ヒノカミの身体能力には、明らかに偏りがある。
ディフェンスが飛びぬけて高く、次にパワー。そしてスタミナ。
これらに対してスピードが明らかに低い。勿論常人よりは遥かに速いが。
瞬歩という歩法もあるが直線にしか移動できず移動距離もさして長くない。
爆風の反動を利用した移動は肉体への負担が大きく効率も良くない。
ではなぜ彼女は明らかな欠点を放置しているか。
簡単だ。
自在に瞬間移動ができるからスピードを鍛える必要がほとんどない。
「ついに転移を解禁しやがったか……。
まったくよく避け続けられるもんだぜ、ピッコロはよ」
上空の二人を見上げてヤムチャが呟く。
『転移で自分の傍に現れたヒノカミの攻撃が、自分に届くまでのわずかな時間に攻撃を見切る』。
チャオズならば彼女がいつどこに現れるかわずかな前兆を察知できるが、ピッコロは全く予想ができないはずだ。
直感と反応速度頼りで避け続けるだけでなく何度かカウンターすら仕掛けているのは大したものだ。
「ただでさえ硬いのに、鎧まで出されちゃあな。
あのパワーで不意打ちがほぼ成功するって反則だろ……」
しかしカウンターが成功したところで多少揺らぐくらいで、まるで堪えた様子がなく構わず攻撃を仕掛けてくる。
全くのノーダメージではないだろうが回復手段とエネルギー吸収手段を持っている彼女相手では効いていないも同然だ。
「……改めて考えりゃ、マジで完成されてやがる」
パワーを鍛える必要はない。絶対切断能力を持つ武器があるから。
スピードを鍛える必要はない。自在に転移することができるから。
スタミナを鍛える必要はない。エネルギーを吸収する技能と武装を持っているから。
よって鍛えるべきはディフェンスだけ。
だから彼女は防御力が突き抜けており、加えて自己治癒能力で負った傷をすぐに消してしまう。
ヒノカミは天界での修行中の組手では鎧を出さなかった。
おそらく、出したら勝負が成立しないとわかっていたから。
事実上手加減されていたようなものだ。
「わかっちゃいるが、悔しいもんだな。
……負けるなよ、ピッコロ」
――――……
(おのれぇっ!実際に相手にすればこうも厄介だとは!!)
ピッコロには前世の、大魔王だった頃の記憶が残っている。
3年前の大魔王との戦いではヒノカミは鎧を使っていた。その防御力に苦戦した記憶は確かにあるが、最終的には打ち破っていた。
貫通能力を高めた気弾で装甲を穿ち、貫手で胸に風穴を開けた。
しかし今は状況が違いすぎる。
当時のヒノカミは大魔王よりも弱かったが、今の彼女はピッコロと同格以上。
今は試合中なので一対一だが、周囲には悟空らや先代が控えている。
既に神である本体と関わりがあるため、本体が動く口実が用意できる。
殺しても蘇生できるのだからピッコロへの加減を考えなくて良い。
そして最悪なのがピッコロの『気質』を把握されていること。
『霊光鏡反衝』で吸収・反射されかねないので安易に気弾が使えない。
だがピッコロとてこの状況を想定していなかったわけではない。
ヒノカミがピッコロを観察し把握したように、ピッコロもヒノカミを観察し把握しようとしていた。
……すればするほど本体との実力差に絶望しかけたが。
(っ、忘れろ!今はコイツだ!
端末すら倒せんようでは本体を殺すなど夢のまた夢!)
ピッコロは『攻撃を回避するだけで精一杯』という振りをして、右手の指先に気を集中させていた。
ヒノカミの攻撃を防いだりカウンターを入れるのはほぼ左腕だけで行っている。
故にその左腕はすでにボロボロ。これ以上誤魔化すのは限界に近い。
おそらく自分が何かを企んでいると、ヒノカミは気付いているはず。
だが行動を変えてはこない。
何をしてくるのかと楽しみにしているのか、あるいは何をしてきても無駄だと思っているのか。
いずれにしてもピッコロにとっては耐え難い屈辱だ。
(さぁ来い……吠え面をかかせてやる!!)
