『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第30話

準決勝第2試合は、舞火の予想通り。

弱点に気づいた爆豪が閃光を使い、常闇は一気に追い詰められ降参した。

 

想定より早く決着がついたため、教師は決勝に進んだ二人に長めの休憩をはさむことを提案。

焦凍は準決勝での疲労が激しく万全ではない。

そんな相手と戦うのは爆豪としても望むところではないため快諾し、焦凍は一旦治療室に運ばれることになった。

そして低温症に陥っていた焦凍の治療に、熱を操る舞火が駆り出されていた。

 

「なるほど、試合前にあらかじめ体温を上げておったのか」

 

「それでもギリギリだったけどな」

 

「いやぁ熱い戦いだったっスよ焦凍!」

 

「?寒かっただろ?」

 

気絶して同じく治療室に運ばれていた夜嵐だが、こちらもすでに目を覚ましている。

体には特に問題はないということだったが、念のため閉会式まではここで待機を命じられている。

 

「直接応援できないのは残念だけど、俺の分まで頑張ってくれよ!」

 

「あぁ」

 

焦凍は差し出された拳に拳をぶつける。

微妙にずれてはいるが、彼らの友情は確からしい。

観客席に戻る舞火と控室に戻る焦凍は、途中まで一緒に歩くことにした。

 

「……爆豪の方が、強いんだろ?」

 

「今のところはな」

 

「そっか……緑谷よりも強いのか……」

 

緑谷も楽な相手ではなかった。それ以上だという爆豪との戦いは更に厳しい物になるだろう。

 

「舞姉の言った通りだったよ。

 うかうかしてたら置いてかれちまう。

 ……退屈する暇もねぇな」

 

「かっか。良し良しじゃ」

 

久しぶりに昔のように焦凍の頭を撫でようとしたがすでに彼は小柄な舞火よりも大きく、上げかけた手を引っ込める。

 

「ほれ、もう行け。儂も席に戻る」

 

「あぁ……見ててくれよな」

 

舞火に背中を押され、焦凍は走り出した。

 

「……年を取ったわけじゃ」

 

来年の雄英体育祭に、舞火はもういない。

可愛い甥か、生意気な弟子か。どちらか一人の晴れ姿しか拝むことができないのだ。

 

「どちらか片方は見れるんじゃから、贅沢な悩みよな」

 

かっかっか、と笑いながら、舞火は家族の待つ観客席へと歩いて行った。

 

彼女が観客席に戻って間もなく、最後の戦いが始まる。

 

『さぁ待たせたなリスナー!!

 いよいよ雄英1年の頂点がここで決まる!!

 決勝戦!!轟対爆豪!!今、START!!』

 

プレゼントマイクが叫んだ瞬間、爆豪は巨大な爆発を放った。

焦凍は得意の氷と炎の滑走で避けたが、すでにそちらへ爆豪が迫っている。

追撃を躱しきれないとして氷の鎧で防御し反動を利用して離れるが爆豪が更に向かってくる。

焦凍は何とか距離を取ろうとしているが、爆豪を引き離すことができない。

 

「勝己には出久ほどのパワーはなく、夜嵐ほどの攻撃範囲と精密な操作能力もない。

 しかしそれ以外のすべてで彼らを上回る万能型じゃ」

 

遠距離範囲攻撃を持つから、距離をとっても強力な攻撃を仕掛けてくる。

破壊力があるから、頑丈な氷でも力づくで壊して進む。

緑谷と夜嵐に使った戦法は爆豪には通用しない。

 

「もちろん焦凍にも勝己より優れている点は多々ある。

 しかしこの試合形式において『近接戦闘』と『機動力』の2点で劣るのが致命的じゃ」

 

「速さってこと?でも最初の種目じゃ焦凍の方が速かったじゃない!」

 

「真っすぐ走るのと跳ね回るのは別物じゃよ。

 狭い舞台で重要なのは『最高速度』ではなく『加速力』。

 火を噴かせるより爆発の反動の方が瞬間的に強い力が出る。

 ……それに後半で勝己が追い上げてきたことを覚えておるか?

 あ奴の個性は動いて汗をかくほど出力が上がる」

 

「つっても、試合始まったばっかじゃ……あれ?速ぇぞ!?」

 

「先ほどの休憩時間中に運動して汗をため込んでいたようじゃな」

 

夜嵐に備えていた焦凍と同じだ。

しかし試合前に体力を消耗するような行為など普通なら考えない。

爆豪は持久戦を捨てている。

自分に出せる最大の力を発揮して、短期決戦を仕掛けるつもりだ。

 

「!焦凍が動いた!」

 

「氷の城を作って上に……空中戦じゃと!?」

 

焦凍も全く飛べないわけではないが、何とか宙に浮くことができる程度の推力しかない。

氷の城に立つ無数の柱の上を跳ねて移動するが、夜嵐以上に自在に空を飛べる爆豪に勝てるはずもない。

破れかぶれで馬鹿をするほど焦凍は愚かではない。

それが何かは舞火にもわからないが、狙いがあるはずだ。

 

「……しかしそれを成すまで待ってやるほど、勝己は甘くはない!」

 

爆豪の準備が整ったようだ。

試合前に体力を削ってまで調整したことで、ついに彼はトップギアに入る。

 

「っ!速度が増した!爆発が、肩からも!?」

 

個性を酷使し続けた彼は、いつしか掌以外の場所からも爆発する汗を出すようになり始めた。

そして編み出したのが舞火の、ヒノカミの戦い方を参考にした超高機動戦闘形態。

十分に汗をかいて体内で燃料を確保し、余剰分を両肩に回してそちらからも爆発を生じさせる。

掌と合わせて計4か所の推進力を得たことにより、更に速く自在に空を駆けることができる。

だが掌以外の部位は爆発に耐えられるほど頑強にはできていない。使い続けるほど自分の体を壊してしまう。

自分の身を顧みないという点まで師匠と同じ、文字通り自爆同然の必殺技だ。

 

(この試合に己のすべてをぶつけるか……見せてもらうぞ勝己!お主の覚悟を!!)

 

爆豪はまさに目にも止まらぬ速さで空を飛び、焦凍へと強力な蹴りを放つ。

彼は師へのかつての誓いを現実にしようとしていた。




…轟兄弟が場面説明に便利。気をつけないと頼りきりになりそう。
爆豪が全身でなく肩に絞っている理由はいくつかあります。
・掌に近いので爆発する汗を回しやすい。
・胴体に近いので推力を得やすく、可動するので向きをつけやすい。
・参考がヒノカミの戦闘スタイルだったので使い方がわかっている。
などです。欠点は肩の負傷と、腕全体への反動が大きくなること。前者はコスチュームがあれば改善できるでしょうが。
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