『ヤムチャ選手は前回、前々回も本戦に勝ち進んだ天下一武道会の常連!
孫選手とクリリン選手と同じく、武天老師さまのお弟子さんであります!
そしてヒノカミ選手!
彼女は前回大会にて残念ながら急用のため途中棄権となってしまいましたが、準優勝となった孫選手を1回戦で圧倒した強者!
今大会における優勝候補の一人です!』
ヒノカミは既に上着を脱いでいる。
今回は最初からギアは全開、手を抜くつもりはない。
勿論、天下一武道会のルールに則った範囲内でだが。
「……思えば、オレが最初に敗北を経験したのはアンタだったな」
ヤムチャと悟空の初会合では悟空が空腹で力が出せなかったり、ヤムチャがあがり症だったのでブルマを前に硬直したりで、勝敗は有耶無耶になっていた。
だからその後でヤムチャと戦い圧倒したヒノカミが、彼に初めて土を付けた人物ということになる。
「いい加減、連続一回戦負けなんて不名誉も払拭したいんだ。
……勝たせてもらうぞ!」
「くかかか、威勢がいいのぅ。
……端末相手ではなく、本体相手に言ってくれんか?」
「…………」
「黙るな」
『それでは第4試合!始めてください!』
ヒノカミは即座に炎の翼を背負い、ヤムチャは気を集中し始めた。
『エネルギーの半物質化と装甲化』。
ヒノカミが『聖光気』や『オーバーソウル』と呼ぶ類の能力であり、それらを総合して一つの技として完成させたのが『天神武装』だ。
第一段階で体の表面にエネルギーの駆動鎧を纏い、第二段階で本家の聖光気やオーバーソウルのように武装として特定の形に圧縮、第三段階で武装は特殊な能力を発現する。
自身の生命エネルギーと引き換えにパワーやスピードを大幅に強化するが、最も効果が表れるのは防御面。
物理的な衝撃だけでなく暑さや寒さ、呪いや超能力などの干渉すらも防ぎ、怪我の治りも早まる。
極めれば深海や宇宙空間でも活動できるようになり、手足や臓器の欠損すら自己再生するようになるとか。
弟子入りしたヤムチャたちがこぞって習得しようとしたのも当然である。
しかしこの技法には『とある欠点』があり、ヒノカミが付きっ切りで教えたわけでもないので容易には習得できなかった。
悟空たち6人の中でも今のところ第一段階を全身で発動できるようになったのはクリリンだけ。
彼のエネルギーコントロールに関する才能が如何に抜きんでているかがわかるというもの。
だがヤムチャにも一部だけだが、クリリン以上に気を集中し制御しやすい部位があった。
それは彼の代名詞とも言える『狼牙風風拳』を操る両腕。彼は腕に限定すれば第二段階にまで至っている。
両手の肘から先を気が覆い、手甲となる。
まるで逆立つ毛のように溢れる気と指先の鋭い爪は、まさしく『狼』。
「『神・狼牙風風拳』!!」
爆炎や瞬歩などの高速移動手段を持つがヒノカミのスタイルはパワーファイター。
対するヤムチャは速さと手数を生かしたスピードファイター。
修行により成長した彼の速度に端末のヒノカミは追いつけない。
全身の防御を固めつつ相手が攻撃してくる場所とタイミングを予測し、カウンター狙いで拳を突き出す。
読みは正確。確かにヤムチャは拳を突き出した先に現れたが、彼はその拳をギリギリで回避し、ヒノカミのわき腹に両手を叩きこむ。
「はぁっ!!」
「がっ……!」
掌が直撃する瞬間に纏っていた気の手甲が勢いよく伸びる。
それはまるで杭打ち機のようにヒノカミの胴体を突き飛ばし、体の内側にダメージを浸透させる。
「っんの!」
「ふっ!」
ヒノカミは突き出したままの右手を爆発させるが、ヤムチャは巻き込まれる前にその場を離れた。
後ろにではなく、上へ。
そして彼は空中に足場があるかのように一度跳ねてヒノカミの斜め後ろへ、そしてもう一度跳ねてヒノカミの背後に着地する。
「はいっ!」
「んぎっ!?」
そして追撃、即座にその場を離れまたヒノカミの隙を見つけ出して追撃を加える。
手甲はヤムチャ自身の腕とは別の動きをする。
伸びたり広がったりと、獣の腕の挙動は変幻自在。
ヒノカミは防御とカウンターを狙うがうまくいかず、一方的に攻撃を受け続けている。
『な、なんという速さでしょうか!?
ヤムチャ選手の姿は全く見えませんが、彼の光る両腕の軌跡がまるで網のようにヒノカミ選手を取り囲んでおります!