ようやく反撃の準備は整った。
ヒノカミはまたも転移しピッコロへと拳を振り下ろしてくる。
ピッコロはその拳を避け、伸びた鬼の腕を左腕とわき腹で抑え込んだ。
「!?」
鎧に削られわき腹が抉られた。
左腕もほぼ千切れかけ。しかし決して離すまいとなおも力を籠める。
『外部から大きな干渉を受けると転移が難しくなる』。
これもヒノカミ自身が明かした弱点だ。
本体ならともかく、端末では相手に強く掴まれると転移ができなくなるらしい。
「喰らえ……!」
ピッコロは鬼の胸部装甲に、伸ばした右手の二本の指を押し当てていた。
「『魔貫光殺法』ーーーーーっ!!!」
吸収させる隙など与えない、ゼロ距離からの必殺の光線。
それは確かに鬼の装甲を貫き、胸部に大きな風穴を開けた。
「くっ……ははは!ははははは!やったぞ!!」
攻撃は通用した。
間違いなく倒した。
そう確信してしまったピッコロは、ヒノカミがもう一方の腕を振り上げていることに気付くのが遅れた。
「惜しかったな」
「なんだとっ!?」
振り下ろされた拳に打ちすえされ、ピッコロは上空から地上に超スピードで落下する。
このままいけば落ちる場所は観客席のど真ん中。
「いかんっ!!」
一番近い場所に控えていたのは天津飯だった。
彼は分身を生み出して二人がかりでピッコロを受け止める。
観客たちの少し上で止まり、何とか被害を出すことは避けられた。
「「無事か、ピッコロ!」」
「ぐぐっ……くそぉ、何故だ!」
「いやぁ、本当に惜しかったの」
二人の天津飯に支えられ宙を浮くピッコロの正面に、ヒノカミが転移してきた。
「狙いは良かった。
お主の一撃は、確かにこの端末を動かす『核』を貫く威力であった」
「ならば、なぜ!?」
「バレた弱点をそのままにしておくはずがなかろう?
修繕すると同時に、埋め込む場所を変えておるわい。
本気で殺すつもりなら『ココ』を狙うべきじゃったな」
「……!」
かつて大魔王はヒノカミの胸部に埋め込んであった『核』……『霊界の至宝』を破壊した。
それは端末を動かすエネルギーを蓄えるタンク。
破壊されれば端末を満足に動かすことはできなくなる。
そしてヒノカミの『核』は今彼女が指さしている『頭の中』にあった。
簡単に核の位置を変えられると思っていなかったピッコロの失敗だ。
「……くそっ!」
天津飯が受け止めなければ場外負けだった。
いや、すでに力を使い果たし体もボロボロ。
これ以上の戦闘継続は不可能だ。
「……オレの、負けか……!」
「いや、儂の負けじゃな」
「「「……は?」」」
彼らがいるのは観客たちのすぐ上。
だから周囲の者たちにはピッコロの敗北宣言も、それに割り込むようなヒノカミの敗北宣言も聞こえていた。
……ただし離れた場所にいる審判には聞こえていなかった。
「よっと」
『!?ヒノカミ選手場外!
ピッコロ選手の勝利です!!!』
だから彼は武装を解除し地上に降りたヒノカミを見てそう宣言してしまった。
「いつつつ……悟空ー、仙豆くれー。
儂とピッコロの分なー」
「あ、あぁ!」
「待てっ!どういうつもりだ!?」
どてっぱらに穴が開いたままでは不味かろうと見た目は取り繕ったが、体の中は酷い有様だ。なんだかんだとヒノカミもかなりのエネルギーを消耗しており、この傷を完全に修復するほどのエネルギーを周囲から集めるには時間がかかる。
だが核が無事なら人間と同じように仙豆で回復可能だ。
舞台裏から試合を覗いていた悟空から二つの豆を受け取り、一つをピッコロに投げ渡しもう一つを口に放り込む。
勝敗に納得できないピッコロは、当然喰いかかった。
「胸を貫かれたんじゃぞ?
まともな生き物なら確実に即死じゃろ。
その時点で儂の負けじゃ」
「だが貴様は生きていただろう!?」
「結果論じゃよ。
お主が納得できていないように、儂もこれを勝ちと認めるのは納得できぬ。
転移を解禁し、疑似的に鎧まで纏ってこれではな」
「それを言うなら全力を出せばとっくにオレを殺せていたはずだ!」
「そしたらどっちにしろ試合として反則負けじゃろ。
ウダウダ言う前に、決勝で悟空と戦ってこい。
そんでもう一皮向けてこい。
今度はこんなギリギリではなく、確実に勝ちを拾えるようにな」
「くっ……!」
「諦めろピッコロ。
ヒノカミさまがどれほど頑固かお前も知っているだろう?
それに『今度』ということは、また相手をすると約束しているわけじゃないか」
「……んんっ!?
あー……まぁ、そうとも取れるか……?」
ヒノカミはそこまで深く考えていなかったが、どうやら言質を取られてしまったらしい。
「……今回は勝ちを譲ってやる!
だが次はないぞ!首を洗って待っておくがいい!!」
「いやお主が勝ち抜けするんじゃろ……まぁえぇか。
そんじゃ悟空。決勝、頑張れよ」
「……うん!」
『それではもう一度休憩を挟み、その後決勝戦を行います!
皆さま、素晴らしい試合にご期待ください!!』
核の移設の案は『封神演義』の『哪吒』から拝借しました。
彼も心臓部から頭部に核が移されているので、そのまんまです。
やはり決勝は原作通り悟空VSピッコロにしたかったので、殺意溢れる彼から殺されないようにしつつ勝ち上がらせるというのは、落としどころが非常に難しかったです。