焦凍の僅か上で止まった。

そして彼は個性の酷使と突撃の反動で意識を失っていた。

 

『夜嵐くん、戦闘不能!轟くんの勝利!』

 

舞台の端に避難していたミッドナイトが宣言。

それを聞いた途端、焦凍もその場で膝をついた。

震える体で必死に炎を出し、自分の体を温め始めている。

ミッドナイトが焦凍の状態を察知し救助しようとするが、彼自身が生み出した氷に阻まれて近づけない。

 

『セメントス、手を貸して!とにかくこの氷を……!?』

 

すると上空から強大な炎が降り注ぎ、すさまじい勢いで氷を溶かしていく。

この炎はどこから来ているのかと、焦凍やミッドナイト、観客たちが視線を向けると。

 

「よくやったぞ焦凍ぉぉぉぉおおお!!!」

 

「「「……」」」

 

息子の雄姿に男泣きするエンデヴァーから溢れ出る炎をヒノカミが操っていた。

 

「あーはいはい。今はなんぼでも泣け」

 

「ぬぉぉぉおおお!!」

 

「「「……」」」

 

火柱は美しいアーチを描いて流れ込み、凍りついた舞台を優しく温めていく。

父の愛に包まれた焦凍と、その様子を目の当たりにした観客たちの瞳は、この上なく冷めていたという。




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