全方位からの滅多打ちーーーーっ!』
オマケに彼は舞空術だけではなくヒノカミの瞬歩や飛廉脚に似た歩法も習得しており、宙を飛ぶのではなく跳ねている。
急激な方向転換を繰り返すので動きの予測も難しい。
「……ふんっ!」
「ぐぅっ!?」
ヒノカミは防御の姿勢を取り炎の翼で全身を覆った。
するとヤムチャが攻撃を加えた瞬間に炎の翼の表面が爆発した。
腕は翼を貫きヒノカミに届いたが、胴体が爆風に煽られ吹き飛ばされる。
ヒノカミは追撃を考えたがヤムチャが空中で回転し、地面に四つ足で着地するのを見て断念する。
「……っとに、なんで真っ先にお主に当たってしもうたかなぁ」
「ふっ、光栄だな!」
ヤムチャは天界での修行で獣を模した動きを更に進化させ、天地を縦横無尽に駆け巡って猛スピードでラッシュを繰り出す近接戦闘のエキスパートと化した。
不足気味だった攻撃力も気の手甲で強化されており、ヒノカミの多重防御すら貫きダメージを与えてくる。
悟空達の中で最もヒノカミとの相性が良く、肉体のスペックがほぼ同じである端末が相手なら最も勝率が高いのも彼である。
ヒノカミは全身を白い炎で覆って表面の傷を癒す。
しかし内側にまで浸透するほどのダメージを修復するのは結構な量のエネルギーを消耗する。
それが分かっているから、ヤムチャもこの間に自分の呼吸を整えることに集中している。
回復を止めようと焦って攻めに転じれば、カウンターを受ける確率が高いからだ。
『素晴らしい戦いです!一進一退の攻防!
会場中がお二人に声援を送っています!!』
何をやっているかはよくわからないが、とにかく派手で見ごたえがある。
アナウンサーの言う通り観客たちはヤムチャとヒノカミを応援している。
そして声援は舞台裏からも。
「ヤムチャさーーーん!
やれーーっ!ぶっ飛ばせーーーーーっ!!」
「ヤムチャ、頑張れーーーーーっ!」
「行けぇーーーーーーっ!
ヤムチャぁーーーーーーっ!!」
「おい貴様らぁ!!」
尊敬はしている。
感謝もしている。
でもそれはそれとして恨みはある。
強くなることを望んだのは自分たちとは言え、修行の過程で何度も殺されているのだ。
殺意が滲んだっていいじゃない。
「何をしているヒノカミ!!」
「ピッコロ……!」
「貴様を殺すのはこのオレだぁーーーー!!」
「何故儂の味方がおらんのじゃぁああ!!?」
唯一ヒノカミの味方となり得る悟空は控室の奥でチチに抱き着かれており、身動きが取れずにいる。
ヒノカミとヤムチャの戦いが気にはなったが天界で何度も見ており、今まで散々ほったらかしていた負い目もあって悟空はチチの傍にいることを選んだ。
「おのれぃ、かくなる上は!
審判、降りよ!」
『ハイハイ!』
前回大会に続き2回目なのでスムーズに答えてくれた。
ヒノカミが炎の翼を広げ舞台全体に炎をまき散らす。
「……っ!このやろっ!!」
「くかかかかかか!!」
気付いたヤムチャが慌てて攻めに転じる。
舞台の上の気温が異常な速度で上昇し始めているのだ。
『こ、これは!武舞台の上が霞んで見えます!
蜃気楼でしょうか!?……熱っ!?』
審判が場外から舞台の上に手を伸ばすと、ヒノカミが制御している境目を超えた瞬間に指が熱された空気に触れた。
今この舞台の上の空間は真昼の砂漠すら生温い超高温地帯となっている。
これに耐えられるのは種族特性からか気温の変化に強いピッコロと、『天神武装』第一段階を全身で発動できるクリリンだけ。
そしてヤムチャは舞台の外からヒノカミを倒せる技を持っておらず、暑さで自分が倒れる前にヒノカミを倒さねばならなくなった。
時間がないと両腕に力を集中させて突撃する。
「くくく……『
「何ぃっ!?」
「起爆じゃあああ!!」
ヒノカミが周囲にまき散らしていた炎と熱が、彼女の合図で舞台の上の至る所で圧縮され火球となる。
そしてその全てが一斉に爆発した。
「ぐあぁぁぁぁぁぁあっ!!!!」
『っ!ヤムチャ選手場外!
ヒノカミ選手の勝利です!!』
老獪さと悪辣さでは、まだヤムチャはヒノカミには敵わなかった。
炎と熱をまき散らしたのは短期決戦をせざるを得ない状況にしたことでヤムチャの意識と気を攻撃に集中させ、防御を捨てさせるため。
そんな状況で舞台全体を爆発すれば、爆風に耐え切れず吹き飛ばされる。後は宙に投げ出されたところを場外に叩きつければ良い。
「くかかかか……ゲホッ」
自爆ダメージは無視できなかったが。
熱は防げるが爆発の衝撃は受けるし、全身防御はヒノカミと言えど強度が落ちるので。
加えてこれもまた『場外が存在する』天下一武道会だからこそ通じる手段。
まともな勝ち方ではないのでできれば避けたかった。
「ずるいとか言うなよー。
儂に言わせればお主らの成長速度の方が、よっぽどずるいんじゃからな?」
『これにて1回戦は全て終了いたしました!
舞台整備のための休憩を挟み、その後2回戦第5試合を開始します!』
『天神武装』は『聖光気』のように全身をエネルギーで覆い、やがて仙水のような『鎧』あるいは甲縛式オーバーソウルのように『武器』の形として圧縮する能力となります。
更に極めるとオーバーソウルや斬魄刀のように特殊な能力を発揮するようになるわけです。
ヤムチャの武装は『GS美神』の横島が使う『ハンズ・オブ・グローリー』のような形をしています。
剣には変化しないけど片手ではなく両腕、腕や爪が伸びたりする。
それがヤムチャのスペックで振るわれたらえらいことになります。